7月に行なわれた女子ワールドカップ・ドイツ大会。
この大会中に実施されたドーピング検査で、北朝鮮女子代表チームの5人の選手からステロイド剤の反応が出て、FIFAから長期の出場停止処分が言い渡されていた。

これに対して北朝鮮側が出したコメントは以下のとおり。

「練習中に雷に打たれた選手を治療するために医師が処方した、『鹿の角から抽出したエキスで作った漢方薬』が陽性反応の原因だったことが分かりました」。

まさか、鹿がドーピングをしていのだろうか!?
その詳細はさておき、北朝鮮はこのペナルティーを受けて、レギュラーのディフェンス陣がごっそり出場停止となっていた。

またこの事件の影響もあったのか、日本戦での北朝鮮代表のスタメン11人の平均年齢は、実に20.9歳。
日本の25.3歳と比べて4歳以上若く、ユース代表とほぼ大差がないほどの若いメンバー構成である。

しかしこれを見て「楽勝じゃん」と思った僕は、やっぱりまだまだ青かった。

近年の北朝鮮の成長ぶり、そして8日間で4試合目という過酷な日程を照らし合わせれば、この「若さ」はむしろ、日本を苦しめる脅威となったのである。

“日本のサッカー” を見せた序盤戦

6チーム総当りのリーグ戦を戦い、上位2チームが来年のオリンピックへの出場を決めるアジア最終予選。

ここまでの日本はタイ・韓国・オーストラリアという難敵の続いた3試合を全勝で切り抜け、予選通過に王手をかけていた。
4戦目となったこの北朝鮮戦で勝てば文句なしの予選突破が決まり、引き分けでも他チームの対戦成績次第で通過の可能性がある。

ここまでの展開は、ほぼ理想的と言ってよかった。

ゲーム内容を見ても、若手主体で臨んだタイ戦と、続く韓国戦では苦戦を強いられたものの、最大のライバルと見られていたオーストラリア戦では日本らしいゲームを見せての快勝。

徐々に調子を上げてきていた日本が、この北朝鮮戦でも自分たちのサッカーを貫ければ、勝利の可能性は高いと思われた。

事実、序盤は得意の軽快なパスワークを随所に披露し、なでしこジャパンが次々とチャンスを創りだしていく。

相手はアジア最強クラスの強敵とは言え、主力5人を欠く、平均21歳にも満たないチーム。
「この調子なら、日本がすんなり予選突破を決めそうだ ーー 」。

しかしそんな僕の予感とは裏腹に、ものの10分で、日本に暗雲が立ち込めたのである。

アジアに君臨する強豪、北朝鮮

我々日本人からすれば、北朝鮮はいまだに国交がないこともあって、ベールに包まれた国だと言えるだろう。

特に男子サッカーの世界では長い間、北朝鮮は国際舞台へ登場してこなかった。
そんな事情から、北朝鮮のサッカーには未知の部分が多い。

ただし女子サッカーにおいては、北朝鮮はずっと以前からアジアの強豪の座を保ち続けている。

女子ワールドカップでは1999年大会から4大会連続で本大会に出場。
オリンピックでも2008年の北京オリンピックに出場している。

またアジアカップでも1989年の初出場以来、優勝が3回、準優勝3回、ベスト4も3回とほとんどの大会で上位をキープ。
アジア大会でも最近4大会のうち優勝2回、準優勝2回と抜群の安定感を誇り、まさにアジア最強国のひとつだと言えるだろう。

FIFAランキングでも2005年に中国を抜き、2010年に日本に抜かれるまでは、長年アジア最高ランクを保っていた。

北朝鮮でさらに特筆すべきは、近年のアンダー世代の成績である。

2008年からスタートしたU-17女子ワールドカップで、北朝鮮は初代の優勝チームとなって世界の頂点に立つ。
続く2010年の同大会でも、準決勝で日本に敗れたもののベスト4に進出した。

また一つ上のU-20年代でも、2006年のワールドカップで優勝。
2年後の2008年ワールドカップでも準優勝に輝いている。

この若い世代の台頭によって、北朝鮮はアジアだけでなく世界でも強豪の一角を占めるようになってきていた。

そんな北朝鮮だけに、若手主体とは言っても、その実力は本物だった。

特に、これまではフィジカルに任せたコンタクトプレーと、前線への単純な放りこみが目立っていたプレースタイルが、この大会ではよりショートパスを織り交ぜた「繋ぎ」の意識の高いものへと変化していたことは驚きである。

かと言ってこれまでの特長だった「強さ」も無くなったわけではない。
スピードとパワーを兼ね備えたツートップの突破力と、ショートパスで組み立てる中盤とのコンビネーションに、日本は前半途中から徐々にペースを握られるようになってしまう。

