Samurai GirlSamurai Girl / Justin Hee

「サッカーの神様って、本当にいるんですよね。」

ピッチの上には、凡人には見えなくても、非凡な人物には見えるものがあるらしい。

冒頭のセリフを口にした選手は、実は1人だけではなかった。
奇遇にもそれは現在の日本の男子サッカー、女子サッカーを代表する2人のエースから、異口同音に語られた言葉である。

澤穂希と本田圭佑。

あれほどの選手たちが同じ言葉を発するとき、そこにはひとつの「真理」というものが見えてくる。

昨年の南アフリカワールドカップ、今年のアジアカップと女子ワールドカップ。
確かにそこに、「サッカーの神様」は居た。

ただそう考えたとき、僕はどうしても一つだけ答えの見つけられないことがある。

神様はなぜ、松田直樹を助けてくれなかったのだろうか、と。

マリノスを襲った悲劇

選手たちの左腕に、黒い喪章が巻かれる。

横浜マリノスはこの時、およそ5年ぶりの首位に立っていた。

昨シーズンの末に松田直樹、山瀬功治たちをはじめとする主力選手の大量解雇に踏み切って、痛烈な批判を浴びた横浜マリノス。
しかし今シーズンの好成績は、木村和司監督とフロントのその判断が、間違ってはいなかったことを証明する格好となっていた。

5年ぶりに横浜に到来した “遅れて来た春”。

しかしそんな季節を謳歌していたマリノスを、受け入れがたい出来事が襲う。
選手のほとんどが兄貴分と慕った元チームメイトから、突然届けられた「松田直樹の死」という訃報。

そしてその直後にマリノスを迎えたのは、どんな巡り合わせなのか、2位・柏レイソルとの頂点をかけた「天王山」だったのである。

ほとんどが20代の若者であるマリノスの選手たちにとって、おそらくこういう状況はそう馴染みのないものなはずだった。

松田を弔うために、是が非でも勝利を ーーー。

ほとんどの選手がそう考えていたことだろう。
しかし現実には、直前の「激動の一週間」で失われたメンタル面のコンディションは、そう易々と回復するようなものではなかったのである。

レイソルの誇る「2人のスナイパー」

マリノスが失点までに擁した時間は、わずかに8分。

レアンドロ・ドミンゲスの地を這うようなミドルシュートを食らって、ホームのレイソルに手痛い先制点を献上してしまう。

マリノスが今シーズン躍進を見せている最大の要因は、2年目となる木村和司監督の戦術が浸透してきたことにあった。

特にディフェンス時の猛烈なプレスと、オフェンス時の華麗なワンタッチパスの連動性が、「木村サッカー」の両輪だと言える。

しかしこの日のマリノスは、どこかエンジンがかかってこない。

鬼プレスは鳴りを潜め、時おり見られたパスワークも、自陣内限定のものになってしまっていた。

それに対してレイソルは、スタンドを真っ黄色に染めた大観衆の前で、ほぼ完璧に自分たちのサッカーを遂行していく。

昨シーズンまではJ2所属だった柏レイソル。
そのメンバー表を見ても、サッカーオタクの僕でさえ、あまり馴染みのないような名前もチラホラ見受けられる。
名前だけで見れば、まさに「J2仕様」のチーム構成だ。

しかしレイソルは、名将ネルシーニョに叩き込まれた、戦術の「型」を持っていた。

それほど高い位置からプレッシャーをかけるわけではないけれど、いったんバイタルエリアにボールが入ると、激しいプレスでこれを狩りにいく。

そしてボールを奪うやいなや、鋭いカウンター、または遅攻からのサイドアタックで、効果的にチャンスを紡ぎ出していくレイソル。
そこにあったのは、まさに “ブラジルの香り漂う” サッカーだった。

そして攻撃時にレイソルの「違い」を生み出しているのが、間違いなくキーマンとなる2人のブラジル人である。

レアンドロ・ドミンゲスの右足と、ジョルジ・ワグネルの左足。

利き足こそ違えども、この2人の脚から放たれるボールは、相手チームにとっては「悪夢」以外の何者でもないほどの精度を誇る。

マリノスはこの試合でも既に、レアンドロ・ドミンゲスに痛烈な一撃を浴びていた。
しかも、悪夢はこれだけでは終わらなかったのだ。

66分、カウンターから運ばれたボールはレアンドロ・ドミンゲス、そして左サイドのジョルジ・ワグネルのもとへ。
ここでジョルジ・ワグネルの「悪魔の左足」が火を噴く。

その左足から放たれたシュートはマリノスGK飯倉大樹の股下を抜き、試合に止めを刺す2点目を生んだのである。

マリノスは大黒柱・中村俊輔のフリーキックから反撃の糸口を探るものの、これもことごとくゴールポストやレイソルGK・桐畑和繁のファインセーブに阻まれる。

結局マリノスの反撃は実ることなく、2-0というスコアで試合終了。

首位攻防戦に敗れたマリノスは、柏レイソルにその座を明け渡すことになったのだった。

終わりなき “弔い合戦”

モチベーションは「低すぎてもいけないし、高すぎてもいけない」と言われる。

兄と慕った松田直樹の死は、おそらくマリノスの選手たちから心のバランスを奪ってしまったのだろう。

もちろんプロである以上、どんな場面でも結果を求められることはやむを得ない。

しかしいまの状況下では、彼らを責められないと考える人も少なくはないはずだった。

「サッカーの神様」は実在するのだろうか?

その答えを知るのは、ごく一部の人間だけである。

それでも本当にサッカーの神様がいるとしたら、これは神からマリノスの選手たちに与えられた「試練」に他ならなかった。

あまりにも重すぎる試練かもしれないけれど、彼らはこれを乗り越えることを、試されているのではないだろうか。

しかしその試練の先には、きっと「優勝」の2文字が見えてくる。

横浜マリノスの、松田直樹への想いを込めた “弔い合戦”。

それは決して、この1試合で終わったわけではないのである。

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