横浜マリノス、「地に堕ちた名門」の憂鬱/J1リーグ@セレッソ大阪 2-0 横浜マリノス

秋の長居公園@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

師も走ると書いて師走と読みますが、年末の昨今、皆さんどうお過ごしでしょうか?

僕は本業のほうに忙殺されて、気がつけばもう年の瀬。

12月はブログもめっきり更新できてないなあ。。。

そんなわけなんだけど、とりあえず今年の宿題は今年のうちにできるだけ片付けておきたい。

Jリーグがオフシーズンのこの時期を利用して、「実は観に行ってたんだけどブログで紹介していなかった試合」の記事を書きたいと思います。

横浜のフロントが繰り返す「過ち」

セレッソ大阪と横浜マリノスの試合が行なわれたのは 11月の 20日。

もうかれこれ1ヶ月以上前の話になってしまった。

キックオフ@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

試合のネタとしては完全に賞味期限切れなんだけれども、その後の1ヶ月の間に、横浜マリノスには激震が走っていた。

高校卒業後から 16年間、マリノス一筋でプレーしてきたチームの “象徴”、松田直樹に対して「0円提示」がなされる。
いわゆる戦力外通告というやつである。

続いてチームの 10番を背負ってきた山瀬功治、波戸康広といった日本代表経験者をはじめ、クラブ生え抜きの坂田大輔や河合竜二、清水範久など実績のある選手を大量解雇。

その通告の仕方があまりにも選手の感情を無視した内容だったこともあって、サポーターも巻き込む一大騒動に発展した。

その後、清水エスパルスから青山直晃、川崎フロンターレから谷口博之、柏レイソルから小林祐三の加入が発表されて、今では多少、騒ぎは沈静化の様子を見せている。

ただしフロンターレへの移籍が決まった山瀬功治以外の、渦中にあった選手たちの大半がまだ移籍先が決まっていない。

マリノスのフロントは選手たちに対する杜撰な対応から、結果的にはサポーターの反感を買い、来年のチームづくりへのハードルを自ら上げてしまったとも言えるだろう。

この件に関して一部の人からは「プロなんだから実力が無ければ切られて当然」という声も挙がっていたようだけれども、そんなことはマリノスのサポーターたちも百も承知だろう。

それでもフロントが非難を浴びたのには、相応の理由があると思われる。

単に功労者というだけではなく、中村俊輔や中澤佑二といった主力が欠場することが多かった今季にあって、苦しい時期にチームを支えた「縁の下の力持ち」が松田たちだった。

フロントが怒りを買ったのは、そんな貢献度の高かった選手たちに選択肢を与えるでもなく、一方的に戦力外を突きつけた、その機械的な対応のまずさに尽きる。

裏を返せば、解雇する選手たちに対する気遣いと丁寧な対応があれば、あんな大騒ぎにはなっていなかっただろう。

ただ横浜出身でマリノスを応援する僕としては、情けなくなる反面、「やっぱりか」と妙に納得する気持ちにもなってしまうのだから、嫌なものである。

はっきり言ってこのチームのフロントは、10年以上前から全く成長していない。

思い返せば昨年の夏にも、中村俊輔のグラスゴー・セルティックからの移籍をめぐって一悶着があった。

セルティック時代よりも大幅な減棒を呑んでマリノスに復帰していようとしていた俊輔に対して、さらなる値切り交渉を仕掛けたり、挙句の果てには正式契約前だというのに勝手にイベントや試合出場のスケジュールを組み込む始末。

