ドイツから贈られる勇気。/ブンデスリーガ@VfBシュツットガルト 1-1 VfLヴォルフスブルク

Reflection of a heartReflection of a heart / Nganguyen

「未曽有の」と表現される大震災からおよそ 10日が経った。

関西に住んでいる僕には直接の被害は皆無だったけれども、それでも実家は横浜なので、関東には友人知人もたくさんいる。
遠く離れているとは言っても、地震と原発の問題が一段落するまでは気が気ではなかった。

僕はサッカーのことを考えない日はないほどの「サッカーバカ」を自認しているのだけれども、そんな僕がこの 10日間ほどは初めてと言っていいほど、サッカーのことを全く考えない日々を過ごしていた。

改めて、平和にサッカーを観れる日々の幸せを実感した 10日間だったように思う。

被災地に贈られたエール

今回の震災のニュースは世界的にも非常に大きく報道されているようで、リオネル・メッシやデビッド・ベッカムなどの名だたるスターたちから続々と日本への激励のコメントが寄せられた。

そして現在海外で活躍する日本人選手たちも、槙野智章や内田篤人、安田理大、長友佑都たちが試合後に被災地へのメッセージを示すなど、それぞれの形で復興を後押ししている。

ユース年代の頃は「調子乗り世代」と呼ばれた彼らだけれども、その裏ではこういう一面も持っている。
そんな人間味のある彼らが、僕はけっこう好きである。

そして今節のブンデスリーガでは、海外でプレーする日本人選手たち同士の対決が実現。
岡崎慎司の所属するシュツットガルトと、長谷部誠のヴォルフスブルクの対戦が行われたのである。

失墜した名門対決

この両チームは、それぞれ4シーズン前と2シーズン前にブンデスリーガ優勝を経験している名門同士である。

しかし今季はここまでなんと、それぞれ 15位と 17位。
降格争いをするほどまでに低迷してしまっている。

そしてこの試合もそんな順位を反映したような、「しょっぱい」ゲームとなった。

残留争いの直接のライバルとの対決ということで、両チームとも立ち上がりから気合は充分。

しかし攻めっ気は強いけれどもなかなかビッグチャンスには結びつけられずに、お互いに絵に描いたように気合いが空回りしたゲーム展開となってしまう。

そんなボタンを掛け違えたようなチグハグなゲームが動いたのは前半 40分。

ゴール前の混戦からグラフィッチが押しこんで、アウェーのヴォルフスブルクがまずは先制。
2シーズン前にはブンデスの得点王に輝きながら今季は絶不調に陥っていたエースストライカーが、5試合ぶりのスタメンで、実に4ヶ月ぶりのゴールをマークした。

ちなみに不振にあえぐヴォルフスブルクは、今季開幕から指揮を執っていたスティーブ・マクラーレンを2月に解任すると、その後任に日本でもお馴染みのピエール・リトバルスキーを指名。
しかしもともと「つなぎ」の監督だったリティに代わって、今節からはシャルケを解任されたばかりのフェリックス・マガトを呼び寄せていた。

つい先日まで内田篤人の指揮官でもあったマガトは僕たち日本人にはすっかりお馴染みで、「あれ?マガト消えたと思ったらまたマガトなの?」的なちょっとしたデジャヴー現象を起こしている。
まさに「切っても切ってもマガト」のマガト金太郎飴状態だ。

こうなってくるとマガトは実は2〜3人いるんではないか?という錯覚すら覚えるけれども、まあそれだけ日本人と縁のある監督だということだろう。
「鬼軍曹」と呼ばれるマガト本人も、日本人の粘り強く従順なメンタリティーを高く評価しているそうなので、将来はどこかJリーグのチームで指揮を執ってくれたりすると面白いかも、とか妄想してしまう。

そんなマガトは2シーズン前にヴォルフスブルクが優勝した際の監督でもあり、今回はいわゆる「モトサヤ」に収まった格好である。

スパルタ指導で選手たちからの評判は賛否両論あったそうだけれども、チームを良く知るマガトの復帰は、低迷にあえぐヴォルフスブルクにとってはこの上ない特効薬になる可能性もあるだろう。
実際、かつての教え子でもあるグラフィッチはいきなりゴールという結果を出したし、ヴォルフスブルクが大逆転で残留を決める可能性も充分にありそうだ。

「痛み分け」の日本人対決

そしてこの試合での日本人選手たちはと言えば、シュツットガルトの岡崎慎司、ヴォルフスブルクの長谷部誠ともに先発出場を果たした。

ただ長谷部に関して言えば、良くも悪くも無難な出来。
裏を返せば相変わらずインパクトに欠けるプレーぶりで、この日は前半限りで交代させられてしまった。

ヴォルフスブルクでの長谷部のプレーに関しては、特に攻撃面でやや物足りなさが残る。
代表で見せているような積極性を、クラブでもぜひ発揮してもらいたいところである。

対する岡崎慎司は、長谷部とは対照的にフル出場を果たした。

しかしこの日も持ち前の運動量を見せた岡崎だったけれども、肝心の攻撃面では決定機に絡むことはできず。
ここまでリーグノーゴール、そろそろ目に見える結果が欲しいところである。

試合はヴォルフスブルクが前半の1点をキープしたまま推移して、0-1 で迎えた後半ロスタイム。

このまま試合終了か?

と思われたその矢先。
終了間際にシュツットガルトのゲオルグ・ニーダーマイアーが同点弾をマークして、シュツットガルトが土壇場で同点に追いつく。
そして結局 1-1の同点でゲームセット。

両チームともに勝ち点3を逃す「痛み分け」の格好で、残留を賭けた試合の幕は閉じたのだった。

ドイツから贈られる勇気

ゲーム全体を観た感想としては、やはり下位チーム同士の対戦という感じで(ブンデスリーガとしては)レベルの高くない試合だったと言わざるをえない。

ただ僕は、それでも2人の日本人選手たちが先発出場を果たしたことに賛辞を贈りたい。

いま日本は戦後最大級の危機に直面している。

長谷部も岡崎も東北の出身ではないので身内に大きな被害があった可能性は低いけれども、それでも長谷部が6年間を過ごした浦和も少なからず被害にあっているし、兵庫県出身の岡崎は阪神大震災を体験している世代だ。
それぞれ思うところはあっただろうと推測するし、実際に2人とも被災地の復興を願う旨のコメントを残している。

僕のような一介のサラリーマンであれば、震災のニュースが気になって仕事に身が入らなくても多少は誤魔化しがきくけれども、彼らのようなトップアスリートとなるとそうはいかない。

そんな大変な状況でも気丈にプレーする彼らを、僕は日本人として誇りに思った。

国内ではJリーグの全試合が当面開催を見送っている状況だ。

しかしこんな時だからこそ、彼らのように海外でプレーする日本人選手の活躍が、被災地の方々に多少なりとも希望を与えるのではないだろうか。

少なくとも僕は、そう信じたいと思った。

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