なでしこJAPAN [2012年 カレンダー]

「ここに立てるのは選ばれた18人だけ。みんなに大切な思いがあって、大切な人がいると思う。ここからの6試合を、お互いのために戦おう」。

“言葉” とはときに、人の心を動かすものだ。

ちなみに中学時代に『スクールウォーズ』の再放送を見て、主人公・滝沢賢治の発した「ラグビーとは『ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン(一人はみんなのために、みんなは一人のために)なんだ!!』の言葉に感動し、その影響で高校はラグビー部に入ってしまった僕がその一例である。

しかしこう振り返ると、なんとも単純な人生を歩んできてますなぁ〜……。

それはさておき、オリンピック初戦に臨むロッカールームで、なでしこジャパンはキャプテン・宮間あやの冒頭の言葉でひとつになった。

ワールドカップの優勝から一年の時を経て、いよいよ迎えた『佐々木ジャパン』の集大成の舞台。
そのロンドン・オリンピックが、ついに開幕したのである。

日本を圧倒したフランスの脅威

今回のカナダ戦を考察するにあたっては、この1週間前に行われた親善試合・フランス戦に触れる必要があるだろう。

私事ながら本業のほうが忙しかったのでフランス戦の記事は書けなかったんだれども、このフランス戦で0-2と完敗したことで、ワイドショーなどでは「大丈夫か?なでしこジャパン!!」とメダルを不安視する報道が急増したのはご存知のとおりである。

ちなみに僕はこの試合、リアルタイムの放送は仕事をこなしながら「流し見」していたのだけど、その時には「これはちょっとマズイなあ」という印象が強かった。
1-4で敗れた6月のアメリカ戦の記憶と、この敗戦がシンクロしたからである。

しかもアメリカ戦の時は本番のオリンピックまでまだ1ヶ月以上あったけれども、フランス戦の時点では開幕まで1週間を切っていた。
この時点でアメリカ戦と同じような負け方をしているのなら、本番では大変なことになるのでは…という不安が頭をよぎったのだ。

ただ、その後にVTRで改めて確認をしてみると、僕のフランス戦の印象は少し変わった。

0-2の完敗には違いないけれど、フランス戦でのなでしこの戦いぶりは、決して悪い面ばかりだったわけではない。

この試合では立ち上がりから24分に失点するまでの時間帯に、フランスのハイプレスと、そこから繰り出されるショートカウンターの威力に日本は圧倒されてしまった。
そのため「フランス強し」の印象が強烈に残ってしまったけれども、実際には失点のあとから72分に2点目を奪われるまでは、基本的に日本のペースでゲームが展開していたと言っていい。

1点目の直後には大儀見優季がGKと1対1になる決定機を迎えているし、その後も宮間あやのFKから澤穂希がポストを叩くシュートを撃っている。
その他にも決定機は複数回あったので、そのうちの1本でも決まっていれば、試合展開は大きく変わっていた可能性が高い。

もちろん、立ち上がりの時間帯に圧倒されてその勢いで失点してしまったので、フランスに主導権を握られた末の「完敗」だったことは間違いないだろうけれども、場所がフランスのホームであったこと、なでしこジャパンはハードな国内合宿をこなしたばかりで疲労のピークにあったこと、フランスに到着してから中2日しか経っていなくて時差が解消されていなかったことなどを考えれば、フランスと言ってもイーブンな状態で戦えば、決して勝てない相手ではないとも思えた。

ただ、そうは言ってもフランスが強敵であることには違いはない。
中でもインパクトが強かったのは、黒人選手たちの圧倒的な身体能力だろう。

FWのマリー・ローラ・デリ、右ウイングのエロディ・トミのスピードや、DFウェンディ・ルナールの高さは驚異的だったし、それをルイサ・ネシブを始めとするテクニシャンたちが操るアタックは、日本にはない迫力に満ちていた。

しかし、身体能力の差と同じくらい、僕がこのフランス戦で日本との「違い」を感じたのは、「ワンタッチパスの数」である。

アメリカ戦でもフランス戦でも、日本がまず苦しめられたのは立ち上がりの時間帯で受けた猛烈なプレスだった。
この2試合で、「日本を攻略するためにはとりあえずハイプレスを仕掛けるのが良い」、と諸外国にインプットされた可能性は高い。

日本としてはそのハイプレスをかいくぐるためには、ある程度耐えしのぐ時間帯をつくらざるを得ないのは仕方がないところだろう。
しかし、そのプレスが多少緩まってきた時には、日本が逆にそのプレスをかいくぐってチャンスを創っていく必要がある。

その際にキーポイントになるのは、「パスワークを速くすること」に尽きるだろう。
具体的にはワンタッチ、ツータッチのパスを多く出していくことが、なでしこジャパンの攻撃の鍵になってくるはずだ。

