まさに “西高東低”。
今シーズンのうち、この 12月4日ほど、関西の人にとってメシウマだった日はなかっただろう。
いよいよ迎えたJリーグの最終節。
ここに、大番狂わせのドラマは待っていた。
個人的に2つ前の記事でヒルマン監督のネタを使ってしまったばかりなので、同じ表現が使えないのが口惜しいけど、本当に「シンジラレナーイ!」ような大逆転劇だ(けっきょく使ってるけど)。
前節までJ2降格圏だったヴィッセル神戸が、この最終節で FC東京を大外からまくって、鼻の差での残留を決める。
その陰には、関西の同胞・京都サンガのアシストもあった。
さらにガンバとセレッソの両大阪勢は、ともに快勝で仲良く来季の AFCチャンピオンズリーグ出場権を獲得。
関西三都が大きく沸いた、今シーズンの最後の1日だった。
絶体絶命だったヴィッセル神戸
試合終了後、この日は会場に姿を見せていたヴィッセル神戸の三木谷浩史会長は、偽らざる気持ちを告白した。
「正直、残留は厳しいと思っていた」。
そして僕も、三木谷会長と同じ心境だったことを白状したい。
神奈川出身・大阪在住の僕にとって、今シーズンのJ1残留争いは辛いものになっていた。
既に神奈川のベルマーレと、京都のサンガの降格が決定。
近隣のよしみで神奈川のチームと関西のチームを密かに応援している僕としてはこれだけでダブルパンチなのだけれども、残る一つの椅子も、最後の最後までポールポジションに座っていたのは関西のヴィッセル神戸だったのだ。
最終節を前に、ヴィッセル神戸は勝ち点 35で降格圏内の 16位。
15位の FC東京の勝ち点は、1差の36。
しかし得失点差では、10ポイント近くのアドバンテージを FC東京に握られていた。
つまりヴィッセルとしては、実質的には勝利が絶対条件で、その上で FC東京が負けるかか引き分けるかしてくれなければ、残留は実現しない状況だった。
そしてその条件以上に厳しかったのが、最終節の対戦カードである。
FC東京の対戦相手が、既に降格が決まっている京都サンガなのに対して、ヴィッセルの対戦相手は格上と見られる浦和レッズ。
しかも場所は敵地の埼玉スタジアムということで、浦和の大観衆で埋め尽くされた「完全アウェー」での戦いを余儀なくされていた。
このカードを見れば、どう考えても有利なのは FC東京だった。
現実的に考えれば、ヴィッセルの降格の可能性はかなり高く、僕は降格する3チームが全て自分の贔屓のチームで占められる「トリプルパンチ」をも覚悟していたのである。
そして実際にこの浦和レッズ x ヴィッセル神戸戦も、試合途中まではそんな「最悪の結末」を、大いに連想させるような内容だったのだ。
ヴィッセルの見せた「奇跡の逆転劇」
この「絶対に負けられない一戦」に高いモチベーションで臨んだヴィッセルは、立ち上がりこそハイテンションな展開に持ち込んで互角の戦いぶりを見せる。
しかしやはりと言うべきか、徐々にそのペースは落ちていって、前半の中頃には浦和レッズに主導権を握られつつある形になっていた。
押され気味のヴィッセル神戸。
しかしここで、まず最初の奇跡が起こる。
劣勢に立たされていたヴィッセルは、31分、何とか最終ラインでボールを奪うと、ここから1本のロングパスを一気に前線に放り込む。
するとレッズの DFラインの対応が、一瞬遅れた。
そこに走りこんでいたのが、ヴィッセル神戸の吉田孝行だった。
この、地元出身のベテランストライカーはスルリとラインの裏に飛び出すと、ボールを受けた瞬間には既に GKと1対1に。
吉田がこれを冷静に決めて、ヴィッセルが劣勢を跳ね返す先制点で 0-1とリードを奪ったのである。
しかし、ここまでの展開ならサッカー界には良くあることだ。
前半を1点リードで折り返したヴィッセルだったけれども、後半にまたレッズの猛攻にさらされることは、充分に想像がつくことだった。
そしてやはり後半、レッズは立ち上がりからヴィッセル陣内に襲いかかる。
おもむろに同点ゴールを狙いに来たレッズに対して、再び守勢に立たされたヴィッセル。
大観衆の声援を背負ったレッズの勢いに、ヴィッセルの壁が突き破られるのは時間の問題のようにも思われた。
しかしそんな悪い流れに、ひとりの 18歳が風穴を開ける。
50分、カウンターから反撃に出たヴィッセルは、中盤からのスルーパスに超新星・小川慶治朗が反応。
そしてラインの裏に抜けだそうとした小川を、たまらずレッズDFがファウルで止めてしまい、ヴィッセルにPKが与えられたのである。
この PKを吉田孝行が落ち着いて決めて、ヴィッセルが 2-0とリードを広げた。
押し気味だったレッズからすれば、「まさか」の展開だっただろう。
しかしその「まさか」は、これだけでは終わらなかった。
続く 59分、2点を追って前がかりになったレッズの隙をついて、またもヴィッセルがショートカウンターを仕掛ける。
レッズDFの戻りが遅れてポッカリと空いた右サイドでボールを受けたのは、ヴィッセル神戸のパク・カンジョ。
このフリーの状態からパクが叩き込んで、ヴィッセルが何と 3-0と大量リードを奪ったのである。
さらに後半ロスタイムには、19歳の森岡亮太が右サイドをドリブルで突破。
そのクロスを 18歳の小川慶治朗が押しこんで、この若きホットラインからダメ押しの4点目。
まさかの大勝劇で、ヴィッセルがこの最終節を締めくくることになった。
