「優勝できなかったから、不完全燃焼です。」
試合後にそう語った内田篤人の表情はしかし、充実感に満ちていたらしい。
“日本人初” の肩書きを携えて挑んだ UEFAチャンピオンズリーグ準決勝。
ここでの敗退が決まり、内田のチャレンジはいったん終わりを告げる。
2試合合計で 6-1。
それでも相手が3年前のチャンピオンであることを考えれば、妥当なスコアだったと言えるだろう。
5年ちょっと前までは無名の高校生に過ぎなかった青年は、いま霞がかった霧の向こうに、世界の頂点の影像を見た。
内田が得た充実感
「サッカーは別に好きじゃない。」
年俸2億円を稼ぐプロサッカー選手にも関わらず、内田篤人の発する言葉は素っ気ない。
この言葉の全てが本心だとは思わないけれども、半分は本音なのだろう。
ただ、清水東高校サッカー部で過ごした時間が「楽しくてしょうがなかった」と話す内田は、サッカーの持つ雰囲気に魅了された一人であることは間違いなさそうだ。
そんな内田が、初めて欲を出してサッカーに向き合ったのが今シーズンだった。
鹿島アントラーズでタイトルを獲りまくった後、刺激を求めて渡ったヨーロッパの地。
内田はここで、毎日朝起きてから夜寝るまでの間、このチャンピオンズリーグで優勝することを意識しながら生活をしてきた。
本人が「濃かった」と振り返ったこの数カ月間で、内田篤人は選手としても人間としても一回り大きく成長を遂げる。
たぶんサッカーのことも、以前よりはちょっとだけ好きになったんではないだろうか。
内田篤人の描いた集大成
試合内容を見れば、マンUとシャルケとの実力差は歴然だった。
控え選手中心のマンUは、それでもシャルケより数段速いパス回しと抜け目のないプレッシングを披露する。
結果的に4点を奪われ、シャルケに勝利のチャンスはほとんど訪れなかった。
それでも一矢を報いた前半 35分、シャルケの唯一のゴールシーンには内田篤人の姿があった。
内田がダイレクトで挙げたクロスをラウール・ゴンサレスが競り、そのこぼれ球をホセ・マヌエル・フラードが叩き込んで、マンUゴールキーパー、エドウィン・ファンデルサールの牙城を崩す。
本気で優勝を目指していた内田にとっては慰めにしかならなかったかもしれない一撃。
しかし、内田篤人のこれまでのサッカー人生で、もしかしたら最も重要なものとなったかもしれない1シーズンの集大成として、このゴールは象徴的なものではないかと僕は感じた。
無欲であるがあまり、周囲の環境に左右されやすいタイプの選手である内田篤人。
しかし常勝軍団・鹿島アントラーズが内田に勝者のメンタリティーを植えつけたように、シャルケには内田にとって最高のお手本がいる。
レアル・マドリードであらゆるタイトルを総ナメにした生粋の勝利者、ラウール・ゴンサレス。
そのラウールをリスペクトする内田篤人は、彼の背中を追うことで、さらなる高みへと飛躍を遂げるだろう。
現在、ブンデスリーガ 14位に低迷するシャルケ04。
来季はチャンピオンズリーグ出場の芽は無く、内田のヨーロッパの舞台での挑戦はしばらくおあずけとなる。
それでも、内田篤人はまだ 23歳。
2度目、3度目の挑戦の機会は、また必ず訪れるはずだ。
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