愛想を尽かした俊輔は土壇場でエスパニョールに移籍してしまい、その後に当時の斉藤社長は責任をとって辞任をする羽目になった。

と、これだけ分かりやすい失敗をつい1年前にやっているにも関わらず、このクラブはなんでまた同じようなことを繰り返すのか、傍目には全く理解できない。

しかし考えてみればマリノスの迷走は、もうはるか昔から始まっていたとも言えるのだ。

中村俊輔コーナーキック@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

1998年に横浜フリューゲルスが解散したことは、当時のサッカーファンにとってはまさに青天の霹靂だった。

しかもあろうことか、クラブは地元のライバル・マリノスとの「合併」という、ファン心理を完全に無視したような安易な道へと舵を取ることになる。

その結果、横浜には『横浜F・マリノス』という奇妙な名前を持つチームが誕生することになった。

その裏には、「チームを一つにまとめてしまえば、フリューゲルスのファンを取り込めるだろう」という、ファンを感情を持った「人間」ではなく、単なる「数字」としてしか考えていないフロントの体質がありありと反映されていたと言っていいだろう。

ちなみに当ブログでは、これまで「横浜F・マリノス」という記述を用いたことは一度もない。
頑なに「横浜マリノス」という表記にこだわっている。

それは僕自身がもう 12年経った今でも、「横浜F・マリノス」というチームの存在を認めていないからであり、そのささやかな抵抗の意味からでもある。

しかし悲しいかな、故郷のこのクラブは、未だに馬鹿げた失敗を繰り返しているのだ。

秋の夜の完勝劇

セレッソ大阪がホームのキンチョウスタジアムで開催したこの試合で、僕は久しぶりにマリノスの試合を生で観ることになった。

秋の涼やかさの漂った気持ちのいい一日で、長居公園の空には中秋の名月が浮かんでいた。

長居公園の月@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

ちなみにこれと同じ日に開催された平塚競技場での試合で、名古屋グランパスが今季のJリーグの初優勝を決めている。

それによって優勝の可能性は無くなったけれども、「ACL出場」という現実的な目標が残されていたセレッソに対して、上位争いからも残留争いからも蚊帳の外となっていたマリノスの、モチベーションの低さは明らかだった。

立ち上がりは互角の展開でスタートしたゲームも、すぐにペースはセレッソへと傾いていく。

そして 25分、まずはオウンゴールからセレッソ大阪が先制。

さらにその後もセレッソは、FWのアドリアーノを中心に何度も決定機をつくっては、マリノスゴールを脅かした。

オウンゴール@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

対するマリノスは、本来のセンターバックのレギュラーである中澤佑二と栗原勇蔵を欠き、ディフェンスラインが不安定。

しかし代役の松田直樹と波戸康広の個人能力、そして GK飯倉大樹のスーパーセーブで何とかピンチをしのぐ時間帯が続いた。

それでも後半に入った 62分、とうとうマリノスは、家長昭博に決定的な2点目を奪われてしまう。

家長昭博ゴール@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

マリノスは攻撃面では、頼みの綱の中村俊輔が不調。

しかし 57分に小野裕二が投入されると、この 17歳の弾丸小僧がキレキレの動きで、何度も観衆を湧かせる場面を生み出した。

小野裕二@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

ただしセレッソも、今季の躍進を支えた茂庭照幸、上本大海のセンターバックコンビを中心に、安定したディフェンスでこれを弾き返す。

終わってみれば 2-0。

完勝と言っていい内容で、セレッソ大阪が ACL出場権をグッとたぐり寄せる勝ち点3を手に入れたのである。

勝利後の家長昭博@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

大阪に「あり」、横浜に「ない」もの

ちなみにこの試合で、僕はセレッソ大阪の新ホームスタジアムであるキンチョウスタジアムを初めて体験した。

場所は従来からの本拠地である長居スタジアムの真横。

しかし 50,000人収容の長居に比べると、キンチョウスタジアムは 20,000人収容というコンパクトさ。
しかも陸上トラックのない、球技専用のスタジアムだ。

キンチョウスタジアム外観@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

実際は球技専用とは言ってもバックスタンドの高さがないので、あまり「見やすい」という印象は受けなかったんだけども、それでもピッチとの近さ、観客同士の近さからくる “熱気” は、長居スタジアムのそれを上回るものがある。

