東京ヴェルディに告げられた「終戦宣告」/J2リーグ@東京ヴェルディ 1-2 ジェフユナイテッド千葉


Photo by shibuya246

ほんの数ヶ月前まで、東京ヴェルディは瀕死の状態だった。

昨シーズンを最後に、長くチームの親会社だった日本テレビが撤退。

クラブの OBを中心とした新会社が経営権を引き継いだものの、5月には早くも事実上の経営破綻に追い込まれた

その後、Jリーグが預かる形で再建を目指していたヴェルディの前に、「ホワイトナイト」が現れたのは、先月末のことである。

以前にもベレーザ絡みで記事に書いたけれども、まずはメインスポンサーとしてスポーツショップ経営大手のゼビオ株式会社が決定。

続いて、都内を中心にスポーツクラブなどを運営するバディ企画研究所が筆頭となって、複数株主による新運営会社が発足。

さらに、スポンサー集めなどでヴェルディ再建に尽力した羽生英之社長が、Jリーグからの出向という形式から、Jリーグを退社して正式にヴェルディの社長に就任することになった。

そんな嵐のような数週間が過ぎて、ヴェルディを取り巻く状況は、劇的に変わりつつある。

運営会社が変り、フロントが一新され、歴史あるよみうりランドの練習場からも移転する可能性が高い。
チーム名やユニフォームは変わっていないけれども、ほとんど別のチームとして生まれ変わったと言ってもいいだろう。

さらに数年後には、としまえん敷地内に新スタジアムを建設した上での、練馬区への移転構想も報じられている。

瀕死だったヴェルディは地獄の淵からの生還を遂げて、ヨチヨチ歩きからの新しい第一歩を刻もうとしてる。

そしてクラブとしての存続が決まったヴェルディにとって、次の目標は当然「チームの勝利」ということになるだろう。

運営会社が経営破綻しようかという状況でも、ヴェルディの選手たちは常に前を向いて戦い続けていた。

気がつけば 33節終了時点で、4試合を残してJ1昇格まであと一歩の4位という位置。

しかし、すでに柏レイソルとヴァンフォーレ甲府が昇格を決めているので、J1への椅子はわずかに「1」しか残されていない。

そして今節はそのヴェルディと、勝ち点1差で5位につけるジェフユナイテッド千葉による、最後の1つの座をかけた正真正銘の「サバイバルマッチ」が実現した。

ヴェルディとジェフが迎えたサバイバルマッチ

この試合には『Save Our VERDY』という冠がつけられ、クラブ側は集客に奔走した。

その甲斐もあって、味の素スタジアムに集まった観客数は、なんと25,110人。

J2の中でも決して人気のあるチームとは言えないヴェルディからすれば、まさに記録的な集客数である。

この数字は、それだけこの試合が重要な意味を持つことを物語っていた。

そしてこの大観衆を前に、緑の軍団が発奮する。

立ち上がりから小気味良いパスワークでリズムを掴んだヴェルディは、3分にはいきなり土屋征夫のヘディングがクロスバーを叩くなど、猛烈な勢いでジェフに襲いかかった。

そして前半早々の7分、実に 12本ものパスを繋いだ末に、最後は平本一樹がミドルシュートを突き刺して、ヴェルディがあっという間の先制点をゲットする。

この勢いに乗って、前半はヴェルディが完全にゲームを支配する展開となった。

対するジェフユナイテッド千葉はパスミスが多く、ゲームを組み立てることができない。

ジェフと言えばクラブの「レジェンド」であるイビチャ・オシム監督の薫陶を受けた指揮官、江尻篤彦が指揮をとるチーム。

しかし前半は、その「オシムサッカー」の片鱗すら見られない、酷い内容だったと言わざるをえないだろう。

この大一番に負けられないというプレッシャーからか、ジェフの選手たちは出足が遅く、萎縮したような動きで、結果的に持ち味の豊富な運動量も影を潜めてしまう。

そして最終ラインからのビルドアップを狙えば、逆にパスミスからカウンターを浴びる始末。

ヴェルディもディフェンス面では大いに課題が見られていたけれども、それでもジェフはそのヴェルディに、圧倒的なゲーム運びを許してしまった。

しかし、江尻監督のアクションは早かった。

前線が機能していないと見るや、先発出場させた伊藤大介を前半 34分に早々に下げ、代わりに米倉恒貴を投入する。

結果的に、この交代で前線が活性化。

後半に向けての手応えを感じながら、ジェフは 45分を折り返すことになったのである。

展開が一変した後半戦

迎えた後半、ジェフはジワジワとペースを握り返していった。

前半に比べればパスが繋がるようになってきたジェフは、それに連れて選手も思い切った飛び出しができるようになり、徐々に持ち味のムービングサッカーを見せられるようになっていく。

