マルシオ・リシャルデス、『伝家の宝刀』が描いたコントラスト/J1リーグ@FC東京 1-1 アルビレックス新潟


Photo by Albion Europe ApS

J1も残すところ8試合となり、シーズンも佳境を迎えている。

しかし優勝争いの方はといえば、26節終了時点で名古屋グランパスが、2位に勝ち点8差をつけてのダントツの首位に立っている。
きっと名古屋の人たちにとっては、味噌カツや手羽先もいつもより3割くらい美味く感じられるような、メシウマな日々が続いていることだろう。

もちろん残り8試合で何が起こるかは分からないけれども、当分は名古屋がかなり有利な立場であることには違いはなさそうだ。

そうなるとリーグの興味の行方は、残留争いのほうに向けられることになる。

FC東京は前節終了時点まで、J1残留圏内ギリギリの 15位に位置していた。
16位のヴィッセル神戸との勝ち点差は、わずかに1。

残り試合は1ポイントたりとも無駄にはできない崖っぷちの状況の中で、この週末はホームに 10位のアルビレックス新潟を迎え撃ったのである。

引きぬかれた『伝家の宝刀』

前任者の城福浩監督が解任され、第 24節から大熊清監督が指揮を執る FC東京。
ショック療法も与えられて、チーム全体に危機感が漂っているようにも見えた。

そしてその緊張感がプラスに向かったか、立ち上がりは FC東京のペースで幕を開ける。

FC東京は、故障で1ヶ月近く戦列を離れていた梶山陽平がスタメンに復帰。
その梶山のゲームメイクから、石川直宏、大黒将志たちがまず決定機を創りだした。

しかし順位で上回る新潟も徐々にペースを掴むと、試合は少しずつアルビレックス新潟が主導権を握る展開へとシフトしていく。

そしてスコアレスで前半終了かと思われた 45分、ゴール前真正面の位置でマルシオ・リシャルデスが倒されて、アルビレックス新潟にフリーキックが与えられた。

蹴るのはキックの名手でもある、マルシオ・リシャルデス本人。

そしてその右足から抜かれた『伝家の宝刀』は、弾丸のようなスピードで壁の上ギリギリを超え、FC東京のサイドネットに突き刺さったのである。

FC東京のOBでもある名解説者・原ヒロミ氏はこの場面でも、

「うん………いい時間の得点ですね……」。

と言ったのだろうか。
いや、きっと言ったに違いない。

とにかく最高の時間帯での一撃が決まって、アルビレックス新潟がまずは1点をリードした。

反撃に転じる FC東京

迎えた後半も、立ち上がりは勢いに乗るアルビレックス新潟のペースだった。

しかし後半開始2分で迎えた石川直宏の決定的チャンスを皮切りに、流れは再び FC東京へと傾いていく。

そして 60分、後方からの浮き球を競りに行った平山相太が永田充に倒されて、FC東京が PKのチャンスをゲットする。
これを梶山陽平がキッチリ決めて、FC東京が 1-1の同点に追いついた。

そしてこの得点をきっかけに、試合の主導権は完全に FC東京のものとなっていくのである。

その後も梶山陽平、椋原健太らのチャンスメイクから、石川直宏、平山相太、大黒将志たちが再三のビッグチャンスを迎える FC東京。

ここで最低でも1点、うまくいけば2〜3点を取るチャンスは充分にあった FC東京だけれども、しかしけっきょく逆転ゴールは生まれなかった。

そして多くの人が引き分けを覚悟したであろう後半ロスタイム。
ここで再びドラマが待っていた。

中盤でボールを持ったアルビレックス新潟のマルシオ・リシャルデスから、右サイドをオーバーラップした西大伍へと絶妙なロングパスが通る。

これを受けた西が、ドリブルでペナルティエリアに斬り込んでいったところで、たまらず FC東京のリカルジーニョがファウルを冒してしまう。

判定はPK。

試合終了まであと1分あるかどうか、という場面。
この大事な局面で、FC東京は手に入れかけていた勝ち点1を失う、絶体絶命のピンチを迎えてしまう。

アルビレックスのキッカーはもちろん、この試合ですでに直接フリーキックも決めている名手、マルシオ・リシャルデス。

守るのは FC東京の若き守護神・権田修一。

新潟サポーターは勝利を確信したことだろう。

一瞬の間を置いたあと、マルシオ・リシャルデスがゆっくりと助走をスタートさせる。

そしてマルシオ・リシャルデスの「黄金の右足」から放たれたキックはしかし、右へ飛んだ権田修一のスーパーセーブに見事なまでに弾き返された。

このビッグプレーの直後、試合終了のホイッスル。

緊張感あふれる一戦は、PK失敗という劇的な形でその幕を降ろしたのである。

FC東京、その複雑な「勝ち点1」

一度は失いかけた勝ち点1を手に入れて、まるで勝ったかのような歓喜のムードに包まれた味の素スタジアム。

客席には涙を流す女性ファンの姿も見受けられた。
原ヒロミ氏もきっと、「いい時間帯のスーパーセーブでしたね」とうなったことだろう。
選手たちも一様に、安堵の表情を浮かばせていた。

しかし FC東京の大熊清監督だけは対照的に、浮かない表情を見せていた。

冷静に考えれば、それも無理のないところだろう。

後半のゲーム内容を見れば、FC東京が勝っていてもまったくおかしくはなかった試合展開。
指揮官にしてみれば劇的に手に入れた勝ち点1よりも、ミスから失った勝ち点2のほうが重要な意味を持っていたのかも知れない。

崖っぷちをさまようチームの指揮官であれば、それが普通の反応だったというところか。

殊勲の権田修一は、日本の未来を担うと見られている本格派のゴールキーパー。

今月のキリンチャレンジカップでもザック・ジャパンのメンバーに選ばれ、来年初頭のアジアカップのメンバー入りも有力視されている。

しかしその権田にしても、来年のことを考える余裕はまだ無いだろう。

FC東京はこれからも、降格圏と背中合わせの戦いが続くことが予想される。

そして終了間際の PKを止めたとはいえ、そのマルシオ・リシャルデスの『伝家の宝刀』に1点を奪われ、勝ち点を逃してしまったこともまた事実だからだ。

まるで水泳の息継ぎのように、ギリギリの状態での戦いが続く FC東京。

彼らに安堵の日がやってくるのは、いつの日になるのだろうか。

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