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Guidepost / Michał Dubrawski

今からおよそ 70年前、”ラ・マキナ(機械)” と呼ばれたチームがあった。

それはアルゼンチンの強豪、リーベル・プレート。
変幻自在にポジションチェンジを繰り返す破壊的な5トップを擁し、選手たちが寸分たがわぬ動きを見せるそのプレースタイルから、スペイン語で「機械」という意味のニックネームがつけられたのである。

その後 ’70年代には、「トータル・フットボール」を掲げたオランダ代表が登場する。
そのスタイルは、いわば ’40年代のリーベルを進化させたようなもので、このオランダは「ラ・マキナ」と同じような意味合いを込めて “時計じかけのオレンジ” と呼ばれることになった。

僕はもちろん、この両チームを直接に体験した世代ではない。
だから実際に彼らがどのようなプレーを見せていたのかは、文献かダイジェスト映像程度でしか触れたことはない。

しかしこの 2011年に僕は、「ラ・マキナ」という語感の持つイメージに極めて近いチームを、リアルタイムで目のあたりにすることになった。

ひとつ意外だったのは、それが日本のチームだったことである。

U-17日本代表、快進撃の道のり

U-17ワールドカップ2011に乗り込んだ日本代表は、不思議なスタイルを持ったチームだ。

2009年大会の宇佐美貴史や 2007年大会の柿谷曜一朗のような突出した選手はいないけれども、しかし技術レベルは平均して高い。
そして吉武博文監督はこのチームの弱点=「個の力の不足」を補うために、組織の力でそれをカバーしようと試みた。

そうやって生み出されたスタイルが、徹底したパスサッカーである。

昨年の AFC U-16選手権で準優勝を飾って本大会へと進出した日本は、迎えたこのワールドカップでもフランス、アルゼンチンという強豪を出し抜いて1位でのグループリーグ突破に成功。
続く決勝トーナメント1回戦でもニュージーランドを 6-0と粉砕する。

そして 1993年大会以来、実に 18年ぶり、2度目のベスト8進出を決めたのだった。

にわかに優勝候補にも名を連ねるようになった日本。
こうして迎えたトーナメント2回戦では準決勝進出を賭けて、サッカー王国ブラジルと対戦することとなったのである。

そしてこの試合で日本は、世界を驚かせる戦いぶりを見せることになった。

ブラジルを凌駕した日本の中盤

曇天に覆われたメキシコ中部の都市・ケレタロのエスタディオ・コレヒドラ。
連日の豪雨の影響で、芝生にはところどころにぬかるみが見られるピッチコンディション。

しかしこの悪条件の中、日本は序盤、王国ブラジルを凌駕するようなサッカーを見せる。

立ち上がりから持ち前のパスワークとプレッシングを遺憾なく発揮する日本。
その圧力に押され、ブラジルはなかなかボールを前に運ぶことができない。
何と日本がブラジルを相手に、中盤の攻防で上回ったのだ。

これは僕にとっては、ちょっと衝撃的な出来事だった。
これまで日本はどのカテゴリーにおいても、スコアはともかく内容的には、ブラジルに圧倒されることがほとんどだったからである。

ブラジルとの対戦で僕が特に印象に残っているのが 2003年のワールドユース(現U-20ワールドカップ)だ。
この大会のベスト8でブラジルと対戦した日本は、現バルセロナのダニエウ・アウヴェスを中心としたブラジルの攻撃力に完膚なきまでに叩きのめされ、1-5と玉砕される。

試合後には日本のゴールを守った川島永嗣が悔しさから号泣したほどで、このとき僕は、「少なくとも向こう 10年、ブラジルには歯が立たないだろう」と絶望的な気分に陥ったものだった。

しかしあれから8年。
カテゴリーこそ違うものの、いま眼の前の試合で、日本がブラジルを相手に中盤の攻防で優位に立っている。
にわかには信じられないような光景が、そこには展開されていたのだ。

