な〜つのほ〜わ〜り〜〜〜。
な〜つのほ〜わ〜り〜〜〜には〜〜〜。
と、森山直太朗の名曲『夏の終わり』を口ずさみたくなるようなこのシーズン、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
ところで僕は数年前から、「旅行にいった時にはなるべく現地でサッカーを見る」、という習慣を持つようにしている。
幸いサッカーは、世界中のどこに行ってもそのコンテンツが見当たらなくなることは無い。
そして旅先で観光を終えた後、その土地のサッカー文化に触れることは、僕にとっては食後のデザートを味わうのと同じくらいの至福のひと時だったりするのだ。
そして今回、名古屋方面に行く用事のできた僕は、初めて瑞穂競技場でのサッカー観戦にチャレンジすることになった。
当日はあいにくの雨。
しかしそこで観られたのは、「来て良かった」と心から思えるような、白熱の好ゲームだったのである。
グランパスのホームタウン、名古屋
僕が名古屋に来るのは、今回で3回目のことになる。
名古屋という街に来てみての印象は、ひと言で言えば「デカい」。
まあ日本の三大都市圏のうちのひとつ、中京圏の中核都市なのだから当然と言えば当然なのだけれども、やっぱり実際に来てみても「街が大きいなー」という印象だ。
名古屋駅前や、中心街の「栄」には高層ビル・百貨店が林立していて、地方都市とはスケールが違う「大都市」の雰囲気が漂っていた。
瑞穂公園陸上競技場は、そんな名古屋の中心街から電車で20〜30分、最寄りの駅から徒歩5分程度の距離にある。
Jリーグのチームの本拠地としては、悪くない立地条件だ。
この日は雨が激しかったけれども、大きなストレスを感じることはなく、僕はスタジアムにまでたどり着くことができた。
名古屋グランパスは、前節終了時点でJ1の首位に立っていた。
シーズン序盤は出遅れたものの、その後は前節まで16戦無敗という破竹の快進撃。
気がつけば昨シーズンのチャンピオンが、しっかりと本来の位置に戻ってきたという印象である。
対するベガルタ仙台は、逆に4試合を消化した時点で首位に立つなど、シーズン当初には絶好のスタートを切っている。
しかし夏場にさしかかるに連れてじわじわと順位を下げ、前節まで9戦未勝利。
まさに対照的な調子の両チームが、ここで相まみえることになったのだ。
スタジアムを包んだ「熱気」
降り注ぐ雨はキックオフ前後に、その激しさを増していた。
しかしそんなピッチコンディションを物ともせず、両チームは序盤から激しい肉弾戦を展開する。
名古屋グランパスは両サイドに起点を作りながら、最後はジョシュア・ケネディの頭を狙ったハイボールを入れる、というお馴染みの戦法をとる。
この日は特に玉田圭司のキレが良い。
そして攻守の要となる田中マルクス・トゥーリオも、相変わらずの迫力の攻撃参加を見せていた。
ただし、この日に関して言えば、より気持ちをむき出しにしてきたのはベガルタ仙台のほうだった。
ファウルも厭わない激しいボディコンタクトで、猛然とグランパスにプレスをかけていくベガルタ。
そしてひとたびボールを奪うと、太田吉彰、柳沢敦、リャン・ヨンギ、関口訓充の前線の4人が、鋭いカウンターを仕掛ける。
首位の名古屋相手に “一泡吹かせてやろう” という意欲がありありで、そのモチベーションがスタンドまでもヒシヒシと伝わってくるようだった。
そして両チームがハイテンションな攻防を繰り広げたことで、試合は序盤から沸騰しまくりの好ゲームとなっていく。
僕がこの試合で一番驚いたのが、試合の内容以上に、そのスタンドの熱気である。
この日は雨が強かったこともあって、観客数は13,365人と満員とはいかなかったけれども、そのぶんそこに集まったサポーターたちの熱意は凄かった。
僕はこの日に初めて名古屋でサッカーを観たので、普段がどうなのかはよく知らないのだけれども、この日に限って言えば、名古屋のお客さんたちはとにかく「ノリがいい」。
とりあえずワンプレーワンプレーへの、スタンドからのリアクションが大きいのだ。
