濃密すぎた「120分 + α」/UEFAチャンピオンズリーグ@レアル・マドリード 2-1 バイエルン・ミュンヘン

Real Madrid - Peñarol

まさに「濃密な」120分間。
まるで極上のエスプレッソを味わうような、最上級に芳醇な時間。

もう一つの準決勝、バルセロナ × チェルシーとは全く違うゲーム展開ながら、このレアル・マドリード × バイエルン・ミュンヘンのゲームも間違いなく、「フットボールの極み」を見せてくれた一戦だった。

レアル・マドリーのジョゼ・モウリーニョとバイエルン・ミュンヘンのユップ・ハインケスは、ともにUEFAチャンピオンズリーグ優勝経験を持つ名将である。
そして両チームに共通する特長として挙げられるのが組織力。特にその組織的な守備力だ。

ボールを奪われた瞬間、すぐさま相手のパスコースを消しては、堅固な守備組織を構築。
そこに侵入してくる敵に対しては、容赦ないプレスをかけていく。

そしていったん攻撃に転じると、クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、フランク・リベリー、アリエン・ロッベンといった世界的な「クラック」たちが、その守備組織を次々と打ち破り、チャンスを創造していく。

このゲームの、特に前半の45分間は、かた時も目が離せないほどのスリリングな時間に満ちていた。

そんな名勝負の行方に微妙な影を落としたのは、おそらく「疲労」の存在である。

前半早々にクリスティアーノ・ロナウドの2ゴールで逆転したレアルだったけれども、その後に同点に追いつかれると、後半の途中からはバイエルンの猛攻を許す。

延長戦に入ってからは、エースのクリスティアーノ・ロナウドでさえも「らしくない」ミスを連発し、明らかに疲れが足に来ていることを伺わせた。
そしてそれは、最後のPK戦での敗退に繋がっていく。

ジョゼ・モウリーニョが不満を漏らした通り、なぜリーガ・エスパニョーラのタイトルを決定づける “エル・クラシコ” を、このチャンピオンズリーグ準決勝の間に行わなければならなかったのか?
1週間の間に、シーズンで最も重要な試合を3試合続けて行えば、どんなスーパーチームでも疲弊してしまう。

そしてバルサに続きレアルまでもが敗退し、チャンピオンズリーグ決勝を、現在世界最強とみられるスペインの両雄で戦うというシナリオは儚く散った。

だからと言ってバイエルンとチェルシーの勝利が色褪せるわけではないけれど、来シーズンに向けて、リーガが考えていかなくてはいけない重要な問題の一つになるだろう。

雌雄を決したPK戦

そして何と言ってもこの試合の主役となったのは、両軍のゴールキーパーたちである。

ともにこのポジションで “世界最高クラス” と評価されるイケル・カシージャスとマヌエル・ノイアー。

そして雌雄を決するクライマックスの PK戦で、この両雄が、その評価に値する輝きを放つ。

先攻のバイエルンが1人目のキックを決めた後、レアルの1人目のキッカーとなったのはクリスティアーノ・ロナウド。
しかし左を狙ったシュートは、ゴールマウスを守るノイアーに完璧にストップされる。

ノイアーは続くレアルの2人目、カカーのキックも見事にセーブ。
右手一本でバロンドール受賞者2人のキックを止め、世界にその実力をアピールしてみせた。

両チームとも2人ずつが蹴って 0-2。

崖っぷちに追い込まれたレアルは、しかしここから猛反撃に転じる。

バイエルン3人目のキッカーは、この試合でも活躍を見せたトニ・クロース。

ところがこのキックを、レアルのキーパー、カシージャスが意地のセービング。
さらに4人目のキャプテン、フィリップ・ラームのキックも立て続けにセーブする。

この時点で 1-2。

カシージャスの執念が実り、次の4人目が決めれば再びスコアが振り出しに戻るというところまで、レアルは勝負を引き戻したのである。

しかし、レアルの命運はここで果ててしまった。

続く4人目、セルヒオ・ラモスのキックは高々と上方へ打ち上がり、クロスバーを大きく超えていく。
そしてバイエルンの5人目、バスティアン・シュバインシュタイガーが決めた瞬間、120分間の激闘の幕は閉じたのである。

濃密すぎた「120分+α」

結果的に、PK対決を制したのはマヌエル・ノイアーだった。

ただしインプレー中のスーパーセーブも含めて見れば、試合を通じてより力を示したのは、イケル・カシージャスのほうだったと言えるだろう。

それでも2人のゴールキーパーを含め、両軍が全ての力を出し切った名勝負だったことに疑いの余地はない。

結果的にはバイエルンが勝ったけれども、この勝負の価値は勝敗を超えていた。

“世界最高峰” のフットボールを心の底まで堪能できた 120分+α の時間。

僕たちサッカーファンにとっては、今シーズンで最も印象に残る、ベストゲームの一つとなったのではないだろうか。

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