ただしサッカーファンのそんな感慨は、そう長くは続かなかった。

徐々に日本のプレスに慣れ始めたブラジルは、次第にその網の目をかいくぐってチャンスを創りだすようになる。

そして迎えた 16分。
コーナーキックから FWのレオに頭で決められて、日本はやはりと言うべきか、先制点を許してしまうのである。

点の奪い合いに持ち込まれた場合、どうしても不利になるのは日本のほうだ。
そういう意味でもあまりにも痛い失点。

そしてさらにこの1点は、ブラジルをテンションの面でも勢いに乗らせてしまった。

中盤の出足が早くなり、プレスの激しさを増すブラジル。
そうしていざボールを奪うと、9番のアデミウソン、10番のアドリアンを中心に縦に速い攻めを仕掛けてくる。
同時にディフェンスラインも強固で、最終ラインにはキャプテンのマルキーニョスを中心に鉄の壁を築いてきた。

中盤の構成力では優った日本だったものの、試合巧者だったのはやはりブラジル。
日本に中盤でパスを回させながら、決定機の数ではブラジルが日本を凌駕する展開が続く。

そんな流れのまま後半に突入した直後の 48分、追加点が生まれてしまった。

右サイドをドリブルで崩され、そこからクロスを上げられる日本。
これを中央で待っていたブラジルのエースストライカー、アデミウソンに決められて 2-0。

「ロマーリオ2世」と呼ばれる新星に、巧みなトラップからの振りの速いシュートでゴールを奪われ、日本はリードをさらに広げられてしまった。
そしてその後も日本は、このアデミウソンらの個人技を活かしたブラジルの攻めに、何度も決定機を許してしまうのである。

日本に無かった「個の力」

ちなみに結果を先に言ってしまうと、日本はこの試合を通じて、ポゼッション率では 52%とブラジルを上回った。

あの王国ブラジルを相手に日本がポゼッションで上回るなど、ひと昔前までは考えられなかったことである。
これひとつを見ても、今回の U-17日本代表チームの中盤がいかに高い構成力を誇っているかが分かる。

しかし結果的に日本は負けた。
その最大の要因は、やはり「個の力」の不足だった。

日本には無く、ブラジルにはあった「個人で局面を打開する力」。
それが最も端的に現れたのが、続く3点目のシーンだった。

60分、ブラジルが右サイドからミドルシュートを放つ。
これを GK中村航輔が弾いたリフレクションを、左サイドのペナルティーエリア内で拾ったのがブラジルの 10番・アドリアン。
そのアドリアンのマークにつく、日本の右サイドバック川口尚紀。

一瞬、バックパスを出すような素振りを見せるアドリアン。
しかし次の瞬間、アドリアンは軸足の後ろを通す切り返しで一気に縦に斬り込むと、瞬時にして川口のマークを振り切った。
そしてそのまま縦にドリブルで侵入したアドリアンは、角度のないコースから左足でシュートを放つ。

弾丸のようなスピードで日本のゴールマウスを捉えたこのシュートは中村航輔の指先をかすめ、ゴール左上に突き刺ささったのだった。

「見たか!これがブラジルのフッチボウ(サッカー)だ!!」

そんなアドリアンの咆哮が聞こえてきそうなほどの豪快な一撃。
まさにこれぞ「個の力」。これぞブラジル。

日本に無くて、ブラジルにあったもの。
それがこのワンプレーに凝縮されていたように、僕には感じられたのである。

日本代表、終盤の猛反撃

このゴールを受けて、スコアは 0-3。

普通に考えれば絶望的な数字。
ただし、日本はまだ死んではいなかった。

ゲームが終盤にさしかかるにつれて日本は徐々に、ブラジルのゴールを脅かすようになっていく。

その大きな要因の一つが「スタミナ」だった。

この準々決勝は、両チームともに大会5試合目のゲームとなる。
終盤、ブラジルは明らかに消耗の色を隠せなかった。
ガス欠を起こして運動量が低下し、徐々に中盤が間延びしてくるブラジル。

対する日本は、開幕戦からずっとローテーション采配を続けてきた起用法が、ここで実を結ぶことになる。
スタメンを固定せずターンオーバー制を敷いてきた日本は体力に余裕があり、それが終盤の走力に顕著に現れた。
日本にとうとう、反撃の時間帯がやってきたのだ。

