Photo by Dr.Colossus

戦いは、キックオフの前から始まっていた。

君が代を掻き消す大ブーイング。
日本の国歌は、中国の観客たちの悪意に満ちたヤジと罵詈雑言で塗りつぶされた。

それが 19歳以下の選手たちに向けられたものであることに、僕はこれまでにないほどの不快感を覚えた。

「絶対に負けられない戦い」、AFC U-19選手権

来年の U-20ワールドカップの予選を兼ねた、AFC U-19選手権。

上位4チームにワールドカップへの出場権を与えられるこの大会で、日本の目標はもちろんベスト4以上ということになる。
しかし選手たちは口々に「優勝を目指す」と声を揃えた。

過去のこの大会で、日本は準優勝が6回。
ただし、優勝経験は1回もない。

そして2年前の大会ではベスト8で宿敵・韓国に敗れ、7大会連続で獲得していた、世界大会への出場権を逃していた。

フル代表は今年の南アフリカワールドカップでベスト 16に進出した日本だけれども、ほんの 10年ちょっと前までは、ワールドカップに出たこともないアジアのいち弱小国に過ぎなかった。

その日本がこれほどの短期間で成長することができたのはJリーグの存在もさることながら、年代別の世界大会にコンスタントに出場することで、国際経験を積んできたことも大きい。
かの中田英寿や稲本潤一が、全ての世代の世界大会に出場して成長を遂げたことなどが、それを証明しているだろう。

日本にとっては、掛け値なしに「絶対に負けれられない戦い」。
それがこの AFC U-19選手権なのである。

「完全アウェー」の戦いを強いられた日本代表

この大会、日本は初戦から大一番を迎えていた。

グループリーグ第1節。
相手は UAE。

2年前の前回大会の優勝チームであり、その大会で当時 17歳で得点王と大会 MVPに輝いた、アハメド・ハリルというスーパーエースを擁する。

日本にとっては非常に危険な相手だった。

そしてそれと同じくらいに日本を悩ませたのが、地元ファンからの激しいブーイングである。

この大会は中国で行われている。

中国は日本に対する歴史的な因縁と、近年の教育現場における歴史教育の影響もあって、反日感情の非常に高い国である。
そしてそこに、最近の尖閣諸島の領有問題が絡んで、日本に対する敵愾心はさらなる増幅を見せていた。

同じ中国で開催された 2004年のアジアカップでも経験したように、試合会場では終始、日本に対する地鳴りのような大ブーイングが浴びせられた。

さらに試合前には、掲揚されていた日本の国旗を引きはがした男が、試合会場に乱入するという事件も発生。

まさに「完全アウェー」の雰囲気の中、日本の若武者たちは、精神的にも非常に難しい状況での戦いを余儀なくされたのである。

最悪の立ち上がりを見せた日本代表

この極めて難しいゲームで、試合の立ち上がりから日本は、立て続けにピンチを招いてしまう。

運もあって失点にこそ繋がらなかったものの、いつゴールを奪われてもおかしくないような、決定的な場面を UAEに何度も作られた。

日本の MF、酒井高徳が試合後に振り返ったとおり、そこには「試合前の事件のこともあって、必要以上に力んでしまった」影響もあっただろう。

しかし UAEもさすが前回チャンピオンだけあって、巧みな足技で軽快にパスを繋いでは、次々とチャンスを創りだしてくる。

特に前述の FWアハメド・ハリルと、MF オマール・アブドゥルラハマンとのホットラインは、何度も日本の最終ラインに冷や水を浴びせた。

そのUAEの技術とスピード感あふれるカウンター、そして守備網の前に、後手に回り続ける日本。

いつ得点を奪われてもおかしくないような、圧倒的に押し込まれる展開が続いた。

ちなみに日本はこの試合、絶対的エースと目されていた宇佐美貴史を先発メンバーから外している。

この世代は宇佐美を筆頭に、昨年の U-17ワールドカップを戦ったいわゆる「プラチナ世代」の世代になるけれども、実際はまだ宇佐美たちよりも1歳上の選手たちが中心。
メンバーを見ても、「プラチナ感」はそれほど強くは感じられない、堅実なメンバー構成だったと言っていいだろう。

だからというわけではないけれども、前半の日本は、ギクシャクしたプレーぶりに終始する。

ボールを奪ってからも攻撃が遅く、足元へのパスやバックパスばかりで、攻撃に迫力のない日本。

唯一、左サイドハーフに入った酒井高徳の突破力だけは目立っていたけれども、そのほかはひたすら防戦一方の展開。

けっきょく日本はシュート0のまま、スコアレスで前半を終える。
内容的にはむしろ、スコアレスで助かった、と言えるほど悲惨な内容だった。

流れを変えた「絶対エース」、宇佐美貴史

迎えた後半、日本はいよいよ宇佐美貴史を投入する。

宇佐美の登場によって、試合の流れは目に見えて変化した。

宇佐美の積極的なチャレンジがきっかけとなって、明らかに日本の前線にリズムが生まれる。
特に、前半はほとんど沈黙していた右サイドが活性化した。

そしてその「宇佐美効果」は、すぐに目に見える結果として現れることになる。

53分、宇佐美貴史の強引なドリブル突破から、左サイドの酒井高徳へボールが渡る。
そして酒井が中央の指宿洋史を狙ってクロス。
このボールを UAEディフェンダーがカバーリングに入ったところで、日本に幸運が訪れる。

