Jリーグのテレビ中継について考える/富士ゼロックススーパーカップ@名古屋グランパス 1-1(PK 3-1) 鹿島アントラーズ

TelevisionTelevision / mrhayata

僕の住んでいる大阪ではこの冬に2回ほど大雪が降ったけれども、そうかと思えば最近はすっかり暖かくなって小春日和が続いている。

そして気がつけば、もう来週にはJリーグが開幕するじゃあないか!

オフシーズンをのんびり謳歌していたこのブログにも再び「戦場」が戻ってくるわけだけれども、いちサッカーファンとしてはウキウキするシーズンの到来が間近に迫ってきた。

そしてこの週末には、毎年恒例のJリーグ開幕を告げるファンファーレ、富士ゼロックススーパーカップが行なわれたのである。

失われた緊張感

ところで基本的には色々な試合のレポートを軸に構成されている当ブログだけれども、今回は試合内容への考察はカットして結果だけをお伝えします。

試合は 1-1の同点で PK戦へと突入し、名古屋の守護神、楢崎正剛が3本の PKをストップ。

昨シーズンのJリーグ王者名古屋グランパスが、今シーズンまず1つ目のタイトルを手に入れた。

しかし白状してしまうと僕はこの試合を、いまいち熱を込めて観戦することができなかったのである。

もっとも、今回は僕の応援している横浜と大阪のチームが出場していなかったというのも理由の一つとしてはある。

しかし今の日本を代表する2チームの対戦だけに、サッカーファンとしては血沸き肉踊る興奮が自然と湧き上がってきても良さそうなものだけれども、キックオフからいまいち乗りきれない状態のまま、試合が終わってしまったという印象だ。

ただその理由は、両チームのサッカーの本来のクオリティーとは全く無関係である。

単純に、両チームのプレーからリーグ戦ほどの「緊張感」が感じられなかったからだ。

スーパーカップが抱える構造的問題点

「◯◯スーパーカップ」というのは言うまでもなく、前シーズンのリーグチャンピオンとカップチャンピオンとが戦う一戦で、ヨーロッパでも新シーズンの開幕を告げる「リーグ前哨戦」としてすっかり定着している感がある。

ただ、UEFAチャンピオンズリーグの勝者とヨーロッパリーグの勝者とが争う UEFAスーパーカップなどを観ても、いまいち締まりの無い試合になることが多い。

その理由は明確で、要はここで勝利しても、次週から開幕するリーグ戦には何らプラスにはならないからだ。
逆に、むしろここで気合を入れすぎて怪我をしてしまうようなことがあれば、それこそ目も当てられない。

必然的に選手たちは怪我をしない(させない)ように多少パワーをセーブしたような戦いぶりをするようになって、何となくピリっとしない試合になってしまうのである(余談だけれども僕はJリーグのオールスター戦が盛り上がらなかったのも、同じような理由が一因としてあると思っている)。

そしてこの富士ゼロックススーパーカップも、その例に漏れず、いまいち熱気の感じられない内容に終始した。

と言ってもその事で選手たちやチーム関係者の方々を批判する気は毛頭ない。

位置づけがプレシーズンマッチに近い一戦である以上、リーグ戦よりもプライオリティが下がるのは当然のことだし、仮に僕が選手や監督だったとしても同じように振る舞う可能性が高いからだ。

もしここでガツガツ行って怪我でもしようものなら、逆に「あいつアホか」と各方面から KY認定されるのは間違いないところだろう。

ただJリーグのいちファンとして思うのは、せっかくのこの興行を、もう少し上手く利用することはできないのかな、ということである。

代表とJに見る、ファン層の相違点

ちなみにこの富士ゼロックススーパーカップは、土曜日の午後の地上波でテレビ生中継されていた。

本物のコアサポの方々はホームもアウェーも現地観戦を基本とされているのだろうと思うのだけれども、それには及ばないけれども熱心なJリーグのファンだという方は、Jリーグはスカパーに入ってテレビ観戦、という人も多いだろうと思う。

ちなみに僕もその一人なんだけれども、毎週当たり前にJリーグを観戦できる環境に慣れてしまうと、それが CSなのか BSなのか地上波なのかはあまり気にならなくなってくる。