そして 60分、ついにジェフに決定的な場面が訪れる。

右サイドのショートコーナーから、佐藤勇人がクロス。

このボールにファーサイドで合わせたアレックスが蹴り込んで、ついにジェフが 1-1と同点に追いついた。

そしてこの1点をきっかけに、試合の流れは完全にひっくり返ることになる。

同点の勢いから、一気に猛攻を仕掛けるようになったジェフ。

対するヴェルディは、前半の勢いが嘘かのように守勢に回ることになった。

そして 71分、ヴェルディのクリアからのパスミスをかっさらった佐藤勇人がミドルを叩き込んで、とうとうジェフが 1-2と逆転に成功。

ジェフは前半と後半とで、まるで別のチームかのような変貌ぶりを見せて、ヴェルディを完全に圧倒するようになる。

豊富な運動量に加えて、スムーズな連携。

その自慢のムービングサッカーを披露するようになったジェフに対して、ヴェルディはこれをまったく捕まえられない。

ヴェルディは中盤の守備があまりにもルーズでジェフにスペースを与えてしまっただけでなく、バイタルエリアのカバーリングも悪くて、セカンドボールを拾えない。

結果的に最終ラインもバランスが崩壊して、ジェフに波状攻撃を許すことになった。

それでも何とか追加点は与えなかったヴェルディだったけれども、かと言って攻撃の形が創れたわけでもない。

終盤のセンターバックを上げてのパワープレーも実らず、けっきょく試合はこのままタイムアップ。

ヴェルディがホームで、あまりにも痛い逆転負けを喫した瞬間だった。

ヴェルディに通告された「終戦宣告」

試合後のヴェルディの選手たちは泣くでも怒るでもなく、ただ呆然と歓喜に沸くジェフの選手たちを見つめていた。

その淡々とした振る舞いは、読売クラブ時代から続く一種の伝統だとも言えるのだろうか。

その華麗なサッカースタイルも含めて、やはりヴェルディはヴェルディだった。

そして当然ながら、泣いても叫んでも、結果は変わらないのである。

この敗戦でヴェルディは5位に転落。
3位のアビスパ福岡との勝ち点差は7に広がった。

ヴェルディの残り試合が3試合、アビスパとジェフは1試合多い4試合が残っていることを考えると、この敗戦は事実上の終戦宣告だとも言える。

ただこの試合の後半戦を見る限りでは、この日のヴェルディは「負けるべくして負けた」と言わざるをえないだろう。

前半にゲームを支配したヴェルディのパスサッカーは、見事の一言。

しかし反面、ディフェンスはガラス細工のようにもろかった。

そしてディフェンスが崩壊を始めた際に、それを立て直すだけのメンタリティも持ち合わせてはいなかったヴェルディは、結局のところ、まだJ1で戦うには値しないチームだったと僕には思えた。

ただ、このチームはまだ若い。

高木兄弟をはじめとして宝石のような若い才能が揃うヴェルディは、来季にも大いに期待が持てるだろう。

来シーズンの陣容はまだ不透明だけれども、チーム消滅の危機とも戦ったこのシーズンの経験が、きっと来年以降にも生きてくるのではないだろうか。

復活を期待される緑の軍団

ところでヴェルディは、言わずと知れた “Jリーグ初代チャンピオン” の名門である。

かつてのヴェルディは強く、華やかで、日本一の数のファンを抱えていた。

そして同時に、大量のアンチも量産していたのがヴェルディだった。

そういう僕も、以前は生粋のアンチ・ヴェルディである。

ナベツネに率いられ、Jリーグの理念をないがしろにし、地域密着を破壊しようとするそのクラブは僕の目には「巨悪の軍団」にしか映らず、正直なところ、とにかくヴェルディが負けてくれるだけで嬉しかったような時期もある。

とは言っても、ヴェルディの黄金時代はもう 15年以上も昔のことだ。

気がつけばヴェルディはいつの日からか、「憎らしいほど強いチーム」から、ただの「嫌われ者の弱小チーム」へと成り下がってしまっていた。

年を追うごとに客足は離れ、スタジアムには閑古鳥が鳴くようになったヴェルディ。

今年にインターネット上で行なわれた意識調査では、「ヴェルディを存続させるべき」という意見よりも、「ヴェルディは潰すべき」という意見のほうが上回る結果となったほど、ヴェルディブランドは凋落していた。

しかし不思議なもので、弱ってくると情が湧くものである。

僕はあれほど憎らしかったヴェルディのことが、今ではそれほど嫌いではない。

熱狂的に応援するというほどではないけれども、ヴェルディにはまた、J1の舞台に戻ってきてほしいと思っている。

品行方正なチームもいいけれども、そればかりではつまらない。

そんな常識を(良い意味で)くつがえす「異端児」も、時にはリーグには必要だ。

ヴェルディがまた強くなって、タイトルを獲るようにでもなれば、僕はまたヴェルディを嫌いになるかもしれない。

でも、それでもいいと思う。

僕の考えでは、それも含めて「サッカー文化」の一部なのだ。

だから僕はいま心から、東京ヴェルディの復活を願う。

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