復興を支える『東北人魂』。/J1リーグ@ベガルタ仙台 1-0 浦和レッズ

伊達政宗像伊達政宗像 / syonbori

僕は東北地方には一度しか行ったことがない。
それも高校の修学旅行でスキーに行っただけなので、東北の街を観光するような経験はしたことが無いというのが正しい。

阪神大震災が起こった時も、僕は当時まだ神戸の街に行ったことがなかった。
数年後に初めて神戸を訪れたとき、そこはすっかり綺麗な街になっていて、すでに震災の面影は消えていた。

いつの日が僕が初めて東北の街を訪れる時も、そうなってくれていたらいいなと思う。

2011年4月29日。
震災から49日を経て、ベガルタ仙台のホームスタジアム・ユアテックスタジアムで今シーズン初となるJリーグの試合が開催。

僕には現地のリアルな様子は分からない。
ただ、試合前日にようやくユアスタの最寄り駅である泉中央〜台原間の地下鉄が復旧したそうなので、スタジアム周辺でも震災の爪痕はまだまだ残っているのだろう。

そんな状況下での開催はリスクを伴うものだったのかもしれないけれども、結果的にこのゲームは、試合としても興行としても大成功に終わったのだ。

レッズを凌駕した「集中力」

『東北人魂』。

岩手県出身の鹿島アントラーズ・小笠原満男選手は、震災後からはこの文言が刻まれたスパイクを履いている。

小笠原いわく、東北人魂とは「強くて優しい」東北人のハートを表現した言葉なのだそうだ。
寡黙な性格ながら、鹿島の黄金時代の中核としてリーグ3連覇の立役者になった小笠原を見れば、そのイメージは鮮明に伝わってくると言えるだろう。

そしてこの日のベガルタ仙台が見せた戦いぶりも、まさに「東北人魂」を体現したようなものとなった。

個人の技量だけを見れば、代表クラスの選手たちを揃えた浦和レッズに比べて、ベガルタのそれは明らかに一枚劣ると言わざるを得ない。
しかし試合は、単純な足し算では決まらないものだ。

レッズはボールを優勢に保持しながらも、なかなかフィニッシュまで持ち込むことができない。

昨年まで2年間続いたフィンケ体制は色々と批判もあったけれども、サッカーの質自体は、この2年間で明らかに向上していたと僕は思っている。
しかし今、その財産は失われ、レッズは再び個人技頼みのサッカーに戻ってしまったように感じた。
少なくとも現時点では。

対するベガルタも、レッズと比べてより高度な戦術をとっていたわけではない。
攻撃のパターンは多くはないし、ファンタスティックなサッカーを見せるわけでもない。

あくまでも「しっかり守ってからの速い攻め」、というシンプルな戦術がベガルタ仙台のスタイルだ。

しかしそんな単純明快な戦術を、極めて効果的なものにする「特効薬」をベガルタは持っていた。

「集中力」である。

ベガルタはこの日、明らかにレッズを凌駕するモチベーションと集中力で試合に臨んでいた。

最終ラインはレッズの攻撃陣に自由を与えず、攻撃陣は豊富な運動量と執拗なサイドアタックでレッズの守備陣に揺さぶりをかける。

そして 40分、その集中力が実る。

右サイドでルーズボールを拾ったリャン・ヨンギのクロスから、太田吉彰のヘディングが決まって 1-0。

後半もこの虎の子の1点を守りきって、気迫に優るベガルタが、今季初の勝ち点3を手に入れたのだ。

復興を支える『東北人魂』。

この試合に先立つインタビューで、ベガルタの10番リャン・ヨンギは「サッカーをできる喜びを感じている」と語っていた。

実際、あの震災からまだ2ヶ月と経っていない。
現地では仕事が再開できない方々もいるだろうし、ましてサッカーどころではない人も多いのではないかと察する。

それでもこの試合、ベガルタの選手たちはプロとしての意地を見せ、サポーターは満員のスタンドでそれに応えた。

震災の規模から言って、復興には相応の時間がかかるだろう。
しかしどれだけかかろうとも、東北の人々はそれをやり遂げるのではないか。

実際、震災の直後の段階では、僕は4月の終わりに仙台でJの試合が行われる姿は想像できていなかった。
しかしそれは現実となって、しかもベガルタはそこで勝利したのだ。

この事実が東北の持つパワーを、何よりも雄弁に物語っているように思う。

そしてこの日のユアスタで、その原動力となった『東北人魂』の存在を、僕は確かに見たような気がした。

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