ただ思い起こせば僕も、スカパーや BSに加入できるようになる前は、地上波でたまにやるJリーグ中継が貴重なサッカー観戦の機会だった。

関東に住んでいた頃は日テレで深夜にやっているヴェルディの録画中継を観たり、関西に越してからは KBS京都で毎週生中継されているサンガの試合を観たりして、サッカー観戦に飢えたハートを満たしていたのである。

そして言い換えればそれは、Jリーグにそこまで関心のない一般層からしてみれば、それくらいJリーグの試合を観る機会というのが限られているのだとも言える。

地上波でJリーグチームの試合を観れる機会と言えば、天皇杯決勝とナビスコカップ決勝、日本のチームが出場できた時には AFCチャンピオンズリーグの決勝とクラブワールドカップ、それとこのゼロックススーパーカップ、あとはたまにやる NHK総合の生中継とローカル放送くらいで、地域によっては年間に数えるほどしか行なわれていないのではないだろうか。

その反面、昨年のワールドカップと今年のアジアカップでは、日本代表が快進撃を見せて驚異的なテレビ視聴率を叩き出すなど、代表の試合は国民から熱狂的な注目を集めた。

しかしその代表人気が、ストレートにJリーグの人気に結びついていかないのが日本サッカーの現状である。

その根底には、代表の支持層とJリーグの支持層とでは、(もちろん被る部分はあるけれども)基本的にまったく層が違ってくることが考えられる。

つまりJリーグが熱心なサッカーファン、もしくは地元のファンに支えられているのに対して、代表の試合ではそこに加えて、ワールドカップやアジアカップという「イベント性」に惹きつけられた膨大な数のライト層を取り込んでいる。

このライト層をJリーグのファン層に変えていくことが日本サッカーの大きな課題にもなってくるわけだけれども、ライト層の大半はサッカーという競技に対して「一定の線引き」をしてしまっている場合が多いので、口で言うほど簡単ではないのが実情だ。

「一定の線引き」というのはつまり、「日本代表の試合は観るけど、Jリーグはちょっとね…」というシニカルなスタンスだ。

身近な例を挙げると、僕の職場でもアジアカップの頃には、サッカー経験者の人たちからは「日本すごいな!」みたいな話題が挙がってきた。
ワールドカップの頃には、サッカー未経験者や普段まったく興味がないような人たちでも、サッカーの話題を口にするようなシーンが見られた。

ただ、それらの人々から普段、Jリーグの話題が出てくることはほぼ皆無だ。

またうちの奥さんも高校・大学時代とサッカー部のマネージャーをやっていたようなキャリアの持ち主だけれども、Jの試合は僕が誘いでもしない限りはまず観ない。

ただし、ワールドカップやアジアカップでは自分から「この試合は夜更かししてでも観るわー」と言ってくるような感じである。
要するに一般のライト層というのはそういう感覚なのだろうと僕は思っている。

しかしそういうライト層を取り込んでいかなければJリーグのさらなる発展も無いわけで、時間はかかってもライト層の人々を熱心なサッカーファンへと変えていく試みを続けていくことが、協会・Jリーグ関係者・ひいては僕たちサッカーファンへと課せられた大きな宿題なのだと言えるだろう。

ではそのために、何をしていけば良いのだろうか。

Jリーグ・テレビ中継改革案

個人的にはテレビの露出を何とかして増やして行くことが、重要な要素の一つになると考えている。

ヨーロッパなどでは「テレビ中継が増えることで、スタジアムに足を運ぶ観客の数が減少する」という統計が出ているそうだけれども、それは既に絶大な人気を誇っているトップリーグの場合であって、まだまだ発展途上のJリーグの場合は、一般層にとりあえず試合を観てもらうことによるメリットのほうが大きいのではないだろうか。