まずは 77分。
交代出場の中島翔哉から絶妙なスルーパスが右サイドに出る。
これに抜けだしたのは、同じく交代出場した高木大輔。

このボールに追いついた高木がこれを中央に折り返すと、パス&ゴーで走りこんできた中島翔哉と大きなワンツーのような形が成立。
そしてこのシュートを中島が決めて 1-3。
日本に待望の1点目が生まれた瞬間だった。

その後もブラジルのゴールを脅かし続ける日本。
完全に足が止まってきたブラジルは足がつる選手も出始め、守るのが精一杯のような状態に。
日本はその隙を突いて、さらにブラジルを攻め立てていく。

そして 88分にはコーナーキックから早川史哉が決めて 2-3。
この土壇場で日本は、ついに1点差にまで詰め寄ったのである。

その後も猛攻を仕掛ける日本。
守るブラジル。

しかしブラジルには体を張ったディフェンスとともに、「王国のプライド」というもう一つの壁があった。
最後の最後で、その壁を突き崩せない日本。

そしてロスタイムの3分が過ぎたとき、非情なホイッスルが鳴る。
その瞬間、日本のベスト8での敗退が決まったのだった。

U-17日本代表の示した道しるべ

僕は AFC U-16選手権の頃からこの日本代表チームを見続けてきたけれども、これほど風変わりな日本代表チームにはこれまでお目にかかったことがなかった。

中盤の構成力は間違いなく過去の U-17代表で最高クラス。
毎試合スタメンが目まぐるしく入れ替わるけれども、誰が出てもチーム力が落ちることはない。
反面、前線には絶対的なタレントを欠き、ゴール前の力強さと創造性に物足りなさが残る。

基本的に「日本代表大好きっ子」の僕だけれども、白状してしまうと今回の U-17に関しては、心の底からは日本を応援することができないでいた。

それは僕にとって、このチームが良くも悪くも「ラ・マキナ(機械)」のように思えてしまったからである。

ブラジルを相手に1点差の戦いを演じたことは評価に値すると思う。
ただし 0-3とされてからスタミナの切れた相手に2点を返した展開は、やはり「負けゲーム」と考えるのが妥当で、同時にここがこのチームの限界だったのではないだろうか。

ただしもちろん、光る部分が無かったわけではない。

18年ぶりのベスト8という成績以上に、ブラジルを相手にポゼッションで上回った戦いぶりは、今後の日本サッカーの進むべき方向性に大きなヒントを与えたことは間違いないだろう。

もしこの中盤をベースに、「個の力」に長けた前線のタレントを融合させたようなチームを創ることができたとしたら、おそらくその時には「世界の頂点」も見えてくる。

今まで「雲の上の世界」だったその頂への活路を見いだせたという意味でも、このチームは日本サッカーの歴史上、エポックメイキングなチームだったと言えるのではないだろうか。

そして選手個々人を見ても、植田直通、岩波拓也、中村航輔、秋野央樹、早川史哉、南野拓実、鈴木武蔵など将来有望な原石を多く見つけられたチームだった。
当初はサブだったけれども先発に定着した石毛秀樹のように、大会を通じて大きく成長した選手もいる。

彼らが上の世代の代表やプロの世界で活躍する姿を楽しみにするとともに、ここに宇佐美貴史や宮市亮のような「個の力」を持つ選手たちが融合した時にいったいどんなチームが生まれるのか、それも非常に興味深いところだ。

ブラジルに敗れた試合の後、選手たちは人目もはばからずに大粒の涙を流した。

僕の日本代表に対する印象は「ラ・マキナ」だったけれども、もちろんプレーする選手は生身の人間たちに他ならない。
機械のように正確なプレーを見せたとしても、それは同時に「血の通った機械」でもあったのだ。

そして僕はそんな人間的な一面こそが、彼らが今後「サッカーマシン」から脱皮して真のフットボーラーとなっていくために、一番重要な要素ではないかと感じている。

独特のスタイルで、日本サッカー界に一つの道しるべを与えた U-17日本代表。

彼らの健闘を称えるとともに、この若きサムライたちがプレイヤーとしてもチームとしても、これからのサッカー人生を通じて、さらに大きく成長していってくれることを願っている。

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