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小笠原満男が大船渡高校へ進学したのは、のちの恩師を頼ってのことだった。

今から4年前の高校選手権で盛岡商業を全国制覇に導いた名将、斎藤重信が当時率いていたのが大船渡高校である。
小笠原満男はこの師のもとに下宿をしながら、大船渡の街で青春時代を過ごした。
当時は長髪の童顔で、サッカー小僧というよりも少女のような風貌だった小笠原を僕が知ったのも、ちょうどこの頃の事だ。

小笠原満男が目を腫らして会見に臨む姿を見るのは、それだけに切なかった。

東北地方で起こった大震災は、僕たち日本人に大きな宿題を与えた。

ユニクロの柳井社長や久米宏、イチロー選手などのように億単位の寄付をした人もいる。
江頭2:50やはるな愛、ジャニーズの田中聖などの有名人たちも、単独で現地に乗り込んで物資を届けるなどの支援活動をしたそうだ。

僕たち一般人には、なかなか彼らと同じように行動することはできない。

僕たちにできることと言えば、自分の無力さを嘆いて塞ぎこむこと。
目をふさぎ耳をふさぎ、目の前の現実から目をそむけること。
あとは、とにかく何かをやってみて、やっぱり力がないことを痛感することくらいだ。

何も出来ないことはみんな一緒だ。
あとはそれを、どういう形で知るかという違いに過ぎない。

『がんばろうニッポン』

そう銘打たれたチャリティーマッチが大阪で開催されるのを知ったとき、その場に足を運ぶことが、僕に与えられた責任ではないかと感じた。

サッカーの神様が本当にいるのかは知らない。
いたとしても、僕のような一般人の世話をやいているほど暇じゃないだろう。

だから僕は単なる偶然で、このプラチナチケットを手に入れることができたのだった。

長居スタジアムを包んだ熱狂

僕が長居で日本代表の試合を観るのは、この1年間で3回目のことになる。

代表の試合の雰囲気は、Jのそれとは全く違う。
言ってみればお祭りであり、言い方を変えれば「カオス」だ。

普段はジョギングに励むオッチャンと恐竜展を見に来た親子連れ、あとはセレッソファンがノホホンと過ごすだけの長居公園は、日本代表が来た瞬間だけはニューヨークも真っ青の「人種のるつぼ」と化す。

僕のようなサッカーオタク。
普段から地元チームを応援しているサッカーファン。
ワールドカップやアジアカップでサッカーに興味を持った人々。
彼らに連れてこられた人々。
さらに今回はそこに、チャリティー目的で足を運んだ人たちが加わる。

肌の色は同じでも、ここに集う4万人の趣向は万華鏡のようにカラフルだ。

彼らの放つそれぞれ違った色の吐息が、スタジアム内の空間を、何とも言えないエキゾチックな色彩に染めあげているように見えた。

日本代表の見せた「本気」

代表のキャプテン・長谷部誠は試合前、「ガチンコ勝負がしたい」と話していたらしい。
日本中の声援を背にして世界と戦った経験を持つ彼らは、今回の試合の持つ意味を理解していただろう。

そして前半、試合は長谷部が、そして僕たちが臨んでいた通りのものになる。

この日、黄色いユニフォームの対戦相手がJリーグ選抜ではなくブラジル代表だったとしても、サムライブルーは同じプレーをしたことだろう。

開始早々に見せた本田圭佑の気迫あふれるドリブル突破が、その合図だった。

本田に続けとばかりに、長友佑都が、内田篤人が、岡崎慎司が次々と前線のエリアに侵入する。

前々日の練習前に行なわれた代表選手・スタッフ参加の募金活動で、30分間の予定時間をさらに45分間も延長することを指示し、「今日はサッカー以上に大切な事がある」と語ったザッケローニ監督はさらにその株を上げ、今や日本のサッカーファンのハートを鷲掴みにしている。

そしてそのザックがこの試合、いよいよイタリア時代から磨き続けてきた伝家の宝刀、「3-4-3」のシステムを試した。

日本人の心の琴線に触れる人情味を持つ一方で、結果を問われないこのチャリティーマッチで新システムをテストする、ある種冷静でしたたかな面も併せ持つ。
ザッケローニはやはり、ワールドクラスの名将に他ならない。