対する日本は次第に最終ラインが下がり、中盤が間延び。
結果的に前線が孤立し、得意のパスワークが分断されて攻撃の形がつくれない。

北朝鮮はそこに容赦ないハイプレッシャーをかけてくる。
それに対して、運動量で完全に後手に回ってしまった日本。

気がつけば前半が終わる頃には、日本はすっかり防戦一方の格好となってしまっていた。

序盤の好調ぶりと、その45分後に見せた姿との急激な落差。

そこに、中1日・中2日の連戦からくる「疲れ」の影響が無かったとは言えないだろう。

相手も同じ条件には違いないけれど、そこに日本と北朝鮮との「若さ」の差が生まれてしまっていたのではないか、と僕は感じた。

ロスタイムに待っていたドラマ

この悪い流れを受けて始まった後半、日本のとった動きは速かった。

後半開始間もない53分、大野忍に代わって安藤梢を投入。
遅れをとっていた「運動量」の部分での巻き返しを図る。

相変わらず満足に攻撃の形をつくることはできないけれども、この交代によって守備のバランスは一定の回復を見せ、前半ほど一方的には押し込まれなくなっていく日本。

これによって両チームの戦力バランスは拮抗を見せ、試合は一種の膠着状態へと突入していった。

そして残り10分を過ぎたところで、ゲームは突如動き出す。

82分、岩清水梓からのロングフィードに、ラインの裏に抜けだした永里優季が倒れ込みながら合わせてシュート。
これはキーパーにブロックされたものの、このリフレクションを北朝鮮ディフェンダーがオウンゴールして、日本に待望の先制点がもたらされる。

残りはもう数分。
当然、逃げ切りを図る日本。

しかし北朝鮮の執念が、最後の最後に日本を捕らえた。

後半ロスタイム。
北朝鮮が放り込んだロングボールに、近賀ゆかりが痛恨のクリアミスを冒してしまう。
ここから再びボールを繋がれて、最後はフリーの状態からミドルシュートを決められて、1-1。

この土壇場の同点劇で、けっきょく日本は、手にしかけていた勝ち点3を逃してしまうこととなった。

のちにこの場面を「人生で3本の指に入るミスだった」と振り返った近賀ゆかり。
試合直後には近賀の号泣する姿も見られたけれども、結果的にこの涙は杞憂に終わる。

この試合の後に行なわれたゲームでオーストラリアが中国に勝利。

この結果、日本の3大会連続・4度目のオリンピック出場が決まったのである。

日本が残した「最低限で、最高の」結果

ワールドカップで優勝して以降、日本国内では “なでしこフィーバー” が起きている。

過去に “Jリーグブーム” とその終焉を体験しているサッカー関係者たちは、「いつかはブームも去るだろう」と比較的冷静に受け止めているようだけれども、それでもこの追い風が長く続くに越したことはない。

ワールドカップ優勝で火がついた女子サッカー人気をオリンピックまで持続させるためにも、なでしこは絶対にここで負けるわけにはいかなかった。

しかしワールドカップの激闘から、休む間もなくなでしこリーグが再開。
その後にオールスター戦を挟んで、すぐに代表合宿がスタート。
主力選手たちはその合間にテレビ出演やメディアの取材を繰り返し、そんな状態で臨んだ「過酷すぎるアジア予選」。

心身のコンディションが万全だとはとても言えない状況である。
女子サッカーファンの間では、少なからず予選敗退を案じる声もあった。

そんな逆境の中、予想通りの苦しい試合を続けながらも、日本は見事に「予選突破」という結果を残す。

この予選でもゴールデンタイムで放映された韓国戦が29.0%、平日夕方に行なわれた北朝鮮戦が後半25.2%と驚異的な視聴率を叩き出したそうだ。

それだけ多くの人が観てくれているのだから、欲を言えばもっと日本が快勝する姿も見たかった…という気持ちも多少はあるけれども、ワールドカップから続いたあまりにも過酷なスケジュールを考えれば、そこまで求めるのはさすがに申し訳ない。

この北朝鮮戦も厳しい試合内容で、できれば勝ってすっきり予選突破を決めたかったけれども、むしろこれほどの過密スケジュールとプレッシャーの中、予選突破という「最低限かつ最高の結果」を残してくれたなでしこジャパンを、僕は改めて凄いチームだと思った。

何にしてもこれで来年のオリンピックまで、もう1年間 “なでしこ人気” が続くことになる。
ブームが最低でも1年続くのと、2ヶ月でしぼんでしまうのとでは雲泥の差だっただろう。

なでしこたちはまたしても実力で自分たちの未来を切り開いたわけで、サッカーファンとして僕は、彼女たちに感謝してもしきれない気持ちである。

ちなみに来年のオリンピックには、優勝候補の一角を占めるはずだったドイツの予選落ちが決まっている。
優勝へ向けてのライバルとなるのはアメリカ、ブラジル、フランスあたりに絞られてくるはずで、油断やよほどの不運がなければ、オリンピックで初のメダルを獲得することもかなり現実的だと言えるだろう。

正直なところ個人的には、ここまでこれほど頑張ってくれた彼女たちに「もう一度優勝を!」とまでは求めなくてもいいかなぁ…と思っている。
良いプレーを見せて、3位以上に入ってくれれば、僕的にはそれで充分に満足だ(まあそれも簡単なハードルではないだろうけど…)。

しかし僕がどう思ったところで、そんなものはやっている選手たちには関係がない。

彼女たちの気持ちは、澤キャプテンが代弁するこの言葉に集約されているのだろう。

「今度は金メダル…オリンピックの表彰台で、一番高いところに乗りたいと思います!」

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