相手チームである仙台へのブーイングも大きいけれど、そのぶん味方であるグランパスへのヤジも大きい。
しかし良いプレーにはスタンドが湧くし、チャンスのシーンでは大きな拍手が一体となってスタジアムを包む。
そしてアウェーの仙台のサポーターも、その雰囲気作りに一役買っていた。
数ではどうしても見劣りする仙台サポーターだったけれども、声援の熱の入れようではひけを取っていなかったのではないだろうか。
前半に仙台の選手がトゥーリオと接触して負傷した際には、仙台サポーターから「謝れトゥーリオ!」コールが飛び出した。
しかしその後にちょっと反省したらしく、ハーフタイムには同じ仙台サポーターから「ごめんねトゥーリオ!」「許してトゥーリオ!」のチャントが飛んだ。
これには僕の周囲にいた、地元の子どもたちも大爆笑。
ピッチ上の選手たちの頑張りと、スタンドの両チームのサポーターの生み出す雰囲気が組み合わさって、この日の瑞穂はとても素晴らしい雰囲気に包まれていた。
ベガルタ仙台の「気迫の勝利」
試合のほうは前半17分、コーナーキックの流れから菅井直樹のゴールでベガルタ仙台が先制。
その後も仙台の激しいプレッシングが続き、ホームの名古屋はなかなかリズムをつかむことができない。
後半にはウィークデーにも試合があった疲れが出たか、名古屋は徐々に運動量が低下し、ディフェンスが受け身になって寄せが甘くなり、さらにピンチを招くようになっていった。
それでも首位に立つ名古屋グランパスは、簡単に負けることは許されない。
ドラガン・ストイコビッチ監督は後半、永井謙佑・三都主アレサンドロ・藤本淳吾と、動きの鈍かった選手たちを次々と交代させ、攻撃の活性化を図っていく。
これが功を奏し、少しずつペースを握り返していく名古屋。
しかしこの日はどれだけ押しこんでも、最後の最後で仙台の体を張ったディフェンスに弾き返されてしまう。
終盤にはトゥーリオも前線に張り付いて、パワープレーからの猛攻を見せるグランパス。
しかしベガルタの気迫は、この日は90分間途切れることは無かった。
両チームの気迫と気迫がぶつかり合った好ゲームは、結局0-1のままタイムアップ。
ベガルタ仙台が名古屋グランパスの無敗記録を16で止める金星を挙げて、リーグの行方を面白くする勝ち星を手に入れたのである。
夏の終わりの「グッドゲーム」
僕がこの試合を観に行ったのは、単純に日程的に都合が良かったから、という意味合いが大きくて、そこに特別な理由があったわけではない。
しかし結果的に、僕にとっては “嬉しい誤算” と言えるような、見事なゲームを観せてもらった。
単純に技術レベルだけで言えば、仙台はJ1の中でもレベルが高いほうではないだろうし、名古屋にしても、必ずしもJで一番上手いチームだとは言えないようにも思える。
しかし “良いゲーム” は必ずしも技術だけで決まるものではない。
僕が重視しているのは、ピッチから発散される選手たちの “闘志” や “戦う気持ち” である。
これがあれば、それはスタンドに伝わる。
そして、その試合はグッドゲームになる。
名古屋で観たこの試合に、少なくとも僕は、そんな「グッドゲームの熱気」を感じたのである。
試合後、ホームで負けたグランパスにはゴール裏からブーイングでも飛ぶのかな、と思ったのだけれども、この日はその類はいっさい無く、逆に選手たちに温かい声援が送られていた。
これはここまで16試合負けなしで来たことに対しての「とりあえずお疲れ」的な意味合いが大きいのかなと思ったのだけれども、最後まで攻める姿勢を見せ続けたグランパスの戦いぶりも、無関係ではないのではないかなと僕は感じた。
“夏の終わりの一戦” が幕を閉じ、帰りの駅までの道のりは、大雨の中に人の波ができていた。
僕はその波を染めた赤いユニフォームの人々を眺めながら、こんな熱いサポーターたちに支えられた名古屋の試合を、またいつか観に来たいなと思ったのである。
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