そして 3-4-3はこの日、おそらくザックの想像していた以上に機能することになる。

相手が急造チームだというのはあるだろう。
選手たちがいつも以上にモチベーションの高い、特殊な試合だったという追い風もあったように思う。

それでもザックの狙いは、この日ほぼ完璧に達成された。

ワールドカップ・デンマーク戦のリプレイを観ているような遠藤保仁のビューティフルFKと、本田が奪い、本田が運び、本田が出したパスを岡崎慎司が決めた2ゴールで、20分も経たないうちに「本物」だということを証明した日本代表。

ヨーロッパのシーズン真っ只中に駆けつけ、代表キャップにすらカウントされないこのチャリティーマッチで、45分間のガチンコ勝負を披露した我らが代表チーム。

きっと僕たちはいま、10年後にも誇れる代表チームを目の当たりにしている。

代表チームの抱える課題

掛け値なしの好ゲームだった前半が終わり、迎えた後半。

ただやっぱり、良いことは長くは続かない。

主力が退き、両チームともメンバーを大幅に入れ替えた後半は、時間こそ前半と同じ 45分間だったけれども、見どころはそのうちの数分間に過ぎなかった。

すでにアジア最強を誇るザック・ジャパンだけれども、今後の課題はこの試合でハッキリした。
バックアップ層の拡充である。

メンバーがほぼ総入れ替えになったとは言っても、前半と後半での代表チームの落差はちょっと笑えない。
後半でまともにプレーできていたと思うのは、個人的には松井大輔ただ一人だった。

残念だったのはこの大舞台で「いっちょアピールしてやろう」というメンタルの強さを見せてくれた選手が、サブメンバーにはほとんどいなかったことだ。
このままでは宇佐美貴史や宮市亮、永井謙佑などさらに若い世代に追いぬかれていくのも時間の問題ではないだろうか。

そんな不甲斐ない代表チームを尻目に、後半はJリーグ選抜が奮起した。

中村俊輔はさすがのゲームメイク能力を見せて、後半のJ選抜は格段にボールが回るようになる。
そしてこの試合のハイライトは、82分に訪れる。

この時その場にいた4万人のうちのほとんどが、生まれて初めてこれほどの大歓声を耳にしたのではないだろうか。

ただ僕に驚きは無かった。
なぜなら、カズなら本当に決めてくれるのではないかという予感があったからだ。

そして僕は今でも真剣に、3年後のブラジルワールドカップでカズが代表入りしてくれることを期待している。

常識的に考えれば 99.9%あり得ない話なのは分かっている。
でもサッカー選手の、しかもフィールドプレーヤーが 44歳で現役であること自体が、既に常識では考えられないことではないか。

他の競技も含めて、44歳で新聞各紙の1面をジャックできる選手が、いったい他にどれだけいると言うのか。

カズ自身もおそらく久しぶりだったはずの、4万人規模の大観衆に囲まれた試合。
もしかしたら、2度と経験することがなかったかもしれない大舞台。
そのピッチに立つ権利を、日々のたゆまね努力でたぐり寄せ、そこで「キング・カズ」は結果を出した。

このゴールについて、日テレ・ベレーザの小林弥生選手が、自身のブログでこう表現している。

ピッチに立った全員の
ピッチに立てなかった全員の

気持ちをゴールにしてくれた

カズさん…

「勇気を与える」って、何だかチープな言い回しに聞こえる。

でもカズのゴールは、無力で非力な僕たちの想いを、何よりも雄弁に被災地に届けてくれた。

どんなことでも、決して不可能はないのだ、と。

カズに憧れてサッカーを始めた内田篤人は、この日、目の前で披露されたカズダンスに、食い入るように魅入っていたそうだ。

東北地方にも、同じようなサッカー少年、サッカーファンたちがいるかもしれない。

もし「サッカーの神様」が本当にいるのだとすれば、彼はそんな人々のために、カズをその使徒に選んだのかもしれない。

被災の辛さを知らない人間が「頑張って」なんて無責任な言葉はかけられない。
頑張らなければいけないのは、たぶん被災していない僕たちのほうだろう。

それでも今は応援することしかできない。

たたただ東北の仲間たちに、一日でも早く、以前と変わらぬ日常が戻ることを願っている。

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