日本に住んでいて、2011年が、いろいろな意味で「忘れられない一年」になったという人は少なくないだろう。

国内のサッカー界を振り返ってみても、日本代表のアジアカップ優勝に始まり、東日本大震災チャリティーマッチでのカズの劇的ゴール、U-17日本代表の18年ぶりのワールドカップベスト8、そしてJリーグ史上初のJ2昇格初年度での優勝を達成した柏レイソル、さらには同じく史上初となったJ2チーム同士による天皇杯決勝…と色々なことのあった一年だった。

そしてとりわけ、女子サッカー界にとっては未来永劫語り継がれるであろう年。
2011年は、そんな年として歴史に刻まれていくはずだ。

それは言うまでもなく、日本サッカー史上初の「世界チャンピオン」を生んだ年だったからである。

「INACに始まり、INACに終わった」2011年

2011年のスポーツ界は、まさに「なでしこ一色」に染まった一年だった。
ワールドカップ以前と以後とで、国内の女子サッカーを取り巻く環境は、何から何まで一変したと言ってもいい。

震災で大きな傷を負った日本にとって、なでしこジャパンの大活躍は、ひときわ強い輝きを放つ希望の光となった。

そして代表チームの活躍の影響を受けて、それまでは閑古鳥が鳴いているのがデフォルトだった女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」のスタンドにも、ケタ違いの数の観客が足を運んでくれるようになった。

そして2011年の国内の女子サッカーは、まさに「アイナックに始まり、アイナックに終わった」1年だったと言えるだろう。

INAC神戸レオネッサが初のメジャータイトルを手にしたのは今からちょうど一年前。
2011年の元旦に決勝が行われた、全日本女子サッカー選手権での優勝である。

2009年に1部リーグに初昇格したばかりの新興チームであるINACは、それ以前には大きな大会で優勝した経験が無かったわけだ。

しかし、それが何となく「意外」と感じられてしまうほど、この一年でINACは『女子サッカー界最強』の座を不動のものとしていた。

INAC神戸の「最強伝説」は、2010年の11月に星川敬が監督に就任したところからスタートする。

読売クラブのユース育ちで、黄金時代のヴェルディ川崎でもプレーした経験を持つ星川は、現役引退後は下部組織の指導者などを経て、2009年から日テレ・ベレーザの監督に就任。
ベレーザでは全日本女子サッカー選手権で優勝するなどの実績を残したものの、フロントと衝突して2010年シーズン途中に監督を解任される。

しかしその数カ月後に就任したINAC神戸レオネッサでは、就任後わずか2ヶ月でチームに初のタイトルをもたらし、その手腕が確かなものであることを証明してみせた。

そして2011年のオフシーズンに行った大補強で澤穂希、大野忍、近賀ゆかり、南山千明の日本代表4人と韓国代表のチ・ソヨンを獲得。

圧倒的戦力を備えたINACはシーズン開幕前から優勝候補の筆頭と見られていて、2011年シーズンはINACが予想通りの強さを見せつけるかどうか、がリーグ全体の大きな焦点ともなっていた。

そしてINAC神戸は見事、下馬評通りになでしこリーグでも初優勝を達成する。

目標にしていた「全勝優勝」こそ実現できなかったものの、13勝3分0敗の無敗での優勝を達成。
得失点差は+41、2位のベレーザに勝ち点で7の差をつけて、文句なしの結果を残した。

そしてその新女王・INACがシーズン2冠をかけて、2年連続の元旦決勝の舞台に駒を進めてきたのである。

「INACの独走」を阻止するには

試合の結果から触れてしまうと、INAC神戸が3-0でアルビレックス新潟レディースを下し、昨シーズンの全日本女子サッカー選手権、今シーズンのなでしこリーグに続き、メジャータイトルの3回連続優勝を果たした格好となった。

前半はアルビレックス新潟も速いプレッシングで善戦を見せたけれども、前半終了間際にINACの南山千明にゴールを許すと、後半は一転してINACの一方的なペースに。
立て続けにINACが2得点を追加し、結果的に3-0の大差がついた。

この試合のように、今シーズンのINACは前半は不調でも、後半に一気に突き放して勝利を手にするパターンが多い。

これはINACがなでしこリーグで唯一、実質的なプロチームとなっているために他のチームよりも練習量を多く確保することができるという事情から、スタミナ面で優位であることに由来していると考えられるけれども、見方を変えれば、それだけまだどこか「余裕がある」ようにも感じられるのだ。

