アジアカップ準決勝の韓国戦で香川真司が負傷退場をして骨折と診断された時、最もショックを受けたのは僕たち日本のファンよりも、ボルシア・ドルトムントのファンたちだったのかもしれない。
それくらい、今シーズン前半の香川真司の活躍は際立っていた。
その香川が抜けながらもスタートしたシーズン後半戦、ドルトムントは前半戦ほどの爆発力はなくなったけれども、堅実な試合を繰り返して前半戦の貯金をキープしている。
シーズンはおよそ3分の2を消化して、いよいよ9シーズンぶりの優勝が、現実的に視界に入るところまでやってきた。
しかし群雄割拠のブンデスリーガ、そうはさせじと様々な刺客が、ドルトムントの足元をすくいにかかる。
ゲームで言えばファイナルステージ、ラスボス前の城に乗り込んだようなもので、ここからが本当にシーズンの行方を決定づける「勝負どころ」になるだろう。
そしてこの週末、そんなドルトムントの前に、最強の刺客が現れた。
昨シーズンのドイツチャンピオンにして、UEFAチャンピオンズリーグのファイナリスト。
バイエルン・ミュンヘンとの一戦は、まさに “天下分け目の天王山” となったのである。
「20年ぶり」を生み出した熱戦
前節までに稼いだ勝ち点は 55。
2位のレバークーゼンに 10ポイント差をつけて、首位を独走するボルシア・ドルトムント。
対するバイエルン・ミュンヘンは勝ち点 42で4位につけていた。
両者のポイント差には開きがあったけれども、実力には勝ち点ほどの差はない。
しかも、今節の舞台はバイエルンのホーム、アリアンツ・アレーナ。
もしバイエルンが勝てば、優勝の行方はまだまだ分からなくなる。
まさに「運命の一戦」の火ぶたが開けられたのだった。
立ち上がりは比較的慎重な入り方を見せた両チームだったけれども、試合は間もなく急激に動き出す。
9分、バイエルンのミッドフィルダー、バスティアン・シュバインシュタイガーのトラップミスを見逃さずボールを奪い取ったドルトムントのケビン・グロスクロイツが、ドリブルで駆け上がってカウンターを仕掛ける。
そしてそのグロスクロイツのスルーパスを受けて抜けだしたルーカス・バリオスがグラウンダーのシュートを流しこんで、アウェーのドルトムントがあっさりと先制に成功した。
しかしバイエルンも簡単に主導権は握らせない。
わずか6分後の 15分、コーナーキックからルイス・グスタボが押しこんで、1-1と試合を振り出しに戻す。
ところがそのさらに3分後の 18分、再びカウンターからルーカス・バリオスが持ち上がったドルトムントは、そこからマリオ・ゲッツェのポストプレーでボールを落とすと、最後はヌリ・サヒンがコースを突く芸術的なミドルシュートを突き刺して、1-2と再びリードを広げたのである。
そして 15分で3点が生まれたゲームは、ここから一気にヒートアップする。
僕はこの試合で、香川真司が抜けたドルトムントが、どうやってその穴を埋めていくのかを確認したいと思っていた。
香川の代役でトップ下に入ったロベルト・レワンドフスキーはやや力不足で、ピンチヒッターとして遜色ない活躍を見せていたとは言い難い。
しかしその代わりに、中盤の底からゲームメイクをするサヒン、そしてカウンターの急先鋒となってフィニッシュも決めるバリオスの2人が、攻撃の核としてこれまで以上のプレーを披露していたように思う。
そして特筆すべきはグロスクロイツ、ゲッツェの若き両翼が急成長を見せている点だろう。
香川がいる時にはあくまでも両サイドの「駒」という印象だったこの2人が、徐々に攻撃の要となろうとしている姿が伺えた。
センターバックでコンビを組むネヴェン・スボティッチとマッツ・フンメルスは相変わらず芸術的とも言える守りを見せていて、そこでボールを奪ってから繰り出されるシンプルだけれどもスピード感溢れるカウンターが、いまのドルトムントの「鉄板のスタイル」になっていると言える。
アリエン・ロッベンとフランク・リベリーのワールドクラスの両サイドを起点に攻撃を組み立てるバイエルンも、2点を奪われた後はドルトムントの鋭いカウンターを警戒してか、慎重になり過ぎてその堅陣を崩すことができない。
逆に 60分、コーナーキックからフンメルスの頭で追加点を奪われて、万事休す。
ボルシア・ドルトムントが 3-1というスコアでバイエルンのホームでの 20年ぶりの勝利をものにして、今季のブンデスリーガの優勝をグッと手繰り寄せることに成功したのである。
運命を分けた天王山
結果的に快勝したドルトムントは、香川真司の穴を周囲の選手たちの頑張りと、よりシンプルな戦術に徹することで埋めることに成功している。
まだ2位レバークーゼンを突き放さなければいけないとう任務が残ってはいるものの、今季のリーガ優勝へはかなり鮮明な青信号が灯ったと言っていいだろう。
対するバイエルンはドルトムントとの勝ち点差が 16と開いたことで、優勝の望みはほぼついえた。
しかし裏を返せばチャンピオンズリーグに集中できる環境が整ったとも言えるわけで、1回戦のファースト・レグで先行を許したインテル・ミラノとしては、かなりやっかいな状況になってしまったとも言える。
ファースト・レグでは出番の無かった長友佑都にしてみても、次のセカンド・レグは正念場になりそうだ。
いずれにしてもブンデスリーガ優勝に大きく近づいたボルシア・ドルトムント。
現在必死のリハビリ中の香川真司にも、春には朗報が訪れるのだろうか。
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