あれから6年の時が経っていた。

「あれ」と言うのはワールドカップ・ドイツ大会のアジア最終予選、2005年の対北朝鮮戦のことである。

当時の日本は、北朝鮮との拉致問題がマスメディアで大きく取り上げられてから、まだ月日が浅かった。
また北朝鮮との対戦が12年ぶりだったということもあって、この対戦はかなりセンセーショナルな取り上げられ方をしていたと記憶している。

そして当時、日本生まれの日本育ちながら北朝鮮代表に選出された2人のJリーガー、アン・ヨンハ(現・柏レイソル)とリ・ハンジェ(現・FC岐阜)の2人にはマスコミの取材が殺到し、それは単なるサッカーの試合を超えた、政治的な出来事として世間の関心を集めていた。

2011年になった現在、北朝鮮のサッカーは、6年前ほどミステリアスな存在ではなくなったと言っていいだろう。

長らく国際舞台から遠ざかり「謎のチーム」のイメージがついて回った北朝鮮も、近年はアンダー世代の大会などで日本と対戦する機会も多くなっている。
さらに昨年の南アフリカワールドカップに出場したことで、その「秘密のベール」は相当にクリアーなものになったと言えるだろう。

そしておそらく、在日朝鮮人のJリーガーが増えたことも、それに一役買ったのではないだろうか。

前回の対戦時に2人だった北朝鮮代表のJリーガーは、今回はアン・ヨンハに加えてチョン・テセ(現・VfLボーフム)、リャン・ヨンギ(現・ベガルタ仙台)の3人に増えた。

気がつけば北朝鮮は、いつしか「謎のチーム」ではなくなっていたのである。

日本の迎えた苦戦

両国の国歌斉唱。

その時、チョン・テセの目には光るものがあった。

祖国のユニフォームを着て、生まれ育った国の代表と戦うという気持ちがどんなものなのか、僕には実感することは難しいけれど、それが特別なことなのだというのは理解できる。

少なくとも3人の選手にとって、この試合は単なる一戦を超えた意味を持っているはずだった。

しかし近年の北朝鮮の強化が進んでいるとは言っても、アジアチャンピオンである日本との力の差は簡単に埋まるものではない。

試合は序盤から、日本が圧倒する形で幕を開ける。

ただしポゼッションでは完全に上回る日本も、最終ラインに人数を割く北朝鮮の「壁」は、なかなか打ち破ることができない。

技術・戦術レベルでは日本が一枚上手も、次第に北朝鮮の粘りに手を焼く展開にハマっていくことになった。

そして、その苦戦の一因は明らかだった。

「キング」の不在である。

失われた「キング」の座

この試合、日本は本田圭佑をケガで欠いていた。

アジアカップでMVPを獲り、日本の新しい「王様」へと成長した本田圭佑。

とは言っても香川真司を筆頭に、日本の2列目は人材の宝庫である。
本田の不在も、それほど大きなハンデとは成り得ないと思われた。

しかし実際には、日本はこの試合で、本田不在の「穴」の大きさを痛感させられることになる。

中盤までのボール運びでは、日本は相変わらず見事なクオリティーを見せていた。

遠藤保仁・長谷部誠を軸としたパスワークでボールを支配すると、内田篤人・駒野友一の両サイドバックも積極的なオーバーラップからチャンスを創る。

またディフェンス面でも、最終的にチョン・テセにボールを集めてくる北朝鮮の攻撃を、テセのマークに付いた吉田麻也がほぼ完全に封じ込めていた。

ここまでの日本は、完璧に近い出来だと言って良かっただろう。

しかし最後のフィニッシュの場面で、どうしても北朝鮮の堅陣を崩すことができない。

僕はそこに、本田不在の「影」を感じた。

この日、本田の代役としてトップ下に入った柏木陽介も、決して悪い出来ではなかったように思う。
精力的に走っていたし、持ち前の技術を活かして、しばしばチャンスにも絡んでいた。

しかし本田がやっているような、数人のマークを引きつけながらも前線で起点をつくる重戦車のようなキープ、そして攻撃にアクセントをつける意外性にあふれたプレーまでは、この日の柏木からは伺うことができない。

本田のもたらす「強引」かつ「トリッキー」なプレーが、日本の前線に強烈な変化をつけていたことを、僕たちは改めて目のあたりにすることになったのだ。

そしてこの日、おそらくアルベルト・ザッケローニ監督にとっても誤算だったのが、本田のぶんもエースとしての働きを期待された香川真司が、特に前半、なかなか機能しなかったことだろう。

ザック監督はこの試合、香川真司をこれまでと同じように中盤の左サイドからスタートさせる。

しかしキレ自体は悪くはなかったものの、中央でタメをつくる本田という相棒を欠いたためか、香川はなかなかいい形でフィニッシュに絡むことができない。

香川がフィットしきれないこともあって、日本は中盤を支配こそすれど、フィニッシュが単調になってしまうというパターンにはまりこんでしまったのである。

日本代表、苦戦の末に得た進歩

ジレンマを抱えるような展開のまま前半が終わり、時間は試合開始から60分が過ぎていた。

ザッケローニ監督はここで柏木陽介に代わって、韓国戦で2アシストの鮮烈なデビューを飾った清武弘嗣を投入する。
そして清武をサイドに配置すると、その流れで香川真司をトップ下にスライドさせた。

結果的に、この選手交代が「ハマった」。

それまでも柏木とポジションチェンジしてトップ下に入る動きを見せていた香川だったけれども、サイドに適性があり、セレッソ大阪でも同時期にプレーして動きを理解し合っている清武が入ったことで、本来のキレのある動きが効果的にフィットし始めた。
ボールタッチが増え、香川を起点に日本が決定機を創り始める。

ゴールにこそ至らなかったものの、そこから清武、また同じく交代出場のハーフナー・マイクがビッグチャンスをつかんでいく。

しかし前半に比べれば得点の匂いは格段に増したものの、なかなかそれが結果に結びつかないまま、時間は刻一刻と過ぎていった。

そして迎えた後半ロスタイム。

ここに、ドラマは待っていた。

日本が得た右コーナーキック。

ショートコーナーで再開されたプレーは、長谷部誠のキープをはさんで、清武弘嗣のクロスでクライマックスを迎える。
そして大トリは、吉田麻也の劇的なヘディングシュート。

この瞬間、ついに均衡は破れ、苦しんだ末の、日本の勝利が決まったのである。

日本は「勝つべくして勝った」のか、それとも「逃しかけた勝利を拾った」のか。

そのどちらとも捉えられる難しい試合。

しかし、「キング」不在の中でも、徐々に攻撃の形を見い出したこと。

そして、「北の宿敵」から奪った勝ち点3。

これらが、日本のワールドカップへの道を少なからず前進させたことだけは、紛れもない事実だったことだろう。

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