なでしこリーグの2011シーズンを前半8試合・後半8試合に分けた場合、後半8試合だけで順位をつけてみると、実はINAC神戸は浦和レッズ・レディース、日テレ・ベレーザに続いて3位になってしまうのだけれども、これも裏を返せば前半戦でそれだけ大きなポイント差をつけていたわけで、仮に前半戦がもっと拮抗したものであったとしたら、逆に後半戦ではINACが差を広げていたことも考えられる。

ちなみに僕はお隣の大阪府に住んでいるということもあって、2011シーズンのINACの試合は5試合ほど生観戦に行って、ワールドカップ以降にスカパーで放映されるようになったテレビ中継も、見れる試合はだいたい全ての試合を見たのだけれども、それくらいの数の試合を見ても、INACが本当に最初から最後まで必死で戦っていた試合というのはほとんど記憶にない。

リーグ終盤の日テレ・ベレーザとの頂上決戦でも、まだどこか余力を残しているように(個人的には)感じられたし、やはり潜在的なポテンシャルという意味では、INAC神戸はリーグでも頭ひとつ抜けた存在だったと言えるのではないだろうか。

ただ、関西のチームということでINACを応援している僕としても、その優勝は嬉しいと感じる反面、INACがタイトルを独占する状態があまり長く続いてしまうことには危機感を覚える。
1強状態が続いてしまうと、それによるデメリットの面も色濃くなってきてしまうと感じるからだ。

実際に、フットサルのFリーグではINACと同じようにリーグ唯一の完全プロチームである名古屋オーシャンズがリーグの発足から4連覇を達成しているけれども、あまりにもオーシャンズが強すぎるためにリーグ全体がマンネリ化し、観客動員も多いとは言えない状態で既に頭打ちとなってしまっている。

しかしそうは言っても、それではINAC神戸や名古屋オーシャンズのようなチームが必要ないのか、と言うとそれは違う。

INACやオーシャンズは、選手たちにプレーに専念できる環境を与えているのであって、もしこういったチームが無ければリーグの大半の選手がアマチュアとなってしまう。
そうなれば当然、代表チームの弱体化にも繋がっていくわけであって、これでは本末転倒だろう。

理想を言えば、INAC神戸のようなチームがもう1つか2つ誕生し、リーグで3強、最低でも2強を形成する状態になってくれることが望ましい。

ただそのためにはもちろん、INAC神戸のように豊かな財力を持ち、かつ「女子サッカーにお金を使おう」という、世間一般的にはややレアーな考えを持ったオーナーや企業の存在が必要になってくる。

INACの対抗馬を考えたとき、現在最も近い位置にいるのが、昨シーズンのリーグチャンピオンである日テレ・ベレーザと、一作シーズンのチャンピオンの浦和レッズ・レディースになるだろう。
そしてその3チームを、今回の全日本女子選手権のファイナリストとなったアルビレックス新潟レディースや岡山湯郷ベルが追いかける構図となる。

これらのチームが来シーズン以降、INACと互角に渡り合おうと思った場合、複数の主力選手たちとプロ契約を結ぶことは最低限必要になってくると思われる。

しかし現在のところ日テレ・ベレーザ、浦和レッズ・レディースの両チームにしても、プロ契約を結んでいる選手は岩清水梓、山郷のぞみ、矢野喬子といったごく一部の代表選手に限られるという状態だ。

岡山湯郷は宮間あやだけが唯一のプロ契約選手で、残る選手は温泉街で働きながらプレーをしているそうだし、新潟レディースに至っては代表選手の阪口夢穂や上尾野辺めぐみでさえ未だに工場で働きながらサッカーをしていると聞く。

ただ、それでもその環境を徐々に改善していかなくてはINACの牙城は崩せない。
そして日本の女子サッカーの更なる発展にも、ブレーキがかかってしまいかねないだろう。

リーグ全体をプロ化するのは夢の夢でも、せめて代表選手とその予備軍の選手たちがプロとして生活できるくらいの環境整備は、近い将来に実現したらいいのになぁー…というのが僕の勝手な希望なのだけれども、現実問題として、そのために必要なのは何よりもまず「お金」になるはずだ。

