U-17、日本が世界に学ぶもの/FIFA U-17ワールドカップ2011総括

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U-17ワールドカップの第1回大会が開催されたのは 1985年。
最初の開催国となったのは中国だった。

以来2年おきに開催されている同大会は、今年2011年のメキシコ大会で 14回目を数える。

FIFA主催の世界大会の中で最も若い世代の大会である U-17は、シニアの大会と比べると明らかに傾向の異なる部分がある。

これまで各大陸が U-17ワールドカップの優勝国を輩出した回数を見てみると、アフリカが5回、南米が3回、ヨーロッパが3回、北中米が2回、アジアが1回。
A代表のワールドカップを一度も制したことがないアフリカ大陸が、ダントツの戦績を収めていることが分かる。

この背景には「17歳以下」という年代はまだ肉体的・戦術的に未成熟な年齢で、フィジカルや戦術能力よりも個人技の占める部分が多いこと。
そしてテクニックと同時に、スピードなどの俊敏性が重視される年代であることが理由だと見られてきた。
このことから、黒人選手が大半を占めるアフリカ勢が強いと考えられてきたのだ。

ただし近年の大会を見ると、その傾向に変化が生じてきていることが分かる。

最多優勝がアフリカ勢だとは言っても、その5回の優勝のうち4回までが 1995年大会以前のもの。
97年大会以降は、南米3回、ヨーロッパ2回、北中米2回、アフリカ1回と、各大陸間の格差は(アジア・オセアニアを除いて)ほとんど無くなってきている。

そしてこの 2011年大会でも、その傾向は顕著に現れたのだ。

U-17、ベスト4の顔ぶれ

今からおよそ2週間前に決勝戦が行なわれた U-17ワールドカップ 2011年メキシコ大会。
この大会は開催国メキシコの優勝で幕を閉じた。

そしてベスト4に残った顔ぶれは優勝国のメキシコに加え、準優勝のウルグアイ、3位のドイツと4位のブラジルという面々である。

これがA代表のワールドカップでのベスト4だとしたら、それほど驚きの感じられないメンツだと言えるかもしれない。
ドイツとウルグアイは昨年の南アフリカワールドカップでもベスト4に残ったし、ブラジルは最多優勝記録を持つサッカー王国だ。
そして残るメキシコも、ワールドカップ決勝トーナメントの常連国である。

しかし U-17ワールドカップでは、ドイツは過去 14回の大会で一度も優勝経験はなく、今大会がようやく4回目のベスト4進出。
ウルグアイに至っては、これが史上初めてベスト4まで残った大会となった。

前回大会で初出場のスイスが初優勝を飾ったこともかなりのサプライズだったけれども、U-17の勢力地図は、1990年代までと比べて大きく変わりつつあると言えるだろう。

この背景には、それまで U-17に力を入れてこなかった列強、特にヨーロッパ勢の意識の変化が影響していると僕は考えている。

ドイツの取り組んだ「若年層の強化」

サッカーの世界で、その国の実力を底上げするためには「若年層の強化」が最も有効な方法だと言われている。

実際、20年前まではアジアでも弱小国に過ぎなかった日本も、’93年の U-17、’95年のワールドユース(U-20)、’96年のオリンピック(U-23)と下の年代から段階を追って世界大会に出場するという実績を残したことで、1998年のワールドカップ・フランス大会での初出場に繋がった。

また’95年の U-17を経て ’99年のワールドユース準優勝を経験した小野伸二たちの “黄金世代” が、2002年ワールドカップでのベスト16進出の原動力にもなっている。

日本はまさに、若年層を強化することでA代表の強化を成功させた顕著な例だと言える。

対してヨーロッパ勢、特にドイツなどは、以前は技術よりも「フィジカル・戦術・精神力」を重視するサッカースタイルを誇っていた。
ある意味で U-17で実績を残している国々とは対極に位置するスタイルであるためか、この U-17世代でのヨーロッパ勢の成績は振るわない、というのが少し前までのデフォルトだったのだ。

ドイツはA代表でこそ、持ち前の勝負強さから ’90年ワールドカップ優勝、’96年ヨーロッパ選手権優勝、2002年ワールドカップ準優勝とコンスタントに好成績を残していたけれども、その技術レベルは高いとは言えず、内容は決して豊かなものではなかった。

そしてその合間では’94年と’98年のワールドカップでベスト8敗退、2000年と2004年のヨーロッパ選手権に至ってはグループリーグ敗退という屈辱を味わっている。

しかしこれを受けてドイツは、10年ほど前から本格的に若年層の強化に着手した。

その結果、フィリップ・ラーム、バスティアン・シュバインシュタイガー、ルーカス・ポドルスキー、トーマス・ミュラーなどのテクニックに優れた選手たちが多数誕生することになり、それに連れてワールドカップやユーロでもコンスタントに好成績を残せるようになってきたのである。

また、ドイツに関しては移民の影響も大きいと考えられている。

現在ドイツに居住する移民とその2世・3世の割合は、ドイツの全人口の1割から2割にのぼると言われている。
その中でも多数派を占めるのがトルコ系移民だけれども、近年のドイツ代表はそのトルコ系の血を入れることによって、結果的に全体的な技術レベルをアップさせることに成功してきた。

南アフリカワールドカップでもメスト・エジル、サミ・ケディラたちトルコ系の選手が大活躍を見せたけれど、この U-17でも中心選手だったサメド・イェシル、エムレ・カン、オカン・アイディンらはいずれも移民系の選手。
さらにこのチームにはサミ・ケディラの実弟であるラニ・ケディラもいた。