惨敗したアメリカ戦では相手のプレスがきつすぎたこともあって、このワンタッチ・ツータッチパスが出る場面はかなり限られていた。

そしてその後のスウェーデン戦、オーストラリア戦ではプレスこそ緩くなったけれども、なでしこのワンタッチパスの数はそれほど増えてはこなかった。

そうして迎えたこのフランス戦。
相手のフランスは随所で華麗なワンタッチパスを披露していて、そこから生まれるリズムは黒人選手たちの身体能力と同じくらい、フランスの大きな武器になっていたように思う。

対するなでしこジャパンは、身体能力以前にこのワンタッチパスの数で、フランスに水を開けられてしまっていた。

ただし、なでしこからワンタッチパスが失われてしまったのには理由があるはずだった。
実際、以前のなでしこジャパンはワンタッチパスをもっと頻繁に繰り出していたし、3月のアルガルヴェ・カップから4月のキリンチャレンジカップまでの好調時の得点シーンを振り返っても、ワンタッチパスを絡めた得点が多いことが分かる。

なでしこジャパンからワンタッチパスが減った一番の理由は、やはりコンディション不良ではないかと僕は考えている。
ワンタッチパスが繋がらない、というのはパスの出し手だけの問題ではなくて、「受け手」が良い場所に動けていないことが大きい。
つまりオフザボールの動きが少ないということになるのだけれども、それを支えるのはまず「運動量」だ。
時差や合宿疲れなどのコンディション不良が原因となって運動量が低下していたことが、なでしこからパスワークが失われた大きな要因だったのではないだろうか。

しかしこのフランス戦でも、日本も良い時間帯にはワンタッチ、ツータッチのパスが出てきてはいた。

一番象徴的だったのはTV解説でも触れられていたけれども、前半42分、大野忍がフリーキックをもらったシーンである。

最終ラインの熊谷紗希から出たボールを、阪口夢穂、澤穂希、川澄奈穂美と3本のワンタッチ、ツータッチパスで繋いで、最後は大儀見優季がスルーしたボールを受けた大野忍が、バイタルエリア正面でファウルをもらう。

そして、これで得たFKを宮間あやが蹴り、ボールは右のポストを叩いた。
さらにそのリフレクションに反応した澤が逆サイドを狙ったものの、再びポストに当たり、けっきょくノーゴールとなったシーン。

得点には至らなかったけれども、この試合で一番ゴールに近づいた瞬間。
そのプロセスに日本のワンタッチ・ツータッチでのパスワークが絡んでいたのは象徴的だった。

そしてそのパスワークの片鱗が垣間見れたことに、僕は「なでしこ復調」を感じたのである。

カナダ戦で見せた快勝劇

そんなフランス戦を終えて、ついに迎えたオリンピック本大会。

初戦の相手・カナダとの過去の対戦成績は3勝3分3敗と全くの五分。
カナダはFIFAランキングでも7位につける強豪だ。

逆に言えばビッグトーナメントの初戦で、日本の状態を計るには格好の相手でもあった。

カナダはアメリカと同じように、立ち上がりから早いプレッシャーを仕掛けてくる。

しかしこの試合は、アメリカ戦と同じような展開にはならなかった。
なでしこジャパンはそのプレスをかいくぐり、カナダを相手に確実にチャンスを創り出していったのである。
そしてそこには、蘇った “スピーディーなパス回し” があったのだ。

アメリカ戦、フランス戦では激しいマークにあい、パスの供給源として機能しきれなかった澤穂希と阪口夢穂のドイス・ボランチが、このカナダ戦では大活躍。
この2人を軸に速いパスサッカーが復活したことで、日本は本来の輝きを取り戻していく。

そして33分、その素晴らしいパスワークから先制点は生まれた。

左サイドの澤のスローインから大野、澤、再び大野と繋いで、ボールキープした大野がヒールで出したパスから、裏に抜け出したのは川澄奈穂美。
川澄が角度のないところからのシュートを見事に決めて、日本が 1-0と先制に成功する。

さらに44分には、左サイドバック鮫島彩からのクロスから、宮間あやが珍しくヘッドで決めて 2-0。

そして後半のカナダの反撃を1点に抑えたなでしこジャパンが逃げ切って、まずは「勝ち点3」という上々のスタートを切ったのである。

日本は1位通過を目指すべきか?

この日の前半の日本は、ほぼ文句なしの仕上がりだった。

後半は少し運動量が落ちたけれども、まだ初戦だということを考えると、ここからコンディションは上がっていくだろう。
日本はコンディションのピークを決勝トーナメントに合わせているはずなので、狙い通りに行けば最高の状態に仕上がるのはグループリーグが終わったあとになるはずだ。

ところで今大会は、組み合わせの面でひとつ話題になっていることがある。
日本が所属するのはグループFだけれども、ここを1位で通過した場合、決勝トーナメント1回戦で当たるのがグループGの2位ということになる。
そしてグループGに所属するのがほかでもない、日本がテストマッチで完敗したアメリカとフランスなのだ。

これを受けてメディアやネット上では、「日本はあえて(アメリカ・フランスとの対戦を避けられる)グループ2位を狙うべきだ」という意見も上がっている。
2位通過した場合でも、トーナメント1回戦で当たるのはグループEの2位のチームなので、グループ首位との対戦は避けられる。
なるほど、そう考えると確かに一理あるアイディアだ。

