“よりによって” を残した大阪ダービー/AFCチャンピオンズリーグ@ガンバ大阪 0-1 セレッソ大阪

Osaka

「くっそ〜、”よりによって” セレッソなんかに!!!」

僕の職場は隣の部屋にビルの管理会社が入居しているんだけれども、その会社の事務員のお姉さんであるNさんが、熱狂的なガンバファンらしいということを最近知った。

奇しくも “大阪ダービー” となった AFCチャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦。
Nさんがこの試合を現地まで観戦しに行くと聞いていた僕は、試合の翌日に廊下で出会った際に「昨日は残念でしたねえ」と話を振ってみたんだけれども、「そうなんですよ〜」という言葉の後に返ってきたのが冒頭のセリフである。

ちなみに僕の周りにはもう1人、熱狂的なガンバファンがいる。
知り合いのご夫婦は奥さんがセレッソファンで、旦那さんが熱心なガンバファンだそうだ。
なおこのご主人が今回の敗戦のあとに残したコメントは「セレッソに負けるの5年半ぶりやねんで。何で “よりによって” 今回やねん!」だそうである。

そして大阪に暮らして7年、ガンバもセレッソも同じくらい好きな僕の感想は「”よりによって” ベスト 16で当たらんでも…。」という感じになる。

1回戦随一のビッグカードと見られたこの対戦は、終わってみれば色々な「よりによって」を生み出した、何とも世知辛い一戦となってしまったのだった。

プライドを賭けた「激闘」

「『やっぱ大阪はガンバやねんな』ということを証明する。」

ガンバ大阪の若頭、宇佐美貴史が戦前に言い放った強気な言葉に、頼もしさを感じたガンバファンも多かったことだろう。

実際、通算対戦成績ではガンバが圧倒。
セレッソがJ1に上がった昨年以降も、ガンバはセレッソとの対戦で負けていなかった。
「ガンバ有利」の見方が強かったのも当然だと言える。

「次の試合は歴史に残る一戦になるだろう。」

対するセレッソ大阪のレヴィー・クルピ監督はより慎重な姿勢を保ちながらも、この試合にかける強い意気込みを伺わせていた。

2008年にアジアチャンピオンに輝いている元王者・ガンバと、ACL初出場のルーキー・セレッソ。
「受ける青」と、「挑む桜」。

その構図はしかし、試合開始の笛とともに覆されることになる。

因縁のダービーマッチにして、アジアチャンピオンへの第一関門ともなる一発勝負のラウンド16。
この試合は両チームにとって、今シーズンの全試合の中でも際立って重要な意味を持つ一戦になったはずだ。
そしてそんな試合にふさわしく、立ち上がりは両者が激しいぶつかり合いを見せ、「激闘」を予感させるプロローグとなる。

ただし、次第にゲーム展開には一つの「偏り」が生じ始めた。

寄せの早いプレスで、ガンバの得意のパスワークを分断していくセレッソ。
対するガンバは徐々にプレスに綻びが見られるようになり、セレッソのサイドアタックを捕まえきれなくなっていく。

ガンバ大阪は現在のJリーグでもおそらくナンバーワンのパスワークを誇るチームだろう。
ただしガンバはその反面、パスワークを封じられると途端に力を発揮できなくなるという弱点を抱えている。
パスワーク一辺倒の攻撃は時として単調なものとなり、その場合に強引にでもゴールをこじ開けるようなオプションが乏しいのだ。
これが調子が悪い時の「ガンバの負けパターン」というやつである。

それでもかつてのガンバには、悪いリズムの時でも単独で局面を打開できるアラウージョやマグノ・アウベス、バレーのような選手たちがいた。
現在のガンバではその役割は宇佐美貴史あたりに託されるのだろうけれども、残念ながら今の宇佐美には、まだ前任者たちに匹敵するほどの力量は無い。

この試合でも、ガンバはセレッソの集中力のある守備の前に、その「負けパターン」にはまりかけていた。

しかしそれでも、試合には常に “流れ” が存在する。

序盤は鉄壁の守備で好リズムを創ったセレッソも、30分を過ぎるあたりからは徐々に集中力が低下し、ガンバに反撃の糸口を見つけられつつあった。

やはり地力のあるガンバが、後半にはシナリオ通りの巻き返しを見せるのか?

