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もう何年にも渡って、「小野と言えば」「伸二」だった。
余談ながら、さらにはるか昔は「小野と言えば」「ヨーコ」だった。
一瞬、「正利」だった時代もある。
それはさておき、サッカー界においてもう 10年以上に渡って築かれてきた、「小野と言えば伸二」というブランド。
これまでもこの「小野と言えば◯◯」の座を、小野伸二から奪取しようと、数々の刺客が現れた。
その代表格を何人か挙げるとすれば、現在横浜FCでプレーするチーム最古参プレイヤー、小野智吉(おの・ともよし)。
かつて水戸ホーリーホックでチーム得点王にもなった小野隆儀(おの・たかよし)。
極めつけは、横浜FCでプレーし、華麗な足技からハマのファンタジスタと呼ばれた小野信義(おの・しんぎ)という一文字違いの猛者まで飛び出した。
しかしいずれも、小野伸二から「小野と言えば◯◯」の称号を奪い取るまでには至らなかったのである。
しかし今年、一人の小野姓の少年が、Jリーグに彗星のように現れた。
前置きでだいぶ引っ張ったので、 95%以上の読者の方がもうお気づきだろう。
そう、横浜マリノスの超新星、小野裕二(おの・ゆうじ)である。
マリノスに現れた超新星、小野裕二
サッカーをプレーする少年が「小野」という苗字だった場合、誇らしさを感じる反面、一種のプレッシャーにもなるのかもしれない。
「小野」を名乗る以上、何となく人よりサッカーが上手いような期待感を持たれてしまいそうである。
ちなみに「三浦」くんとか「中田」くんも同じような悩みを抱えているだろうと僕は推測している。
まして「小野裕二」というかなりニアピンな名前を授かって生まれてきた少年は、いやが上にも小野伸二の姿を連想されてしまうだろう。
しかし小野裕二は、他の小野くんたちとはひと味違った。
ついに日本サッカー界は、「小野と言えば〇〇」の後継者を見つけそうな勢いである。
この日の横浜マリノスは、中村俊輔と中澤祐二という好守の軸を欠いていた。
そんななか抜擢されたのが、若干 17歳の高校3年生、小野裕二である。
小野裕二は同じマリノスユース出身の端戸仁と2トップを組んで、若い力で大黒柱の穴を埋めることを託された。
それは小野裕二の才能を高く評価する、木村和司監督の期待の現れでもあっただろう。
そして小野裕二は、その期待に違わない素晴らしいプレーを立ち上がりから披露する。
持ち味の果敢なドリブル突破を図ったかと思えば、積極的にシュートも狙う小野裕二。
さらにそれだけでなく、前線から精力的なチェイシングも見せて、ディフェンス面でも大きく貢献していた。
そしてちょっとしたトラップなどの何気ないプレーでも、端々から高いサッカーセンスの香りが漂う。
小野裕二のプレーは、確実にマリノスのアタックを牽引する役割を果たしていた。
その小野の勢いに触発されてか、マリノスはチームとしても好パフォーマンスを見せる。
ただしヴィッセル神戸もボッティのゲームメイクから、大久保嘉人が何度か惜しいシュートを放つなどしてこれに対抗。
前半はややマリノス優勢ながら、おおむね互角の展開が続いた。
小野裕二、嬉しいJリーグ初ゴール
迎えた後半、試合は大きな局面を迎える。
59分、ヴィッセル神戸の DF河本裕之が、2枚目のイエローで退場処分。
ここから試合は、一気にマリノスペースへと傾いていく。
そしてその追い風の中、ついに若武者が決定的な仕事をこなす時がやってきた。
64分、ゴール前中央でボールを持った小野裕二は、兵藤慎剛へとパスを出す。
そして兵藤からのリターンパスを受けた小野は、このワンツーリターンで DFのマークを外すと、ボールをヴィッセルゴールの右隅に冷静に蹴り込んだのだ。
このシュートが決まって、小野裕二が嬉しいJリーグ初ゴールをゲットしたのである。
同時にこれは、マリノスの史上最年少記録も更新する、記念すべきゴールとなった。
試合を決めた決定的ワンプレー
しかし小野裕二は、これだけでは終わらなかった。
木村和司監督が「将来の日本を背負って立つ」と惚れ込む大器の理由は、プレーだけでなくそのメンタルの強さにもあるのかもしれない。
ゴールを奪ったあとも、小野裕二は果敢に2点目を狙いに行った。
そして得点にこそならなかったけれども、GKと1対1になるような場面も創りだす。
1ゴールで満足しない貪欲さは、それが高校生ルーキーであることを忘れさせるほどのものだった。
この日に限れば小野裕二の動きは、対戦相手のエース、日本代表の大久保嘉人と互角かそれ以上のものだったと言っていいだろう。
そして 84分、そんなこの日を象徴するような場面が生まれる。
フィールド中央、ボールとは関係の無い場所で、大久保嘉人と小野裕二がニアミスする。
2人が交錯した瞬間、小野裕二がもんどり打って倒れた。
審判はこれをはっきり見ていなかったように思えたけれど、即座に大久保嘉人にはレッドカードが突きつけられた。
狐につままれたような表情で、納得いかないという意思表示をする大久保嘉人。
しかし、主審の判定は覆らない。
けっきょく大久保は、ぶ然としながらもピッチを後にした。
正直なところ、僕にはこの時に、2人が激しく接触したようには見えなかった。
小野裕二は「足を踏まれた」と主張し、大久保嘉人は「激しい接触は無かった」と主張する。
真相は藪の中だけれども、何にしても相手のエースを退場に追い込んだ小野裕二のこのプレーで、試合は完全に決したのだ。
小野裕二は後半ロスタイムに交代するまで、90分以上をプレー。
そしてマリノスは 1-0で勝利して6位に浮上。
ヴィッセルは降格圏内から脱出することができず、16位に留まったのだった。
小野裕二、未来へ刻んだ第一歩
僕が小野裕二のプレーを観るのは、今回が初めてではない。
ただし、僕がこれまで何度か観た時の小野裕二は、あまり芳しくないプレーに終始していた。
それに対してこの日のゲームは、まさに心身ともに絶好調と言えるだけのプレーぶり。
僕個人としても、その大器の片鱗を初めてうかがえた記念すべきゲームとなった。
試合後のヒーロインタビューは、もちろん小野裕二。
お立ち台でインタビューを受ける若きヒーローは、プレーとは裏腹の初々しさを見せつつも、予想以上にハキハキと喋る好青年だった。
同い年の宇佐美貴史は 17際の時、「よく 27歳くらいに間違えられる」と語っていたけれども、この年代はなぜかイカツイ風貌の選手が多い。
このあたり、小野伸二や稲本潤一、小笠原満男らのベビーフェイスが揃った黄金世代とはちょっと毛色が違う。
小野裕二も顔だけを見れば、ジャニーズ系というよりはVシネ顔だけども、それだけにひと仕事やってくれそうな、勝負師の雰囲気を醸し出している。
個人的にはこういうタイプには、俄然期待してしまうのだ。
小さな天才・小野裕二はこの日、未来に向けての大きな一歩を踏み出した。
17歳でJリーグにデビューした小野裕二は、本家・小野伸二よりも1年早く、成功への階段を踏み出したことになる。
そしてこの日のプレーは、小野裕二の輝かしい未来を予見させるだけの、充分な説得力を持ったものだったと言えるだろう。
横浜に現れた超新星、小野裕二。
数年後彼は、きっとこう呼ばれているだろうと、僕は妄想する。
もうオチはお分かりですね。
そう、「小野と言えば、小野裕二だ」と。
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