スタジアムに入場してからバックスタンドへの通路を歩く時に見えた、メインスタンドを埋め尽くしたピンク色のサポーターたちの姿は、圧巻とも言えるほどの大迫力だった。

かつては「サッカー不毛の地」と言われた大阪も、今ではもうその面影はない。

この日もセレッソのユニフォームを着用した多くのサポーターがスタンドを埋め尽くしていたし、試合前にはこんな人も応援に訪れて、盛り上げに一役買っていた。

トミーズ雅@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

ちなみに僕はこの一週間後に開催された万博でのガンバ x マリノス戦も観戦したかったんだけれども、こちらに至っては試合の2週間以上前の時点で、既にチケットが(最も高い席を除いて)完売になってしまっていた。

大阪の2つのJリーグチームは、今や大阪府民にとっては「生活の一部」とも言っていい存在に成長したのである。

それに対して、かつてはJリーグを代表する名門だった横浜マリノスは、成績面でも地域密着という面でも、今では大阪の両チームの後塵を拝する存在に成り下がってしまった。

その原因の一端が、選手やファンを大事にするということを未だに知らないフロントにあることは間違いないだろう。

いま改めてこの試合を振り返ってみると、やはり大きな違和感を感じざるを得ない。

この試合でも、マリノスのスタメン出場選手たちの中で目立っていたのは、松田直樹や波戸康広、清水範久などのベテラン選手たちだった。

試合には負けたとは言っても、松田の勘所を得たカバーリングや1対1の強さには、僕も「さすがだなー」と感心しながら観ていたのを覚えている。

まさかその一週間後、その選手に戦力外通告がつきつけられようとは、正直思ってもみなかった。

松田直樹@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

横浜マリノスはベテランを切って、若返りを図っていく腹づもりらしい。

しかしサッカーの実力とは、単純に年齢だけで測れるようなものなのだろうか。

海外ではパオロ・マルディーニやフィリッポ・インザーギのように、40最近くになっても一線級で活躍を続ける選手の例はいくらでもある。

少なくともこの日の松田のプレーからは、衰えと言えるようなものは全く感じられなかった。

いま発売中のサッカーダイジェスト誌上のインタビューで、松田は「カズさんを目指す」と、Jリーグの最年長出場記録を持つプレーヤーを目標とする宣言をしている。

是非この悔しさを糧に、日本のレジェンドにも負けないような、息の長いプレーヤーとなって現役を続けてもらいたいと思う次第だ。

長居で感じた「セレッソ愛」

キンチョウスタジアムのある長居公園は、開けた住宅街の中に造られている。

そして試合終了後、人の流れに沿いながらスタジアムを後にする際に、僕はそのすぐ脇に建てられた、一つのマンションが眼に入ってきた。

とあるそのマンションでは、各部屋のベランダからセレッソ大阪のフラッグが掲げられていた。

サポーターのマンション@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

このマンションの上層階からは、たぶんキンチョウスタジアムが一望できる。

もともとここに住んでいた人たちなのか、セレッソ好きが高じてこのマンションに引っ越してきた人たちなのかは分からないけれども、何とも言えない「セレッソ愛」を感じさせる光景だった。

大阪でこんな風景が観られるようになったことに深い感慨を抱きつつ、僕は故郷のチームに思いを馳せる。

横浜に住んでいた頃、僕は地元から「マリノス愛」を感じたことはほとんどなかった。

いま、年に何回か帰省をした時でも、それは同じである。

なぜマリノスは地元に密着できないのか。

なぜマリノスは、日産スタジアムを満員にできないのか。

今回の騒動を通じて、マリノスのフロント陣にはよく考えてみてほしいと切に思う。

キンチョウスタジアムの月@セレッソ大阪 VS 横浜マリノス

横浜で長居のような光景が観られるようになるのは、いったいいつの日になるのだろうか。

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