岩渕真奈を待つ試練のシーズン/なでしこリーグ@日テレ・ベレーザ 1-0 アルビレックス新潟レディース

Kimono enchantmentKimono enchantment / br1dotcom

今年ほど、日本サッカー界が外的要因の影響を受けた年は無いだろう。

震災によってJリーグは開幕の1試合を戦った直後に中断を強いられ、JFLや地域リーグなども軒並み開幕の延期を余儀なくされた。

中でも一番の影響を受けたのが女子サッカー界だろう。
女子サッカーの国内トップリーグ「なでしこリーグ」には、原発事故の当事者である東京電力の女子サッカー部、マリーゼが参戦していた。

しかし事故の影響から、マリーゼは活動休止に追い込まれてしまう。
母体の東京電力に今後も莫大な額の賠償が待ち構えていることを考えても、このままチーム消滅となる可能性も高いだろう。

なでしこリーグは3年前にも、強豪だったTASAKIペルーレFCが母体企業の経営不振で解散する憂き目を経験している。

今回のマリーゼの活動休止によって、リーグは9チームでの開幕となり、トップリーグには実業団チームは1つも無くなった。
ほぼ半官半民、絶対に潰れることのない超優良企業と思われていた東京電力までもがこんなことになってしまって、「一企業がスポーツチームを丸抱えする」運営スタイルは完全に崩壊したと僕は考えている。

今後はあらゆるカテゴリーで、地域に密着したクラブチームというスタイルが主流となっていくことだろう。

ところで今年の女子サッカー界はワールドカップイヤーだ。
本来なら夏のワールドカップに向けてアゲアゲ↑ムードの開幕となるはずだった今季も、実際にはそんなお祭りムードは皆無。
この日の平塚競技場に集まった観客数は、わずか350人。

今までになく重苦しいムードを引きずりながら、2011年のなでしこリーグは開幕を迎えたのである。

技術で競り勝った女王・ベレーザ

昨年のリーグチャンピオン、日テレ・ベレーザが開幕戦で対戦したのはアルビレックス新潟レディース。

MFの上尾野辺めぐみ、阪口夢穂、FWの菅澤優衣香といった日本代表クラスの選手を擁し、昨シーズンはリーグ6位になった実力派チームだ。

迎え撃つディフェンディングチャンピオンのベレーザは、このオフシーズンに澤穂希、大野忍、近賀ゆかり、南山千明という、チームのみならず日本代表でも主力を成す4人が移籍して、大きく若返りを図った。

この日のスタメンでも、25歳以上の選手は GK松林美久、DF須藤安紀子、MF伊藤香菜子の3人のみ。
逆に10代の選手は岩渕真奈、村松智子の2人。
残る6人が 20代前半の選手ということで、昨シーズンに比べて大幅に若いチーム編成となっている。

それでもゲームの主導権を握ったのは、やはりディフェンディングチャンピオンのベレーザだった。

伝統の高い技術力で中盤を支配すると、特に右サイドの木龍七瀬を中心とした崩しからアルビレックスの守備陣を攻略しにかかる。

しかしベレーザはポゼッションこそアルビレックスを上回ったものの、そこからフィニッシュに至るまでの形が見えてこない。
逆にアルビレックスはカウンターからの放りこみが主体の単純な攻めだったものの、ゴールに直結するプレーを続け、シュート本数ではベレーザを上回った。

しかしそんなチグハグなゲーム展開でも、最終的に 1-0で競り勝ったのは、やはり女王・ベレーザだった。

そしてその唯一のゴールを挙げたのは、やっぱりあの「スーパースター候補生」だったのである。

岩渕真奈を待つ「試練のシーズン」

この開幕戦に先立って、ベレーザと岩渕真奈のファンにとっては嬉しいニュースが届いていた。

岩渕が女子日本A代表、”なでしこジャパン” のアメリカ遠征のメンバーに選ばれたのである。

岩渕にとっては、昨年2月の東アジア選手権以来、1年以上のブランクを経ての代表復帰。
若手主体で行なわれた3月のヨーロッパ遠征でもメンバーから外れたことで、今年のワールドカップ出場は絶望視されていた部分もあったけれども、これで大逆転でのメンバー入りの可能性も見えてきた。

ただ見方を変えれば、なぜ今この時期に?という疑問も残る。

今シーズンの調子を見ての判断ということなら分かるけれども、まだ今季は1試合も戦っていない段階で岩渕の代表復帰は発表されたのだ。
プレシーズンのプレーは参考にしかならないし、岩渕が前々から構想に入っていたのだとしたら、もっと早い段階で呼んでコンビネーションを磨いておくべきだったのではないだろうか。
この時期に飛び込みでの代表招集というのは、ちょっと理解できない部分が残る。

そしてこの日の岩渕の出来自体も、個人的には満足できるものではなかった。

と言っても周りの選手と比べて、悪い出来だったというわけではない。
ベレーザの前線の一角としてそれなりの役割は果たしていたし、何と言っても貴重な開幕決勝ゴールを挙げたことは評価される。

それでも、大野忍が抜けた前線の新エースとしての期待値、そしてその持てるポテンシャルから考えれば、充分なプレーだったとは言えなかったように思う。

特に残念だったのは、後半に攻撃のシーンにも関わらず歩いている姿を見たときだ。
そして直後の 77分、岩渕は交代でピッチを去る。

岩渕真奈がこれまでで一番の輝きを見せていたのは、2008年の U-17女子ワールドカップでのプレーだったと僕は思っているけれども、あの時の岩渕は心底プレーを楽しんでいるように見えた。

しかし当時の岩渕の輝きが 10だとすれば、今は6くらいではないか。

それでもこの開幕戦で決勝ゴールを決める勝負強さ・スター性には感服するけれども、いまの岩渕は持てる才能を充分に活かしきれてはいないようにも映る。

もしかして何かメンタル面に問題を抱えているのかもしれない。
サッカー選手だということを除いて考えれば、普通に年頃の娘さんだけに色々あるのかもしれないけれども、それにしても歯がゆい。
あれだけの才能を持つ選手がそれを発揮しきれていない姿を観るのは、ファンとしても辛いところだ。

必要なら環境を変えるべき時期なのかもしれないけれども、岩渕はこの春にチームスポンサーでもある駒沢女子大学に入学したばかりなので、4年間は簡単には環境を変えられないだろう。

とりあえず現時点では、置かれた環境の中で少しでもモチベーションを高めてくれることを願うばかりだ。

ただし、どれだけ課題を抱えていようとも、時は待ってはくれない。

岩渕真奈と日本の女子サッカー界にとって、試練となるシーズンのスタートを告げる号砲は、既に鳴らされたのである。

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