そういう意味ではテレビ中継、特に地上波での生中継は、Jリーグの普及という意味では重要になってくるように思う。

そしてそう考えたとき、今回の富士ゼロックススーパーカップは、一般層にJリーグを観てもらうための貴重な機会だったとも言える。

特にアジアカップの優勝でサッカーに大きな注目が集まった直後だけに、代表→Jリーグ、という流れを生み出す絶好の機会だったのは確かだろう。

しかしそこで行なわれた試合が、いまいち気迫の感じられない「いつものスーパーカップ」だったことが、僕は非常に残念だったのである。

ちなみに、これを解決する私案が一つある。

どこの国だかは忘れてしまったのだけれども、ヨーロッパのリーグの中には、このスーパーカップがそのままリーグの開幕戦を兼ねる国があるらしい。
この方式であれば、リーグ戦のしかも開幕戦なわけだから、現在のようなエキシビションの雰囲気が漂うユルい試合とは全く違ったものになるだろう。
さらに前シーズンのタイトルホルダー同士の対戦なわけだから、真剣勝負であればハイレベルな戦いになることは間違いない。

しかもトップチーム同士の対戦ということで、両チームには代表でおなじみの選手たちが顔を揃えている可能性も高い。
今回の場合であれば、これまでのワールドカップで名前を売ったトゥーリオや楢崎、玉田、アジアカップで広く名前を知られるところとなった伊野波や岩政あたりがJリーグでも必死で戦う姿を目にすれば、土曜日の午後にたまたまテレビをつけたライト層の何割かは、チャンネルを変えずに試合を最後まで観てくれる可能性もあるだろう。

そしてそこで「Jリーグも意外と面白いじゃん」となれば、シーズンのうちに何度かはスタジアムに足を運んでくれるかもしれない。

もちろん実際にこれを実行した場合には、単純に一試合ぶん公式戦が減るので短期的にはリーグの収入減になるとか、リーグの優勝を争うチーム同士の対戦が早い段階で実現してしまうので、リーグ戦の行方に微妙に影響する可能性があるなどのデメリットも考えられるけれども、それでも今のJリーグにとってはメリットのほうが大きいのではないかと僕は考えている。

また開幕戦以外のリーグ戦でも、「Jリーグがテレビ局の放映枠を買い取って(=スポンサーとなって)地上波ゴールデンタイムにJリーグの試合を放映するべき」、というような意見をネット上で目にしたことがあるのだけれども、これも面白い試みだと思う。

もちろんそれなりのコストがかかることは覚悟しなければいけないだろうけれども、各チームの営業努力だけに任せっきりになるのではなく、リーグ側としてもこのような「攻めの対策」を試みることも必要なのではないだろうか。

今後のJの進む道

ちなみに現在のスカパーとの独占放映契約は今シーズンで切れる。
スカパーからJリーグへ支払われている放映権料は年間 50億円とも言われる巨額なもので、これはJリーグの年間収入の約 40%にも当たるそうだ。

ただし、あまりにも大型の契約なため、スカパーが来シーズン以降この契約を更新するかは微妙なようだ。
一説によると撤退が濃厚だとも言われていて、その場合はJリーグは貴重な収入源を失うことになる。

ただし広くJリーグの普及ということを考えた場合、スカパーが優先放映権を独占的に扱う現在の契約形態は諸刃の剣でもある。

僕のようなサッカーマニアには嬉しい仕組みだけれども、逆に一般の人々は代表の試合を除いて、サッカー中継に触れる機会が極端に限られてしまった。
今ではサッカーファンを除いてはJリーグがいつ開幕して、いつ試合をやっているのかを全く知らない人々が大半なのではないだろうか。

もちろんスカパーと契約を結ぶ以前からJリーグの地上波中継は減っていく傾向にあったので、そういう意味ではスカパーとの契約はJリーグにとって悪い選択ではなかったと思うけれども、これをずっと続けて行った場合、Jリーグがよりメジャーなリーグになる機会は極端に失われてしまうだろう。

ただしプロ野球などの、以前までは地上波放映が日常的にあって当たり前だったコンテンツも CSなどへの移行が進み、日本のプロスポーツは一部の注目試合を除いては「熱心なファンがお金を払って観るもの」という扱いが一般的になりつつある。

その中で、一部のファンのものとして安定した地位を築いていくのか、それともよりメジャーな存在を目指して攻めの姿勢を見せていくのか。

このテレビ中継を巡る問題での、Jリーグ側の対応が注目される。

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