US Women's National Soccer Team  - 2007

「また、アメリカかー。」

今年に入って3回目となった、なでしこジャパンの対アメリカ戦。
さすがに戦前には「アメリカとばっかりやっても、意味ないんじゃないの?」という声も多かった。

しかし終わってみれば、これほど「やっておいて良かった」と思えたゲームもそうはないだろう。
本番のオリンピックを1ヶ月後に控えた日本にとっては、課題をあぶりだすための「最高のレッスン」になった試合。

それが、この3回目のアメリカ戦だったのだ。

「大敗」の裏の敗因とは

「1-4」。

刻まれたスコアは、確かにショッキングなものだった。

特にアメリカに対して、ワールドカップ決勝からアルガルヴェ・カップ、そして4月のキリンカップと3戦負けなしが続いていた日本にとっては、それなりに精神的にもダメージの大きい敗戦だっただろう。

ただ個人的には、日本がこの試合で得た “収穫” もまた、大きなものだったと感じている。

少なくともこの試合をオリンピックの本番でやられていたら「完全アウト」だったけれども、予行演習の段階で経験できたことで、日本には短いながらもその対策を練る時間が与えられたのだ。

代わりにここ3試合で手にしていた「自信」を失った部分はあるだろうけど、今年に入ってからは、アルガルヴェ・カップ決勝のドイツ戦以外は負けなしと順風満帆だったなでしこジャパンにとっては、多少緩みかかっていた緊張感をもう一度取り戻すという意味でも、プラスの側面は多かったように思う。

また、今回に関しては敗因もそれなりにハッキリしている。
それが僕が、この敗戦を深刻に捉えていない根拠でもある。

まず、日本はレギュラーのセンターバックコンビを欠いていた。

岩清水梓は怪我で離脱中。
熊谷紗希は温存のためベンチスタートで、先発が矢野喬子と宇津木瑠美という控えのコンビだったことは、序盤にディフェンスラインが安定感を欠いた大きな要因だっただろう。

言い換えれば日本にとっては、この試合はあくまでも「テストの場」だったのだ。

しかし、アメリカにとっては事情は違った。

日本に辛酸を嘗めさせられ続けていたアメリカは、世界ランク1位のプライドにかけても、これ以上日本に負けるわけにはいかなかった。
そしてアメリカは、立ち上がりから「勝負」を仕掛けてきたのである。

個人的には今回の最大の敗因は、アメリカがその戦術を変えてきたことにあると考えている。

ワールドカップ決勝で日本にPK負けしたアメリカは、ピア・スンドハーゲ監督がそれまでのフィジカル主体のサッカーから、日本の良さを取り入れたパスサッカーへとスタイルを進化させていくことを示唆していた。

そして実際、その後の日本との2回の対戦では、より「つなぐ」ことを意識したスタイルをとっている。

しかしこの2試合で結果が出なかったことで、アメリカは「原点回帰」する。
今回の日本戦でスンドハーゲ監督がとった対策は、「ワールドカップまでのスタイルに戻す」ことだった。

模索してきたパスサッカーをいったん捨て、以前のフィジカルを活かした「パワーサッカー」へと戦術をシフトさせてきたのだ。

これは短期的に見れば、至極真っ当な選択だったと言える。
ワールドカップまでのアメリカは日本との対戦で負けたことがなく、決勝でもPKで敗れはしたけれど、内容ではアメリカが圧倒していた時間帯が多い。

少なくとも日本と対戦する上で、このスタイルが有効なことは既に証明されている。
そして勝利にこだわったアメリカは、今回の親善試合でもなりふり構わず「勝つためのスタイル」を選択してきたのである。

過去2回の対戦では、「つなぐ」ことを意識して、比較的慎重な入り方を見せていたアメリカ。
しかし、今回はのっけからトップギアで、日本のゴール前にガンガン長いボールを蹴りこんでくる。

そしていったん日本がボールを持てば、容赦ないハイプレスが日本のボールホルダーに襲いかかった。

今回これほど点差がついてしまったのは、アメリカが徹底的に「勝利にこだわってきた」ことが大きい。
日本のストロングポイントである中盤をハイプレスで潰し、また日本のウィークポイントである「高さ・速さへの対応」を、ロングボール戦術で徹底して突いてきたアメリカ。

逆に日本は、佐々木則夫監督が「あえて試合前に特別な指示は出さず、選手たちに考えさせた」と語った通り、アメリカに対して特別な対策はとらず、あくまでも「普段通りのサッカー」を貫こうとした。
アメリカのキーマンであるアレックス・モーガンに何度もチャンスを創られながら、その後もモーガンに特別な警戒を払わないままフリーにしてしまい、DFとDFの間から裏に抜け出され続けたたことからもそれは伺える(まあ本来は、試合中に選手たちの判断で対処してほしい部分でもあるのだけど)。

これらを含めた「この試合に対する準備の差」が、結果的に大きな点差として顕在化したのだと僕は考えている。

そして、猛攻を仕掛けてきたアメリカに立ち上がりから圧倒された日本は、前半早々の3分に失点し、10分には追加点を奪われてしまう。
これで完全にリズムが狂い、終始劣勢のゲーム展開になってしまったことも、日本にとってはマイナスに働いたと言えるだろう。

日本に求められる「アメリカ対策」

ただし大敗したとは言っても、日本にその対策法がないわけではない。

むしろこの試合を教訓にして対策を講じることで、今回の差はオリンピックまでに埋められると僕は考えている。
仮にオリンピック本大会でアメリカと再戦する機会があっても、日本に勝機は充分にあるはずだ。