前半を 0-0で終えた時、僕は残り 45分間の展望をそんな風に考えつつあった。
ところが ーー。

僕がこの試合のターニングポイントになったと感じた瞬間は、後半開始の時点に訪れたのである。

命運を分けた「ターニングポイント」

サッカーの試合では前半をスコアレスで折り返した場合、後半もとりあえず同じメンバーで臨むことが多い。

もちろん前半の出来次第ではハーフタイムにメンバー交代をすることもあるけれども、どちらかと言えばそれはけっこう積極的な采配に分類されるレアケースだと思う。

しかしセレッソ大阪のレヴィー・クルピ監督はこの試合のハーフタイムで、いきなり2人の選手を入れ替えてきたのだ。
しかもこの交代で下がった選手は、現在のチームの「顔」とも言うべき乾貴士と、3月のJリーグ開幕戦の大阪ダービーで得点を決めた “元ガンバ” の倉田秋という、2人のキーマンだった。

乾と倉田は確かに前半の終わり頃には運動量が低下してきている様子はあったけれども、攻撃面ではそれぞれにある程度の見せ場も作っていた選手たちだ。

この交代は明らかにレヴィー・クルピ監督が、リスクを承知で「勝負に出た」瞬間だった。
そしてこの「攻めの交代劇」が、試合の展開を大きく左右することになる。

3シャドーのうちの2人だった乾と倉田を下げて、クルピはフォワードの小松塁とボランチの中後雅喜を投入。
そして前半はボランチだったキム・ボギョンを2列目に上げた。

これによってセレッソは中盤から前の運動量が復活し、再び強力なプレスが機能するようになる。
そしてセレッソが再びリズムを取り戻したことで、ガンバは掴みかけた流れを一気に失ってしまうことになった。

こうして迎えた後半は、もはや完全に「セレッソのゲーム」と化した。
セレッソは守備面だけでなく、攻撃面でもポジションを上げたキム・ボギョンが機能するようになり、キムを起点にチャンスを創るようになっていく。

そして 88分、運命の時が訪れる。

セレッソの中央でのボール回しから、バイタルエリアでキム・ボギョンがボールを受ける。
そしてキムのスルーパスに反応して右サイドを駆け上がったのが、サイドバックの高橋大輔。

高橋からクロスが上がる ーー。

ガンバのディフェンス陣だけでなく、おそらくセレッソの選手たちもそう考えただろう瞬間。
しかし高橋はその時、大方の予想を裏切るプレーを見せた。

高橋が放ったのは、クロスではなくミドルシュートだった。

これを予期していなかったガンバのゴールキーパー藤ヶ谷陽介は、完全に反応が遅れる。

そしてニアサイドに飛んだ高橋のシュートは藤ヶ谷の脇を抜け、ガンバのゴールに突き刺さったのである。

「ウワーーーーー!!!」

歓喜にむせぶセレッソサポーターたちと選手たち。
時間帯を考えれば、この1点はほぼ、勝負を決めるだけの重みを持った1点に違いなかった。
そして現実に両チームはこのスコアのまま、試合終了のホイッスルを聞く。

延長戦も視野に入りつつあった時間帯の失点だけに、ガンバの選手としては悔やんでも悔やみきれない1点だっただろう。
しかしこの試合に限って言えば、ガンバの敗北は決してアンラッキーなものではなく、むしろ「必然の敗北」だった。
それくらいセレッソはゲームを支配していたし、それを引き寄せたレヴィー・クルピ監督の采配も見事としか言いようがないものだった。

セレッソ大阪、「歴史に残る偉業」を目指して

こうして試合はクルピ監督が望んでいたとおり、セレッソにとって「歴史に残る勝利」に終わった。
ただし、これが “ダービーマッチでの勝利” 以上の意味を持つためには、セレッソはこの先も勝ち続けなければいけない。
つまり AFCチャンピオンズリーグのファイナルに進出してこそ、この勝利は真の価値を持つようになるだろう。

ちなみにこの試合の翌日に行なわれたラウンド16の他の試合で、名古屋グランパスと鹿島アントラーズが敗れて、日本勢で残るチームはいきなりセレッソ大阪だけになってしまった。

セレッソとガンバがここで当たらなければ両チームとも勝ち上がった可能性もあるだけに、そんな意味でも「よりによって」な試合になってしまったこの一戦。

中には「”よりによって”、残ったのがセレッソだけなんて…。」なんてことを思っちゃってるサッカーファンもいるかもしれないけれど、セレッソは大阪の代表として、そして日本の代表として、是非ともアジアの頂点に立って欲しいと切に願う。

そしてその時セレッソ大阪は、単に「歴史に残る一勝」を挙げただけでなく、真に「歴史に残るチーム」となっているはずだ。

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