関塚ジャパン、快進撃の終焉/ロンドン・オリンピック@U-23日本代表 1-3 U-23メキシコ代表

Mexico City Cathedral
Mexico City Cathedral / Francisco Diez

関塚ジャパンの快進撃が止まった。
予想以上に、メキシコは強かった。
そしてこれまでの相手と違っていたのは、単に「上手い」というだけでなく、メキシコが明確に「組織化」されたチームだったことである。

ここまでの4試合を「組織の力」で勝ち上がってきた日本は、同じく組織プレーを身につけた強敵の前に、ついに力尽きることになってしまった。

攻撃のドスサントスと、守備の組織力

舞台は前日のなでしこジャパンと同じ、ロンドンのウェンブリー・スタジアム。
“フットボールの聖地” はこの日、82,372人の大観衆で埋められていた。

準決勝の相手・メキシコとは、直前のテストマッチでも対戦して 2-1 で勝利している。
これまでスペインやエジプトといった強豪を下してきた日本にとって、決して勝てない相手ではないはずだった。

そして実際に、まずリードを奪ったのは日本である。
12分、大津祐樹の目の覚めるようなミドルシュートが決まって、1-0 と先制に成功。
ここまで4試合を戦って失点ゼロ、ロースコアゲームでの逃げ切りを得意とする日本にとっては、理想的な立ち上がりだったと言えるだろう。

ちなみにメキシコは最近ではアンダー世代の強化に力を入れていて、2005年と2011年のU-17ワールドカップで優勝、2011年のU-20ワールドカップで3位になっている。
そしてこのロンドン・オリンピックでも、優勝候補の一角として大会に乗り込んできていた。

そんな躍進するメキシコの象徴的存在なのが、このオリンピックでも10番を背負うジョバニ・ドスサントスである。
2005年のU-17優勝の立役者で、2010年の南アフリカワールドカップでもA代表として活躍。
今回のU-23代表でも、そのドスサントスのテクニックが攻撃の中心に据えられていた。

そして攻撃の核がドスサントスなら、メキシコの守備を支えるのは「組織力」である。
メキシコのディフェンスはよく整備されていて、後方でブロックを築きつつ、いったん中盤にボールが入ってくると、連動したプレッシングでボールを奪い取っていく。
その組織的守備の前に、日本は先制こそしたけれど、立ち上がりからペースを握られる時間が続いていた。

そして迎えた31分、ドスサントスのコーナーキックからマルコ・ファビアンに決められ、とうとう同点に追いつかれてしまう。

日本はこの日、エジプト戦で負傷退場したエースの永井謙佑を強行出場させていた。
しかしやはり完全な状態ではなかったのか、永井にはこれまでのような爆発的なスピードが感じられない。
結果的に、日本の最大の武器である永井を中心にしたカウンターアタックは、この試合では鳴りを潜めることになってしまった。
逆に同点ゴールで浮き足立った日本は、失点以降もメキシコに押し込まれ続け、前半のポゼッション率はメキシコ61%、日本39%という結果に終わった。

そして迎えた後半戦。
結果的には、ここでの両監督の采配が、その後の両チームの運命を、大きく分けることになったのである。

日本を襲った「悪夢」

1-1の同点だったこともあって、日本の関塚監督は後半も同じメンバーでスタートを切った。
しかしメキシコのルイス・フェルナンド・テナ監督は、何とここでエースのドスサントスを下げ、長身FWのラウル・ヒメネスを投入してきたのである。
ドスサントスは負傷を抱えていたという情報もあって、得意のドリブルは確かに、思ったほど機能していなかった。
それでも1アシストをマークしたエースを下げるというのは大胆な采配である。
そしてその大胆さが、結果的に後半のメキシコをさらに勢いづかせることになった。

ちなみに前半のメキシコは、ボールを保持するとまず早めにドスサントス、オリベ・ペラルタのツートップに当てて、そこを起点に攻撃を組み立てる戦法をとっていた。
しかしドスサントスが下がったことで、左のマルコ・ファビアン、右のハビエル・アキーノの両翼を起点にする戦術にシフトする。
そして、この変更がハマった。
前半はやや窮屈そうにプレーしていたファビアン、アキーノの両サイドが、後半は存分にその突破力を活かすようになっていく。
特に、僕が勝手に「メキシコのヒクソン・グレイシー」と命名した左サイドのファビアンは、23歳とは思えないほど貫禄あふれるプレー(と風貌)で、後半はメキシコの攻撃の中核となっていった。

そしてメキシコのこのワイドな攻撃の前に、日本は前半以上に劣勢に立たされてしまう。
押し込まれて徐々にラインが下がり、中盤が間延びしてメキシコに自由にボールを回させてしまう日本。
攻撃の場面でも前線との距離が離れ、ボールを奪ってもアバウトな放り込みしかできなくなっていく。
そうしてボールを追いかける時間が続いたことで、日本の選手たちはスタミナを消耗し、少しずつ前線の足が止まり始めて、さらにボールを追えなくなるという悪循環にはまっていった。

そして、”悪夢” の時間は訪れた。
65分、GK権田修一のスローを受けた扇原貴宏が、中盤の底でボールを奪われる。
そこからペラルタのミドルシュートを浴びて、再び失点。

これで 1-2。
日本はついに、メキシコに逆転を許してしまう。

そして今大会で初めてリードを許したことで、日本にとってはここからは「未知の戦い」を強いられる、難しい時間帯となっていったのである。

ディフェンスを固めてからの「リアクションサッカー」を軸とする関塚ジャパンにとって、リードされた試合を追いつくことは簡単ではなかった。
ここから杉本健勇、宇佐美貴史、齋藤学を立て続けけに投入するものの、日本のリズムに変化は見られない。
逆にメキシコは代表Aマッチ100試合以上出場の経験を誇るオーバーエイジのカルロス・サルシドが、勘所を押さえたディフェンスでチームをリードし、ピンチの芽をことごとく潰していく。

