インテルを襲った「春の悪夢」/UEFAチャンピオンズリーグ@インテル・ミラノ 2-5 シャルケ04

Spring Night Snow2
Spring Night Snow2 / Kamal H.

ビジネスの世界では、「信用を築くには時間がかかるけど、信用を壊すのは一瞬だ」という定説がある。

もちろんビジネス以外の場面でも、これが当てはまるシーンは多い。
日常生活においても然り。
そして、フットボールのチームでもまた然りだ。

この一週間で、インテル・ミラノは「壊れた」。

昨シーズンはUEFAチャンピオンズリーグ、セリエA、コッパ・イタリアの3冠を制してこの世の春を謳歌した現役チャンピオン。

今シーズンも序盤は出遅れたけれども、監督がラファエル・ベニテスからレオナルドに交代した後は調子を戻して、チャンピオンズリーグでもセリエAでもタイトルを狙える位置まで巻き返しに成功していた…はずだった。

そのインテルを待っていたのはしかし、セリエAとチャンピオンズリーグ、それぞれの天王山での「3点差の敗北」という悪夢だったのである。

崩壊したインテル・ミラノ

シャルケ x インテル、5-2。

この試合をリアルタイムで観ることができなかった僕は、スコアを目にした最初の瞬間、インテルが5点をとって快勝したものだと信じて疑わなかった。

実際、序盤はインテルのシナリオ通り。
むしろ、そのシナリオを上回る立ち上がりだったと言ってもいい。

試合開始早々、ペナルティエリア外の際どい位置に出たルーズボールを、シャルケのGKマヌエル・ノイアーが果敢なヘディングでクリアー。

これはビッグセーブになったけれども、不運にもそのクリアボールをインテルのデヤン・スタンコビッチが拾い、芸術的なダイレクトボレーで無人のシャルケゴールに流し込む。

50メートルはあろうかというこのスーパーゴールが決まったとき、時計の針は試合開始わずか 26秒を指したところだった。

ホームの 1stレグで理想的な先制点を挙げて、インテルが下馬評通りのベスト4進出に大きく前進。
この時点で、そう考えた人たちは多かったことだろう。

17分に CKからシャルケのジョエル・マティプの同点ゴールが決まった時も、インテルにそれほどの焦りは無かったように思う。

34分にはウェスレイ・スナイデルの絶妙な浮き球をエステバン・カンビアッソが落とし、最後はディエゴ・ミリートが押しこんで 2-1。
この時点まで、インテルの準決勝に向けた視界は良好だった。

雲行きが怪しくなったのは 40分、カウンターからシャルケのエドゥに 2-2となる同点ゴールを決められた当たりから。

そして迎えた後半、王者インテルは突如、音を立てて崩壊を始めてしまう。

53分、シャルケの細かいパス交換からジェフェルソン・ファルファンがスルーパス。
これを反転しながら受けたラウール・ゴンサレスが、DFをブロックする巧みなボディコントロールからのファインゴールを決めて、シャルケが 2-3と逆転に成功。

しかもシャルケの勢いはこれだけでは止まらない。

わずか4分後の 57分には、カウンターからアンドレア・ラノッキアのオウンゴールを誘発して 2-4。

直後にクリスチャン・キブーが2枚目のイエローで退場すると、75分にはポストでボールを受けたエドゥが振り向きざまに豪快なミドルを決めて 2-5と点差を広げた。

終わってみればアウェイゴール5点を献上する大敗北。

この結果ディフェンディングチャンピオンは、その威光の片鱗すら見せることのないまま、2ndレグに向けて絶望的なまでのビハインドを抱えることになってしまった。

インテルを襲った「春の悪夢」

3日前の ACミラン戦、0-3に続く3点差の大敗。

インテルがなぜここまで壊れてしまったのか、を一言で言い表すのは簡単ではない。

直接的にはルッシオ、ワルテル・サムエルといった守備の要を欠いたことによるディフェンス面での不安。
特にバイタルエリアでのディフェンスがルーズだったように感じられたけれども、原因はそれだけではないだろう。

ただそのあたりの分析は 2ndレグが終わってからに持ち越したい。

ちなみにこの試合は、史上初めて UEFAチャンピオンズリーグのベスト8で「日本人対決」が実現した試合でもあった。

中村俊輔が日本人初のCLベスト16に進出したのが 06年。
本田圭佑が初のベスト8進出を達成したのがつい昨年の話だ。

それほど昔の事ではないんだけれども、なんだか隔世の感がある。

この日は特に内田篤人の活躍が光った。

シャルケの一員として先発フル出場を果たした内田。
相手が相手だけにオーバーラップの機会は多くはなかったけれども、そのぶん守備面で貢献を果たす。

大きなミスもなく、むしろエトーやスナイデル、ミリートなどのワールドクラスの名手たちを相手に、冷静な対応を見せる場面が目立った。

自分をドイツに呼び寄せた恩師フェリックス・マガトが解任されたことで、内田自身はポジション争いに相当の危機感を持っていたようだけど、新監督のラルフ・ラングニックは逆に内田を絶賛し、マガト時代と変わらず不動の右サイドバックの座を与えている。
僕たちが考える以上に、内田のヨーロッパでの評価は高いようだ。

順当に行けば日本人初のチャンピオンズリーグベスト4進出の資格は、内田が手にする可能性が高いだろう。

対する長友佑都は、5点を奪われた後の 76分に交代出場。
チームが崩壊したあとの「出がらし」のような場面での出場で評価は難しいけれども、相変わらず精力的な動きを見せてはいた。

キブーが出場停止になることで、2ndレグは長友にも出番がありそうだ。

予想外の大勝・大敗劇と、日本人対決という要素が絡み合い、複雑なコントラストを描いたこの試合。

日本人ファンにとってはどちらが勝っても嬉しさ半分・悲しさ半分のゲーム。

しかしインテリスタたちにとっては、「春の珍事」では済ませられない、「春の悪夢」になったことは間違いなさそうだ。

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