週刊サッカーマガジン増刊 サッカー日本代表W杯出場記念号 2013年 6/20号 [雑誌]

『ドーハの悲劇』やら『ジョホールバルの奇跡』なんかを

「リアルタイムで観戦しました!」

なんて言ってしまうと、世間では立派に『おっさん』と認定されるような時代になってしまいましたが、それでも僕はドーハやジョホールバルをあの時体感した経験を、今でも少し誇りに感じていたりするのです。

たった1ゴールで、歴史が大きく塗り替えられてしまう現実を目の当たりにした瞬間。
あの高揚感、または絶望感というのはちょっと例えようのない感覚でもありまして、たぶん僕と同じ経験をした人たちの多くが、同じような感覚をお持ちなのではないでしょうか。
それくらい、あの時代は日本サッカー界にとっても「激動の時代」だったのです。

そんな『ドーハの悲劇』から20年が経ち、日本サッカーを取り巻く環境は大きく様変わりしました。
ワールドカップ初出場を決めたフランス大会から数えて、日本はこれで5大会連続でのワールドカップ出場を決定。すっかり本大会の常連になりつつあります。
そしてそれに伴って、日本にとってのアジア予選は以前のような「死闘」ではなくなり、当然達成するべき「ノルマ」となってきたとも言えるでしょう。

日本にとっての本当の勝負は予選ではなく本大会、それも「決勝トーナメントでの勝利」である、というところに、代表のスタンスは確実にシフトしてきていると感じます。
それは僕のようなおっさんファンからすると一抹の寂しさを感じる部分でもあるのですが、それだけ日本代表が「大人のチーム」へと成長した証とも言えると思います。

アジアのライバルチームたちも着実に力をつけてきている中で、それらをねじ伏せての、ほぼ危なげない予選突破。
これはもう「お見事」としか言いようのないことだと思います。

ザック・ジャパンに残された「課題」

この日のオーストラリア戦も、何度か危ないシーンこそあったものの、全体を通じては終始日本のペースで展開していきました。
キッチリ勝ち点1を奪ってのアジア最速での予選突破は、順当な結果だったと言えると思います。

ただし同時に、今後に向けての様々な課題を残した試合でもありました。

中でも相変わらず深刻だったのが「決定力不足」でしょう。
この日も何度もオーストラリアのゴール前に迫りながら、けっきょく本田圭佑のPK以外に日本の得点は生まれませんでした。
これはもちろん、オーストラリアの名GKマーク・シュウォーツァーのスーパーセーブや、ルーカス・ニールを中心とした粘り強い守りが日本を苦しめたことは間違いないのですが、それにしてもあれだけチャンスを作りながら1点止まりというのは、褒められた結果ではありません。

そしてまた、これはここ数試合の日本代表の試合を見てずっと感じることでもあるのですが、あまりにも「綺麗に崩してゴールを奪う」ことに執着しすぎているよううにも見えました。

言うまでもなくサッカーは「点を獲る」ことを目的としたスポーツで、「崩す」ことはその目的を達成するための「手段」の一つに過ぎないのです。

個人的には崩しきる前のタイミングででも「もっと強引にミドルシュートを狙っていいのでは?」と感じましたし、ボランチの2人、特に遠藤保仁にもっとゴール前に侵入してフィニッシュに絡んで欲しいと感じました。
本来なら本田圭佑が、そんなスマートな日本の攻撃に「泥臭さ」と「強引さ」を持ち込む貴重なアクセントとなるはずだったのですが、しばらく怪我で実戦を離れていた影響からか、ピーク時と比べて本田のコンディションも若干落ちているように見うけられました。

そういった事情もあってか、この日の日本はいつも以上に決定力に問題を抱えていたように思えたのです。

そしてもう一つの大きな課題は、これもさんざん指摘されてきていることですが、ザック・ジャパンの本田圭佑への依存度があまりにも高すぎることです。

ザック・ジャパンはこれまでの2年半で5つの敗戦を経験していますが、そのうち本田圭佑が出場した試合はなんと、昨年10月のブラジル戦のみ。
つまり本田個人としてはザックが監督になってからは一度しか負けていないというわけで、これは驚異的な勝率だと言えます。
また数字だけではなく内容面から見ても、前線で「タメ」の作れる本田が加わることで日本の攻撃に厚みが生まれることは異論のないところでしょう。
本田圭佑は間違いなくザック・ジャパンの最重要人物の一人だと言えます。