UAEがこのクリアーをミスキックして、オウンゴールが生まれたのである。

前半、圧倒的に攻めまくっていた UAEからしたら、信じられない失点だっただろう。
日本はなんとシュート0本で1点を先制してしまう。

しかしその背景に、ガチガチだった日本の攻撃に変化を与えた、宇佐美貴史の存在があったことは間違いないだろう。

宇佐美はその後も強引なドリブル・シュート、トリッキーなパスで、日本の攻撃を牽引し続けた。

しかし UAEも当然、このままあっさりと負けるわけにはいかない。
同点を狙って、引き続き攻めこんでくる UAE。

それでも日本の守備陣も、徐々に安定感を取り戻し、集中した守りでアハメド・ハリルらを抑えこむ。

後半の 70分ごろからは、UAEもさらにペースを上げて怒涛の猛攻をしかけてくるものの、日本は GK川浪吾郎のファインセーブもあってゴールを割らせない。

後半も決して日本ペースではなかったけれども、日本の勝利がいよいよ現実味を帯びてきた。

しかしそこは前回チャンピオン。
UAEは最後の最後で、執念を見せつける。

ディフェンディングチャンピオンの見せた執念

試合も終了間際となった 90分。
UAEにフリーキックが与えられた。

ゴール右寄りの位置。
キッカーはオマール・アブドゥルラハマン。
その左足から放たれたボールの行き先は、やはりホットラインを組む「あの男」だった。

鋭い弾道を描いたボールは、ゴール前で待つアハメド・ハリルの足元へ。
ハリルがこれをゴールマウスへ流しこんで、UAEに同点ゴールが生まれる。

中国人ファンたちから、割れんばかりの大歓声が起こった。

土壇場で追いつかれた日本。
ゲーム内容を考えれば、このまま引き分けもやむなしか…。
そんなムードも漂い始めていた。

しかしこの日に日本に舞い降りた幸運は、まだ尽きていなかった。

失点直後のロスタイム。
左サイドをオーバーラップした阿部巧がクロスを上げる。

ただ、ミスキックになったこのボールは、1度は UAEゴールキーパーにキャッチされてしまう。
しかしなんと、GKがこの何でもないボールをファンブル。
そのこぼれた先に立っていたのが、指宿洋史だった。

指宿がこれを冷静に流し込み、日本にあっという間の勝ち越し点が生まれたのである。

けっきょくこれが決勝点となって、試合はタイムアップ。

前回チャンピオンと対戦したこの難しい初戦を制して、日本は最高のスタートを切ることに成功した。

宇佐美貴史に漂う「エースの風格」

試合後、宇佐美貴史は「先発を外されて、悔しさがあった。オレが出たら違うぜ、というのを見せつけようと思った」と認めた。
頼もしいくらいのふてぶてしさである。

事実、宇佐美の投入後、ゲームの流れは明らかに変化した。

「完全アウェー」の雰囲気、デコボコのピッチ、UAEの攻撃力の前に、他の選手たちが持ち味を発揮できない中、ひとり「いつもどおりのプレー」を見せ、軽快にピッチで躍動していたのが宇佐美貴史だった。

「前回チャンピオン?前回 MVP?だからどうした。アジアナンバーワンはこのオレだ」。

そんな声が聞こえてきそうなほど、宇佐美のプレーからは「エースの風格」とも言うべき雰囲気が漂っていた。

こんな日本人選手は珍しい。
まさに中田英寿や本田圭佑に続く、「日本のエース」の器である。

宇佐美の活躍や幸運もあって、スタートダッシュに成功した日本。

残るグループリーグの相手はベトナムとヨルダン。
油断は禁物だけども、UAEに比べれば勝ち点の計算できる相手には違いない。
日本のグループリーグ突破、しかも1位突破が、かなり現実味を帯びてきたと言ってもいいと思う。

しかしこの日のゲーム内容が、勝利という結果に値するものだったとはとても言えないだろう。
今後も今日のような試合が続くようであれば、決勝トーナメントでの苦戦は必至だ。

さらに日本はどこまで勝ち進んだとしても、「完全アウェー」の雰囲気の中、中国の観客というもう一つの敵とも戦わなければいけない。

ただしこの日の殊勲者のひとり、酒井高徳は試合後、「僕たちのサッカーは、普段はこんなに悪くない」。
と語っていた。

それが真実であれば、次の試合からは、また違った日本代表の姿が見られるはずである。

完全アウェーの地で迎える「絶対に負けれられない戦い」。

アジアの頂点まで、その残りは、あと5試合。

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