具体的にはより高額のサポートをしてもらえるスポンサーを各チームが見つけること。
これが絶対の条件となってくる。

そうして財政的に潤った各チームがプロ契約選手数を増やし、INACに引けを取らない環境を整えることで、INACの独走状態に「待った」がかかり、優勝争いが激化してリーグが活性化する。

国内リーグをこのスパイラルに乗せていくことができるかどうか、が、来シーズン以降の女子サッカーの命運を左右すると言っても言い過ぎではないのではないだろうか。

“追い風に乗る” 2012年を目指して

もちろん、不況が続くこのご時世に大口のスポンサーを見つけることは簡単なことではないけれども、女子サッカーの発展のためには、それを少しでも実現に近づけていく必要がある。

そしてその鍵となるのは、ひとことで言えば「集客力」である。
女子サッカーが一定の観客動員数、テレビ視聴率を稼げる存在であれば、自然とそこにお金は集まっていくだろう。

その意味でも、なでしこの選手たちがメディアに露出して存在をアピールすることは大切なことだと思う。

年末年始もなでしこの選手たちがかなりのテレビ出演をこなしていたようで、一部からは「出すぎだ」との批判の声も上がってきているようだけど、それでも僕は、テレビに全く出ないよりは出たほうが良いと思っている。

ジャニーズにしてもAKB48にしても、有名になれば必ずある程度のアンチはつくものだ。
そして今の女子サッカー界にとって一番恐いのは、アンチを生むことではなくて、誰からも興味を持たれない、「忘れられた存在」に戻ってしまうことだと思うからだ。

ただひとつ気をつけなくてはいけないのは、あまりにも低俗な番組に出すぎることで、自分たちのブランド価値を下げるようなことが無いようにしていく必要はあると感じる。

ハリウッドの映画スターたちは、自分の商品価値を下げないために安易にテレビCMなどには出演しないと聞くし、日本のミュージシャンでも同じような理由でテレビ出演をしない人も多い。俳優でも映画や舞台には出るけれど、テレビドラマには極力出演しないという人もいる。
これらはあえてテレビへの出演を控えることで、自らのブランド価値をコントロールしている一例だろう。

なでしこジャパンにも川澄選手のように、頭の回転が速くてテレビ映えする選手もいるので、バラエティーに出て素顔の魅力をアピールすることが悪いことだとは思わない。
ただ、今後はある程度は出演する番組を選んで「出し惜しみ」することも、イメージ戦略として必要にはなってくるだろう。

また、年末の某特番でなでしこチームと番組チームとのフットサル対決をやっていたけれど、その中で番組チームの選手が相手の足を引っかける危険なファールを犯して、なでしこの選手を勢いよく転倒させる場面があった。
ガチンコ勝負のほうが番組が盛り上がるのは分かるけれど、こんな遊びの試合で現役の選手に怪我でもさせたらどう責任を取るのかと、さすがに腹立たしく思った。

このようにテレビというのは基本的に「面白ければ何でもアリ」の世界であって、アスリートの体調や品格を考慮してくれる場面は少ないと思う。

今年からはこのあたりは、クラブや協会がある程度の手綱さばきをしてくれることを期待したい。

ただそれでもありがたい事に、昨年はワールドカップ優勝後にメディアに大きく取り上げられたことによって、なでしこリーグの各チームには大口小口を含めてスポンサー契約の問い合わせが急増したらしい。

そして、今年2012年にはワールドカップと並ぶビッグイベント、オリンピックが控えている。

ここで再びメダルを獲ることができれば、なでしこのブランド価値もさらに高まることだろう。
そうすれば、リーグやクラブにより優良なスポンサーが見つかる可能性も大いに考えられる。

これまでも女子サッカー界は、常にオリンピック出場・ワールドカップ出場などの結果を残し続けることで、少しずつでも環境の改善にチャレンジしてきた。

そして今、日本の女子サッカー界にはこれまでにないほど大きな追い風が吹いている。

ロンドンオリンピックでは、このビッグチャンスを是非とも掴まなければいけない。

そうやって結果を出し続けることで、女子サッカーを取り巻く環境はより良いものになっていくだろう。

2012年もまた、女子サッカー界にとっては、大きな勝負の年となるはずだ。

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