しかしその反面、本田が不在の時の日本は、とたんに前線の起点を失って、まるで糸の切れた凧のようになってしまう。
ザック・ジャパンというチームは、そんな危うい二面性を持っています。

その対策としてザッケローニ監督も、これまで中村憲剛など、本田圭佑の穴を埋める選手をテストして一定の成果を出してはいますが、それでも強豪国がひしめく本大会で本田が不在の場合、チームがどこまで戦えるのかは楽観視できない部分があるように思えます。

絶対的な存在である本田圭佑が居ない時、日本はその穴をどう埋めるのか?
その答えはまだ、ハッキリとは見えてきていません。

香川真司を活かす戦術とは

ちなみにここから先は僕の個人的な妄想になるのですが、ザッケローニ監督にぜひ試してもらいたい戦術があります。
それは、「香川真司のトップ下起用」です。

これを聞いて

「え?香川のトップ下なんて何回も試してるけど、あんまり機能してなかったじゃんw」。
「なに言ってんだこのオサーン」。
「なんで香川のお父さんが、イルカなんだよ!!」

などと思われた方も多いかと思われます。
確かに香川真司は先のヨルダン戦やブルガリア戦でも場面によってはトップ下で起用されましたが、この2試合で日本は連敗を喫するなど、結果を出すことはできませんでした。

しかし僕はそもそも、同じトップ下を得意とするとは言え全くタイプの違う本田と香川に、同じような戦術の中で機能することを求めるのは酷なように思えるのです。

香川真司はご存知の通り、ボルシア・ドルトムントでトップ下のレギュラーとしてプレーしたことで、大ブレイクを果たしました。
しかしトップ下とは言っても、香川の得意とするプレーは本田のように敵を引き付けながらボールをキープし、そこを起点にゲームを作っていくようなプレーではありません。

ドルトムントというチームはネヴェン・スボティッチとマッツ・フンメルスというワールドクラスのセンターバックコンビを中心に、どちらかと言えばまずディフェンスをしっかりと固めた上で、そこから繰り出されるショートカウンターを武器にゴールを狙っていくスタイルのチームです。
そしてこの戦術の場合、攻撃に移った際には前方にある程度のスペースがあるため、スピードに乗ったアタックを展開することができます。

このドルトムントのスタイルが、アジリティーとテクニックに特長を持つ香川真司と非常にうまくマッチしたことが、香川がドルトムントで大成功した要因の一つだと僕は考えています。

しかしザック・ジャパンの場合、これまで対戦したチームの多くが、アジア諸国など日本から見れば「格下」と言えるチームでした。
そして日本をリスペクトするこれらのチームがゴール前をガッチリと固めてきた結果、香川真司がそのアジリティーを活かすために必要な「スペース」が消されてしまっていました。

逆に本田圭佑のように2〜3人に囲まれてもキープできるタイプの選手は、相手がブロックを形成していても強引にペナルティーエリア付近まで侵入し、そこで起点をつくることができます。
僕は、これまでのザック・ジャパンで本田と香川が明暗を分けた裏には、こういった「対戦相手との相性」という要素も少なからずあったのではないかと考えています。

しかしこれがワールドカップ本大会ともなると、これまでの構図が大きく逆転する可能性もあるのではないでしょうか。

前回の南アフリカ大会で「自国開催以外でのベスト16」を達成している日本にとっては、次の目標は最低でもベスト8、願わくばベスト4以上、といった具合になるでしょう。
ここでちょっと前回大会を振り返ってみると、ベスト8に進出した国はスペイン、オランダ、ドイツ、ウルグアイ、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ガーナという顔ぶれでした。

日本がもし来年のワールドカップでベスト4以上を狙うのであれば、こういったレベルの国々に、少なくとも1回は勝たないといけないということになります。
ガーナ、パラグアイ、ウルグアイあたりはともかく、他の5チームは明確に日本より「格上」の相手だと言えますが、ベスト8ともなるとそんな「格上」のチームと対戦する可能性のほうが高くなってくるわけです。

つまり日本が上位進出を本気で狙うのであれば、そういった格上のチームと対戦しても、10回のうち何回かは勝てる、くらいの勝算が必要になってくるのです。

しかし今の日本が真正面からこれらの強豪国と戦ったとしても、勝つことは容易ではないでしょう。

日本が強豪国に勝とうと思ったら、個人的には何か特別な「策」が必要になると思われます。
そしてその「策」の最もシンプルな形が、いわゆる「カウンターサッカー」なのではないでしょうか。