打つ手のない日本は後半ロスタイムにダメ押しの3点目を奪われ、万事休す。
強豪メキシコの前に、史上初の決勝進出の夢は、絶たれることになってしまったのである。

勝負を分けたポイントとは

これは結果論になってしまうんだけれども、この勝負を分けたポイントは、後半開始〜2点目を奪われるまでの約20分間に集約されていたように思う。
この時間帯の日本は目に見えて運動量が低下し、メキシコに完全に押し込まれるようになっていた。
結果的には権田と扇原の連携ミスから失点してしまったけれども、このミスが無かったとしても、何か手を打たなければ失点は時間の問題だったように感じられた。

日本のディフェンスが決壊してしまったのは、やっぱり中2日での5試合目、というハードスケジュールの疲れが、いよいよ出てきてしまった部分はあっただろう。
特に今大会の日本は、ホンジュラス戦以外はほぼメンバーを固定して戦ったことと、ほとんどの試合でディフェンシブに戦ったことで、主力メンバーの消耗は相当に激しかったと思われる。

このメキシコ戦でも、疲れの見え始めていた後半開始から20分間の間に、たとえば齋藤学などのフレッシュで運動量豊富な選手を投入できていたとしたら、もしかしたら同点ゴールを未然に防ぐことができていたかもしれない。
ただ、これはあくまでも結果を見たから言えることであって、実際にはあの同点の場面で、それまで機能してきたチームに手を加えることは、相当に勇気のいることだっただろう。

結果的に関塚監督は「動かない」ことを選び、そして敗れた。
個人的にはモロッコ戦の時にも、関塚監督の選手交代のタイミングに不安を感じていた部分があったのだけれど、それがこのメキシコ戦で現実になってしまったことになる。

ただし個人的には、そのことで関塚監督を批判しようとは思わない。
なぜなら、大会前には全く期待されていなかったこのチームがここまで来れたのは、間違いなくチームの力、つまり関塚監督の指導力によるものが大きいと思っているからだ。
香川真司や遠藤保仁など、招集を希望した選手たちを呼べずにベストメンバーを組めない中で、さらに結果だけでなく「育成」も求められた難しい仕事。
この条件の中で、ここまでチームをまとめ上げたのは、素直に関塚監督の力だと僕は思う。
決勝進出はならなかったけれども、それでも男子サッカーが世界大会でベスト4まで進んだのは、1999年、小野伸二を中心とした「黄金世代」が決勝に進出したワールドユース(現U-20ワールドカップ)以来、13年ぶりの快挙である。

関塚監督も選手たちも、この結果には胸を張ってもらいたいと思う。

「運命」の3位決定戦

そして準決勝には敗れてしまったけれど、日本にはまだ大事な戦いが残されている。
銅メダルをかけた3位決定戦だ。
その相手は、宿命のライバル・韓国に決まった。

しかしこの韓国、実力的にはほぼ互角だと思うけれども、日本にとってはメキシコ以上に難しい相手ではないかと感じている。

その理由としてはまず、この世代の日本は2008年と2010年の2大会連続で、AFC U-19選手権で韓国に敗れ、U-20ワールドカップ出場を逃していること。
試合内容も完敗に近いものだったので、選手たちに苦手意識があることも考えられる。

そして韓国にはJリーグでのプレー経験のある選手が多く、日本のサッカーや選手たちを熟知していること。
監督のホン・ミョンボからしてJリーグで長年プレーした名選手だったので、日本の情報には事欠かないはずだ。

そして最後に、韓国はこの大会でメダルを獲れるかどうかに、兵役の免除がかかっていることだ。

北朝鮮との緊張関係が続いているため、韓国では基本的にはすべての成人男性に兵役の義務がある。
30歳になるまでに軍隊に入隊し、約2年間の訓練を受けるわけだけれども、プロサッカー選手でもそれは例外ではない。
つまり20代という、選手として一番大切な時期に、2年間サッカーから離れなくてはいけないのである。
実際にはその妥協案として『尚州尚武フェニックス』という軍隊の抱えるチームがKリーグに所属していて、ここに入団できる選手はKリーグでプレーを続けることができるんだけども、当然ながら海外でプレーすることはできないし、尚武に入団できない選手は、プロレベルのサッカーを2年間経験できなくなってしまう。
最悪の場合、引退に追い込まれる選手も出てきてしまうのだ。

しかし、スポーツのエリート選手などには特例措置が設けられていて、オリンピックやワールドカップなどの世界大会でメダル相当の成績を挙げた場合には、兵役を免除するという条項がある。
そして今回のU-23代表にとっては、日本に勝って銅メダルを獲得できるかどうかに、兵役免除がかかっているというわけだ。
ある意味、サッカー人生を賭けた大一番になるため、当然ながら韓国チームのモチベーションは高い。

そういう意味では日本は、戦う前から大きなハンデを背負っているようなものなのである。

このように、3位決定戦は非常に厳しい戦いが予想される。
ただし、韓国の勢いに押されずに、これまで通りの冷静な試合運びができれば、日本にも勝機は開けてくるだろう。

2010年のアジア大会でデビューして、足かけ2年をかけて完成を見た「関塚ジャパン」。

その集大成という意味でも、3位決定戦ではぜひ、最高のゲームを見せてもらいたい。

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