2人の「宇宙人」の邂逅/中田英寿と本田圭佑

みなさんの周りで「宇宙人」というニックネームで呼ばれている人はいるでしょうか?

こう呼ばれる人はたいてい「浮世離れした変わり者」か、もしくは「単に風貌が宇宙人っぽい人」のどちらかと相場が決まっている感がある。

ちなみに僕の周辺で検索した場合、前者の代表選手は昭和一桁生まれの僕のオヤジである。
あまりにも頑固すぎるその性格から、うちの姉から「私、お父さんは宇宙人だと思ってるから」との有り難くないレッテルを貼られていた時期があった。

また後者で言えば、中学時代の同級生でそう呼ばれている子がいた。
ちなみにどことなく羽生直剛に似た風貌の少年だった(今思えば…スマヌ…)。

さて、そんな感じで基本的にあまり嬉しくない「宇宙人」の称号だけども、この呼び名を褒め言葉へと転換してしまった人物がいる。

彼の名は中田英寿。

Jリーガーから海外挑戦した選手のパイオニア的存在であり、日本サッカー史上最も成功した選手の一人である。

かつて「宇宙人」と呼ばれた中田だけれども、それはもちろん彼がラージ・ノーズ・グレイに似ているからではない。

何事においても謙譲の精神が美徳とされる日本において、歯に衣着せぬ言動と常識にとらわれない思考回路を持つ中田は、そのプレーと同時に、個性という面でもひときわ際立った存在だった。

自身の持つ強烈なカリスマ性から、彼は畏敬の念をこめて「宇宙人」と呼ばれていたのである。

中田英寿はその後、2006年ワールドカップを最後に現役を退く。

しかし中田が去った後も、日本サッカー界にそのDNAは脈々と受け継がれていた。

そんな中田の遺伝子を最も色濃く継承する男が、本田圭佑である。

そしてこのたび、2人の「宇宙人」による世紀の対談が、テレビ番組上で実現したのである。

日本サッカー界の抱える課題

「何よりも得点を挙げた選手が一番評価される」「日本の選手は練習での技術は世界トップクラス、でも試合で活かすことができない」「リスクをしょってでも個性を活かしたプレーをするべき」…。

そこで語られた内容自体は、この2人に興味のある人たちからすれば目新しいものではなかったかもしれない。
どの話も2人が以前からずっと主張し続けてきたことであり、国内の評論家や海外の指導者などから再三指摘されてきたことでもある。

しかしそれでも、日本のサッカー界はこれらの課題を消化しきれずにきた。

それは若年層の選手の育成現場の問題であったり、もっと言ってしまえば日本の文化や教育現場に関わってくる問題なのかもしれない。

「譲り合い」や、「上の指示に従い個性を殺す」ことが良しとされてきた日本の育成環境・教育環境とは相反する考え方であることから、中田や本田の主張する考え方はその必要性をずっと問われ続けながらも、今日まで日本のサッカー現場で定着することはなかった。

しかし海外でのキャリアが豊富で、日本人を超えた存在の「宇宙人」であるこの2人にとっては、そんな日本の常識は意味をなさない。

ただそのことが、代表チームにおける彼らと国内組の選手たちとの軋轢を生み、中田も本田も他選手との確執を報じられたことは、1度や2度ではなかった。

もちろん日本には日本の良さもある。
チームワークであったり、戦術的タスクを実行する能力においては、日本は海外のスタンダードよりもはるかに高いレベルにあるだろう。

しかし、それで日本のサッカーが強くなったのかと言えば、いまの日本代表を見ていればおのずとその答えは出てしまう。

これはまた、サッカーに限った話でもないように僕には思えるのだ。

他のスポーツでもそうだし、経済や、映画などの文化面でもそうだと思うけれども、日本人は器用なのでいつもそこそこのレベルまでは達することができる。
しかしその割に、世界の真のトップに立つことは多くはない。

その背景には、この対談で語られた問題点がそのまま当てはまる部分も少なくはないのではないかと、個人的には思っている。

「宇宙人」たちがもたらすもの

「2人の宇宙人の対談」は、その字面から連想されるような「ウルトラマン VS ゼットン」「未確認飛行物体 VS 矢追純一」のような死闘にはならず、終始なごやかなムードの中で行われた。

想像していたとおり、本田圭佑は中田英寿のファンだったようである。

リスペクトしている人物と直に会い、自分の考えを再確認できたことで、本田が子供のように嬉しそうな表情を見せていたことが印象的だった。

中田英寿はもう現役を退いた身だけれども、本田圭佑はこれからいよいよ自身初のワールドカップに臨む若武者の立場である。

しかし、いまの日本代表はまだまだ、世界の頂点を見据えるようなレベルには至っていない。

それでも 10年後20年後、あるいは 50年後であったとしても、日本が本気でワールドカップ優勝を目指すようなチームになっていってほしいと願うのは、日本のサッカーファンの共通の想いだろう。

そのためにいま、何をしていく必要があるのか。

その答えの一端が、2人のこの対談の中に垣間見られたように僕は感じた。

それはこれまでも、サッカー界ではずっと言われ続けてきた内容である。
それでもこれがゴールデンタイムのバラエティー番組の中で語られたことは、世間に与える影響という観点で言えば大きな意味があったのかもしれない。

中田英寿という「宇宙人」は、少なからず日本のサッカー界の常識を覆した男である。
そしてその遺伝子は、本田圭佑という後継者に受け継がれた。

2人のマインドがさらに若い選手たちに引き継がれ、日本中に「宇宙人」が増殖したとき。
その時にはもう、宇宙人は宇宙人と呼ばれなくなっているのかもしれない。

そしてそれが現実となった日こそが、ひょっとしたら日本が本当に世界と戦える実力を身につけた瞬間となるのではないだろうか。
そんなことを夢想させてくれる、とても興味深い対談だった。

[ 関連エントリー ]

トップページへ戻る