移民系、特にトルコ系の選手の増加によって、ドイツのサッカーのスタイルも、よりテクニカルな方向へと進化しようとしているように見える。

かつてドイツと言えば「無骨で、不器用なサッカー」のイメージが強かった。
しかし現在では、その印象はかなり薄れつつある。
それがこの U-17年代での成績に現れてきているし、彼らが大人になってフィジカルの強さも身につけた時には、再びドイツが世界の頂点に君臨する時代がやってくるのかもしれない。

U-17代表たちの見せた戦術能力

このように世界的な技術力の向上も見られた今回の U-17ワールドカップ。
同時に顕著だったのが、戦術レベルの向上だ。

’90年代までの U-17と言えば、アフリカ系チームの個人能力を活かした「イケイケサッカー」に支配されていた。

しかし 2000年代に入ると、より組織化されたチームが個人技のサッカーを封じ込めるようになっていく。

今大会でもベスト4に残ったチームのうち、ブラジルだけはかなり個人能力に頼ったサッカーをしていたけれども、ウルグアイとドイツは高度に組織化されたチームだったという印象が強い。

ドイツはしっかりとした守備組織を構築して失点のリスクを避けながら、非凡な決定力を持つストライカー、サメド・イェシルを中心とした鋭いカウンターを最大の武器としていた。

ウルグアイも非常に洗練されたディフェンス組織を有し、出足の早いプレスからカウンターでワンチャンスを狙うスタイル。
U-17南米選手権で得点王だったファン・クルス・マシアが怪我で出場機会を失った影響もあって、突出した能力を持つ選手はあまり見つけられなかったけれども、こちらもドイツと同様に、チームとしての戦術理解度の高さが印象的だった。

またカウンター型のドイツやウルグアイとはスタイルが違うけれども、日本代表もこの年代では突出して戦術レベルの高いチームだったと言えるだろう。

対照的にブラジルは、前線で高い攻撃性能を見せつけたアデミウソン、アドリアン、そして日本戦では出場停止だったけれども、チェルシーへの移籍が決まっている「カカー2世」ルーカス・ピアソンといった豊富なタレントを抱えていた。
しかしディフェンス組織の拙さとスタミナ面・メンタル面での未熟さを露呈して、最終成績は4位に終わる。

今回のブラジルチームが ’90年代に結成されていたとしたら優勝していてもおかしくはなかったと僕は感じたのだけれども、それだけ今の U-17は「個人技だけでは勝てない」大会になってきている。
しっかりとチームとしての完成度を追求した国でなければ、若年層であっても世界は獲れない時代になったということが、より強く感じられた大会だった。

メキシコから日本が学ぶもの

そんな中、最も「個人」と「組織」のバランスが取れていたのは、やはり優勝したメキシコだった。

メキシコは個人技に長けた攻撃のタレントを多く擁する。

センターハーフのジョナタン・エスペリクエタのゲームメイクから、前線のアルトゥロ・ゴンサレス、マルコ・ブエノ、カルロス・フィエロ、フリオ・ゴメスのカルテットが分厚い波状攻撃を見せた。
さらにスーパーサブのレフティー、ジョヴァニ・カシージャスも印象的なプレーを連発するなど、層の厚さも抜群だった。

メキシコの凄いところは攻撃面だけではなく、守備面でも激しいプレスをかけ続ける高い組織力を持っていたことだった。
その「攻撃と守備」、「個人と組織」のバランスが抜群で、しかも先制したゲームを一度は逆転されながら、試合終了間際のゴールで再逆転して勝利した準決勝ドイツ戦のように「ここ一番」に強い精神力も備えていた。

結果的に7戦全勝での完全優勝。
大会 MVP争いも、1位のフリオ・ゴメスを筆頭に、3位までをメキシコの選手が独占する結果になった。
ホームの利があったとは言っても、メキシコの優勝は極めて妥当なものだったと言えるだろう。

そしてこのメキシコのサッカーは、日本にとってもひとつの指針となるのではないだろうか。

今大会の日本チームは洗練されたパスサッカーを武器にフランス、アルゼンチンと同居したグループを1位通過し、大会に旋風を巻き起こした。

その反面、前線の「個の力」という部分では、ベスト4に残ったチームとは差があったとも感じられる。

日本のディフェンスラインと中盤の組織力は世界屈指だったけれども、それでも日本のサッカーは準々決勝で個人技の象徴のようなブラジルサッカーの前に屈した。

そして今後、より上の年代で各国が組織力を高めてきたとき、この日本のサッカーがどこまで通用するかは多少の疑問が残る。

ただしそれでも、日本が見せた見事な中盤のパスワークと、誰が出てもチーム力の落ちない層の厚さ、そして一人の選手が複数のポジションをこなすポリパレントな能力は、日本でなければ実現できなかったスタイルだとも言えるだろう。

今回の U-17代表は未完成な部分もあったけれども、僕はこのスタイルが、日本の今後のスタンダードになっていくのではないかと予想している。

そしてこれだけの組織力を持ったチームに、宇佐美貴史・宮市亮などインターナショナルクラスの個人能力を持った選手たちが融合すれば、日本のサッカーはメキシコのように一気にブレイクする可能性も秘めている。

なでしこジャパンが世界を獲ったように、男子の世界でも日本の「技術・組織・チームワーク」のサッカーが世界を制することは不可能ではないはずだ。

そしてそれを最初に実現させるのは、まずは “若い世代のサムライ” たちなのではないかと、僕は感じているのである。

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