ザック・ジャパンに求められる「プランB」

前回大会での岡田ジャパンも、当初は前任者のイビチャ・オシム監督の戦術の流れを汲んだ攻撃的なサッカーを指向していましたが、大会直前に現実路線のカウンターサッカーにシフトチェンジをしたことで、決勝トーナメント進出に成功しました。

また昨年夏のオリンピックでも、U-23日本代表は徹底したカウンター戦術をとることでスペインやエジプトといった強豪を下し、ベスト4進出を果たしています。

もちろん将来的には、日本の最も得意とする「パスサッカー」で世界と伍して戦えるように成長してもらいたいという希望を僕も持っていますが、まだ世界的には中堅レベルである日本が直近の大会で上位進出を狙うのであれば、まず守備から入る「現実的なサッカー」というのも選択肢に入れておくことは必要なんではないでしょうか。

そして、仮に日本がカウンター/ショートカウンター主体の戦術を採った場合には、おそらく香川真司の才能が必要となってくるでしょう。

ブルガリア戦では香川真司・乾貴士・清武弘嗣の、かつての「セレッソトリオ」が少しのあいだ2列目に並びましたが、僕は強豪国が相手ならば、この布陣はけっこう有効なのではないかと考えています。
参考になるのは昨年10月のフランス戦です。この試合で日本は強豪フランスに押し込まれながらもなんとか耐えしのぎ、香川・乾・清武のトリオが同時にピッチに立っていた後半終了間際に、カウンターからの香川のゴールで1-0という歴史的勝利を収めています。

対照的に、その直後のブラジル戦では本田圭佑がトップ下を努めましたが、ブラジルのあまりにも激しいプレスの前に前線で孤立してしまい、チームも0-4と大敗を喫しました。

もちろんこの2試合だけで全てが分かるわけではないのですが、香川真司を軸にしたカウンターサッカーが強豪国相手にはある程度有効である、という一つのデータには成り得るのではないでしょうか。

そして当然ながら、だからと言って本田圭佑の力が必要なくなることはありません。
実力が拮抗するレベルのチームが相手であれば、間違いなく「トップ下・本田」は日本にとって唯一無二の存在となります。
また仮に日本がディフェンシブなカウンター戦術を採った場合でも、スピードのあまり無い本田はトップ下のポジション争いで不利になるかもしれませんが、その場合はクラブでやっているボランチの位置からゲームを作ることもできるでしょう。

代表のボランチは全体的に層が薄く、遠藤保仁・長谷部誠のコンビへの負担が大きすぎることを考えても、場合に応じて本田をボランチ起用する選択肢を持っておくことは、チームにとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

この『プランB:カウンターバージョン』と、本田圭佑をトップ下に据えた従来の『プランA』とを自在に使い分けられるようになれば、日本の上位進出への道も開けてくるのでは、と僕は勝手に夢を膨らませているのです。

起こらなかった「奇跡」や「悲劇」

ワールドカップ出場を決めたその瞬間から、同時に本大会へのカウントダウンもスタートしました。
予選突破の喜びに浸る暇もなく、6/15からは強豪ブラジル、イタリアと対戦するコンフェデレーションズカップが開幕します。
ワールドカップの前哨戦と位置づけられるこの大会で、日本はアジア予選とは次元の違うレベルの対戦相手と真剣勝負をすることになるでしょう。

そして「予選通過」という重責が外れたこの大会でどんな采配を見せるかで、ザック監督が実際のところどれだけのプランを持っているのか、が見えてくるのではないでしょうか。

最近の代表チームの低調な戦いぶりから、世間では「ザック更迭論」もささやかれ始めました。
個人的には最速での予選通過という結果を出したこともありますし、残された時間も約一年ということを考えると、よほどの理由が無い限りはこのままザック監督で本大会を戦うのが良いと考えていますが、今のままでは本大会での上位進出は難しいとも感じています。

来年の本大会で日本がどこまで行けるのかは、今現在のベースの上に、残り1年でどこまで「プラスアルファ」を積み上げられるか、にかかってくるでしょう。

20年前から時は流れ、日本にとっての「本番」はワールドカップ本大会へとシフトしました。

今回の予選では「悲劇」も「奇跡」も起こりませんでしたが、それは地球の裏側で待っています。

1年後のブラジル。

僕たちが次の「悲劇」や「奇跡」を見れるのは、その舞台となるはずです。

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