ただ個人的には、2位抜けを狙った場合でも、それはそれでデメリットも発生してしまうような気がするのである。
一番気になるのは、「2位通過を狙う=勝ち点をわざと落とす」ことで、日本の士気が下がってしまうことだ。

冒頭の宮間の言葉からも分かるように、スポーツというのはメンタルな部分というのが結果を大きく左右するものだ。
特になでしこジャパンは昨年のワールドカップでも、ドイツやアメリカといった強豪にガムシャラにぶつかっていったことで、不可能と思われた勝利を挙げ「優勝」という結果を残すことができた。

日本人はただでさえ駆け引きが上手くない国民性なのに、下手に勝ち点計算などしようとすると、逆に自滅に繋がってしまう気がするのである。

さらに言えば2位通過をしたとしても、決勝トーナメント1回戦ではブラジルかイギリスと当たる可能性が高い。

なでしこジャパンはブラジルには4月の親善試合で4-1と快勝している。
しかしこれはホームでの試合だった上に、ブラジルは現在の実質的な “世界最優秀選手” であるエース、マルタを欠いていた。

なでしこジャパンはマルタのいるブラジルとは5年前の2007年に対戦しているけれども、その時からは両軍のメンバーも変わっているし、マルタのプレーも進化しているだろう。
もしオリンピックでブラジルと対戦することになれば、なでしこジャパンにとっては「未知のチーム」との対戦に近い可能性がある。
となると、これはこれでリスキーな対戦カードじゃないかという気がしてしまうのだ。

またイギリスが来た場合には、今度は開催国が相手ということで「完全アウェー」の戦いを強いられることになる。
しかもイギリスの母体をなすイングランドには昨年のワールドカップでも0-2で完敗していて、日本は相性が良くない。

そう考えると、たとえ2位通過したとしても、それほど大きなメリットは無いのではないかと僕は思うのだ。

ただそれ以前に、そもそも佐々木則夫監督が、そういった駆け引きを打つタイプの監督ではないようにも思える。

佐々木監督は昨年のワールドカップでも、グループリーグで2連勝して決勝トーナメント進出を決めた後の第3戦・イングランド戦で、(控えメンバーを試すことなく)前2戦と同じメンバーを使って「勝ち」に行った前例がある(そして結果は負けたんだけども)。
それくらい、チームとしての「一体感」や「勢い」を大切にする監督なのだとも言えるだろう。

そう考えると、このオリンピックでもストレートに1位通過を狙いに行く可能性が高いと僕は見ている。

しかし考えてみれば昨年のワールドカップでも、ドイツ、アメリカといった「絶対に勝てない」と思われた相手とのゲームで勝利したことで、日本は優勝までたどり着くことができた。
今回のオリンピックでも金メダルを狙うのであれば、こういった「修羅場」を最低でも2回程度はくぐり抜ける必要があるはずだ。

僕の予想通りに日本が1位通過をしたとしたら、最初の “修羅場” は決勝トーナメント1回戦でやってくる。

その場合、今のところ対戦する可能性が一番高そうなのはフランスになるだろう。
なでしこジャパンにとっては、先日の雪辱を晴らす「リベンジマッチ」も兼ねた一戦になる。

フランスは間違いなく強敵なので、もし対戦することになれば相当にタフな試合が予想される。
しかし逆にこの山を超えれば、メダルはもうすぐに手の届くところまでやってくる。

試合は日本時間で金曜日の20時からだということも考えると、これは日本中が注目する大一番になるかもしれない。
いろんな計算を抜きにして考えれば、いちサッカーファンとしてはぜひ、こんな試合を見てみたいという気持ちもあったりするのだ。

なでしこジャパンの迎えた「集大成」

いずれにしても、もうオリンピックの戦いの火蓋は切られた。

しかも今回は、ただのオリンピックとは違う。
佐々木監督や一部のベテラン選手たち、そしてもしかしたら澤穂希にとっても、最後の大会になるかもしれない “集大成” のオリンピックである。

まずは監督、スタッフ、選手たち、その全員にとって悔いの残らない戦いをしてほしい。
その先に「メダル」という結果が待っていれば、こんなに素晴らしいことはないだろう。

僕は1年前、日本サッカーを初めて “世界チャンピオン” に導いてくれた彼女たちの戦いに、心の底から感動を味わった。
20年間サッカーファンをやってきて、本当に良かったと思えた瞬間だった。

そしていま、そのチームの最後の勇姿を、しかと見届けたいと思っている。

例えどんな結果に終わったとしても、それで彼女たちの偉業が色褪せることは、決してないはずだ。
だからなでしこジャパンには外野の雑音を気にせず、とにかく全力で戦ってきてほしい。

そしてそんななでしこジャパンを全力で応援することが、僕たちファンにできる、彼女たちへの最大の「恩返し」になるだろう。

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