日本が一番注意しなければいけないのは、アメリカがハイプレッシャーをかけてくる立ち上がり15〜20分ごろまでの時間帯である。
日本よりも体格・走力ともに勝るアメリカにハイプレスをかけられると、日本はある程度「為す術のない」状態に追い込まれてしまう。
日本がバックラインからも中盤からも全くパスを繋げず、前線が孤立してしまったのはこのアメリカのハイプレスが原因だった。

ワールドカップの時は、何とかこの時間帯をゼロに抑えることでその後の反撃に繋げることができたけど、今回はこの時間帯に失点してしまったことで、完璧に相手のペースで試合を進められてしまった。

ただ超人的な体力を誇るアメリカと言っても、ハイプレスを90分間かけ続けることは不可能だ。
日本としてはアメリカがハイプレスをかけてくる立ち上がりの時間帯を、セーフティーなロングボールで逃げる、あるいはプレスが比較的ゆるいバックライン付近で何とかポゼッションするなどで凌ぐことが必要になってくる。

そうして時間を稼いでこの時間帯の失点を抑えることができれば、その後はアメリカのプレスも緩まって、日本にもチャンスが創れる時間帯がくるはずだ。

さらにディフェンス時には、アメリカの攻撃を封じる対策をとる必要があるだろう。

アメリカにとっては中盤またはバックラインからのロングボールが攻撃の起点になるけれど、ここから正確なボールを入れさせないように、ボールの出どころにしっかりとプレスをかけるのはまず大前提。
と言ってもアメリカはロングボールの精度が高い選手が多いので、それを封じるのも簡単ではないけれど、少しでもその精度を落とすための努力はする必要がある。

そしてアメリカで特に警戒しなければいけないのが、アレックス・モーガンの存在だ。

最大の脅威、アレックス・モーガン

アメリカのアビー・ワンバック、アレックス・モーガンのツートップは、今ではチームの「看板」になっている。
この試合でもワンバックとモーガンにそれぞれ2得点ずつを許したように、この2人を抑えることが、日本にとってはまず重要なアメリカ対策となってくる。

しかし32歳になって、全盛期に比べるとやや迫力が薄れてきた感のあるワンバックに対して、22歳のモーガンは今がまさに爆発的な成長の真っ最中。
現在ではワンバックよりもモーガンのほうが、より脅威的な存在になってきていると言える。

日本にとってはこのモーガンをどこまで食い止められるかが、失点の数に直結する重要なミッションになってくるはずだ。

元陸上選手のモーガンの最大の武器は、何と言ってもその「スピード」だ。
いったんスピードに乗らせてしまうと、モーガンがドリブルした状態で競走しても、日本のDFはまず追いつけない。

逆に日本の選手が先にボールに追いついたような場面でも、しっかりとボールをブロックしなければ、後ろから追走してきたモーガンに体を当てられてボールをかっさらわれてしまう。

しかもモーガンのドリブルは早いだけでなく、上体が安定していて体幹が強い。
日本の選手が当たりに行っても逆に跳ね返されてしまうような「強さ」を備えていることも、モーガンのドリブルを脅威にしている点だ。

男子に例えれば全盛期のマイケル・オーウェンのスピードと、ブラジルのロナウドのパワーを兼ね備えたような突破力を持った選手。
モーガンをそう評価しても、言い過ぎではないのではないだろうか。

さらにモーガンの怖いところは、そのシュート力。

スピードに乗った状態からでも、逆サイドのサイドネットに早く、低く、正確なシュートを突き刺す能力を持っている。
以前は左足のシュートが主体だったけれども、この日の2ゴールは両足でそれぞれ1点ずつを決められていて、その威力は凄みを増している。

そんなモーガンのストライカーとしての能力は、既に世界トップクラスだと思われ、ブラジルのマルタと並んで最も危険なアタッカーの1人だと言えるだろう。

このモーガンと日本のディフェンダーが1対1で対峙して、これを食い止めるのは至難の業だ。
それでも、日本は何とかモーガンに仕事をさせないように、徹底的に対策を練る必要がある。

月並みだけど、まずはモーガンに良いボールを出させないように、ボールの出どころを潰すことが重要。
それでもボールを出されてしまったら、1人で対応するのではなく、まず1人がチェックに行って、もう1人がカバーに入る、というような複数でのマークを徹底すること。

特に縦に抜けられることが最大の脅威なので、縦を切ってなるべくインサイドに追い込み、そこで2人目・3人目のDFが囲い込んでボールを奪うことが大事になってくる。

幸い、モーガンは個人の突破力・得点力は脅威だけれども、自身がマークされた場合にフリーの周囲にパスを出して、パスで局面を打開するような器用さはまだ無いように感じる。
日本としてはなるべくモーガンの個人能力を発揮させないように、組織でこれに対応する必要があるだろう。

日本が経験した「貴重な敗戦」

このように、大敗したとは言っても、日本ができる「アメリカ対策」はまだまだ残されている。
それをキッチリとこなしていけば、日本の勝機は充分に開けてくると僕は考えている。

もちろんアメリカが簡単な相手ではないことは再認識させられたけれど、それでもこの親善試合での1敗をもって「オリンピックでメダルは無理だ」と絶望してしまうのは早計だろう。

残された時間は多くはないけれど、その時間で日本は、どんな対策を講じてくるのか。

このショッキングな敗戦は同時に、日本が課題と向き合う猶予を与えてくれた、「貴重な敗戦」になったのではないだろうか。

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