そしてその頃、京都で行われていた試合では、もう一つの奇跡が起きていた。
降格の決まっていた京都サンガが、日本代表候補をズラリと揃える FC東京に、なんと 2-0で快勝。
この結果、ヴィッセル神戸が勝ち点で FC東京を逆転して、会長ですら諦めかけていたJ1残留を、土壇場の「うっちゃり」で実現させてしまったのである。
ヴィッセル神戸の生んだ「ハートの勝利」
試合後の埼玉スタジアムでは、残留を決めたヴィッセルの選手たちが涙を流しながら歓喜の輪を作っていた。
残留を決めて嬉しいのは当然だろうけど、今回は特に劇的な残留劇だった。
それだけに、喜びもひとしおだっただろう。
石櫃洋祐やパク・カンジョのように、人目もはばからずに号泣する選手たちも続出するような光景が、ピッチ上には溢れていた。
しかしこの奇跡の残留劇は、単なるラッキーで起こったわけでもなかったのではないか、と僕は思っている。
まずヴィッセルは、ハートで負けていなかった。
この日の試合でも、単純にサッカーが上手かったのは、おそらくレッズのほうだったろう。
しかしヴィッセルは、この日は素晴らしい守りを見せていた河本裕之をはじめ、DFの選手たちがとにかく気迫のこもった守備を見せ、危ない場面も身体を張って防いだ。
後半は足がつる選手が続出しながらも、選手たちは最後まで走りきったのだった。
思い返せば 28節のガンバ戦でも、ヴィッセルは気迫のプレーで勝利をものにしていた。
結果ヴィッセルは、最後の7試合を4勝3分けの負けなしで疾走して、最後の最後に残留の切符を手に入れることになる。
ヴィッセルがここまでの勝負強さを手に入れた背景には、シーズン途中から就任した和田昌裕監督の存在があるようだ。
クラブのOBで選手からの人望も厚い和田監督のもと、それまで空中分解寸前だったチームが一致団結。
吉田孝行など主力選手たちは「和田さんのためにも勝ちたかった」と声を揃え、サポーターも巻きこんで一体となったクラブは最終節、地元・兵庫県出身の3人のゴールで、見事に残留という奇跡を手にしたのである。
それは彼らの「最期まで諦めない気持ち」が生んだ、ハートの勝利とも言えるものだった。
浦和レッズ、FC東京の見せたナイーブさ
対する浦和レッズは、内容的にはゲームを支配する時間帯をつくりながらも、最後には 0-4という大差で惨敗を喫した。
フォルカー・フィンケ監督が就任してからの2シーズン、サッカーの質そのものは向上しつつも、代わりに勝負強さを失ってしまったレッズ。
来季からは新しい監督のもと、再び「Jの盟主」に返り咲くためのチャレンジが始まるだろう。
そして代表クラスの選手たちを各ポジションに揃えながらも、「まさか」のJ2降格を味わった FC東京も、結局はレッズと同じような問題を抱えたチームだった。
前任者の城福浩監督のもと、質の高いパスサッカーを実践して、昨年にはナビスコカップ優勝というタイトルも手に入れた FC東京。
若く、才能にあふれた選手たちを揃えるチームは未来のJ1優勝候補とも期待されていたけれども、結果は全くの裏目に出た。
その「上手さ」を「強さ」に変えることのできなかった、彼らの精神的なナイーブさが、結果的にはこの最悪の結末を生んでしまったのではないだろうか。
来季からは 11年ぶりのJ2の舞台に挑戦することになるけれども、今季のジェフや昨季のヴェルディを観ても分かるとおり、J2の舞台も甘くはない。
主力選手の大量離脱も予想されて、来季はクラブとしての底力が試される一年となるだろう。
そして奇跡の残留を決めたヴィッセルも、それが来季も繰り返されるという保証はどこにもない。
ジェフ千葉も2年前には「奇跡のJ1残留」を実現させながらも、翌年にはあっさりとJ2に降格してしまった。
来季にはさらに上位を狙うための、より一層の上積みが求められてくるはずだ。
そして個人的にはもちろん、京都サンガと湘南ベルマーレのJ1返り咲きにも期待したいところである。
Jリーグ閉幕にふれて
そんな悲喜こもごものドラマを生みながら、今年も幕を閉じたJリーグ。
ちなみに今季のJリーグ開幕を機にスタートした当ブログも、とりあえず無事に1シーズンを乗り切ったことになる。
そして書き始めて分かったことだけれども、文章を書くというのは途方も無い時間とエネルギーを要するものだ。
これが単なる個人日記だったら、飽きっぽい僕のこと、間違いなく途中でさじを投げていたところだろう。
ここまで続けられたのも、ひとえに読者の皆さんのお陰だと思っています。
これまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
…と、何だかこれで引退するような書き方になってしまったけれども、もちろん当ブログはこれからも続きます。
Jは終わっても、クラブワールドカップに海外リーグに天皇杯、高校サッカーと、サッカー界に休みはない。
筆者もヴィッセル神戸のように限界まで走り続けますので、今後ともご愛顧のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
来シーズンまでにはもう少し、書くスピードも早くなっているといいなあ…。
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