「いや〜、サッカーって、本当に、面白いものですね〜。」

映画評論家の水野晴郎さんがご存命なら、この試合を観てこうつぶやいたことでしょう(または、つぶやいていない可能性もあります)。
そんな妄想をしてしまいたくなるほど、この結果はドラマチックで、スリリングで、かつショッキングなものでした。

前回の記事で調子に乗ってグループリーグ展望などを書いてしまった当ブログですが、グループBでさっそく大外ししてしまいそうな気配です。
スペインがオランダに1-5の大敗。
正直、逆のスコアならまだあり得るかなーと思っていたのですが、予想通りに行かないところがサッカーの面白いところですね(決して開き直っているわけではありませんよ、決して…)。

そしてその番狂わせの裏には、オランダの執った「奇策」が隠されていたのでした。

オランダとスペインに共通する「ルーツ」とは

2010年のワールドカップを制し「史上最強」とも謳われたスペイン代表ですが、そのルーツの一部はオランダサッカーにもありました。

現在のスペイン代表の核となっているのはシャビ、イニエスタ、ブスケッツなどのFCバルセロナ所属の選手たちによるポゼッションサッカーですが、バルサにそのスタイルを植えつけたのは、1988年から96年まで8シーズンに渡って監督を務めた、元オランダ代表のスーパースター、ヨハン・クライフでした。
クライフ監督のもとでUEFAチャンピオンズカップに初優勝するなど躍進を遂げたバルセロナは、その後もクライフのもたらしたポゼッションサッカーを伝統のスタイルとして継承していくことになります。

またクライフ自身のサッカー哲学は、彼が現役時代にプレーしたアヤックス・アムステルダムとオランダ代表からの影響を色濃く受けたものでした。
その両チームでクライフを指導していたのは、稀代の名将として名高いオランダ人監督のリヌス・ミケルスです。
ミケルスは後に「トータル・フットボール」と呼ばれることになる全員攻撃・全員守備の近代的な戦術を構築し、アヤックスにクラブ初のUEFAチャンピオンズカップのタイトルをもたらします。
そしてその後に指揮を執ったオランダ代表でも同様のスタイルで旋風を巻き起こし、1974年のワールドカップでチームを準優勝へと導きました。

それまでは国際舞台で大きな実績が無かったアヤックスとオランダ代表ですが、このミケルス&クライフ時代の大成功を受けて、ヨーロッパの強豪としての地位を確立していきます。
同時に「オランダ=組織的な攻撃サッカー」という、現在も続くスタイルが定着していくことになりました。

またアヤックスでヨーロッパタイトルを手にしたミケルスは、その翌シーズンからはFCバルセロナで指揮を執っています。
ミケルスは通算6シーズンに渡ってバルサを率い、その後のクライフ監督時代に繋がる礎を築いていくことになりました。

リヌス・ミケルスとヨハン・クライフ。
2人のオランダ人監督をルーツに持つFCバルセロナと、そのバルセロナのスタイルを代表チームの基盤に据えたスペイン代表。
こういった視点から見ると、オランダとスペインの両国は、サッカーにおいてはある意味では「兄弟」とも言えるような関係性にあることが分かります。

このように密接な関係にあるスペインとオランダですが、その両国が対戦した2010年のワールドカップ決勝では、スペインが実力差を見せつけて優勝トロフィーを手にすることになりました。
ともに攻撃的なスタイルを持つ両チームでしたが、スペイン代表とそのベースとなったバルセロナのサッカーは当時「未来のサッカー」とも呼ばれるほど先進的なもので、その完成度の前にオランダは屈することになります。

あれから4年。
オランダにとってはこの開幕戦は「リベンジマッチ」となったわけですが、この試合でオランダのルイス・ファン・ハール監督は伝統の攻撃サッカーを棄てて「オランダらしからぬ」奇策に打って出ます。

それが、”5バック” という守備的な戦術だったのでした。

ルイス・ファン・ハールの採った「奇策」

圧倒的なポゼッションサッカーで、ユーロ2008、2010年ワールドカップ、そしてユーロ2012と、近年の主要3大会を総ナメにしてきたスペイン代表。
正面から相対しては勝ち目はないと判断したファン・ハール監督は中盤での攻防を避け、5バックからのカウンターを狙うスタイルでスペインに対抗します。

それでも前半43分までは、スペインはその奇策に戸惑うことなく、着実に自分たちのミッションを遂行していきました。

キックオフ直後から中盤を制圧し、主導権を完全に握っていたスペイン。
27分にはPKから順調に先制点を奪い、このまま2点目が入るのも時間の問題かと思われました。
44分にロビン・ファン・ペルシーのゴールで同点に追いつかれたものの、この時点ではまだ、「後半にはまたスペインが突き放すだろう」と予想していた方も多かったのではないでしょうか。

しかしそんな風向きが変わったのは、53分にアリエン・ロッベンの逆転ゴールが決まってからでした。

オランダの1点目と2点目は、ともによく似た形から生まれています。

どちらの得点も、左サイドバックのダレイ・ブリントが上げたアーリークロスを、ディフェンスラインの裏に抜けだしたフォワードの選手が決めたもの。
スペインの浅いバックラインの裏を少ないパスでシンプルに狙ったという点で、この2ゴールは非常に似通っています。
そしてまさに、これこそがファン・ハール監督が狙っていた形だったのではないでしょうか。

スポーツの世界に「たられば」はありませんが、それでもあえて、スペインが前半のうちにすんなりと2点目を奪えていたら…と仮定したならば、その後の展開は大きく変わっていたかもしれません。

そういった運・不運はあったものの、この番狂わせを呼び込んだ大きな要因のひとつは、実力差を認めてドラスティックな戦術を採用したファン・ハール監督の采配にありました。

両チームの戦力を単純に比較した場合、中盤から後ろは圧倒的にスペインの完成度が優っています。
しかし前線の破壊力や、ワンチャンスを確実に得点に繋げる力という意味では、ロッベン&ファン・ペルシーの超強力な2トップを擁するオランダにアドバンテージがありました。

不利な局面での戦いを避け、5バックでしっかり守ってから、中盤を省略して縦に速い攻撃を仕掛ける。
そしてゴール前では、ロッベンとファン・ペルシー、その両エースのスピードと決定力を活かす。

言葉にすれば単純な話ですが、それまでのスタイルやプライドを捨てて勝負に徹することは、口で言うほど簡単なことでは無いでしょう。
しかしそれを実際にやってのけたことが、オランダとスペインの明暗を大きく分ける結果を生んだのだと思います。

そしていったん逆転を許してしまってからは、スペインが崩れていくのはあっという間の出来事でした。

もともとメンタル面でのムラッ気の強さは、スペイン代表がずっと以前から指摘され続けてきた問題点でもあります。
ここ数年は圧倒的な実力差で相手をねじ伏せてタイトルを獲得して来たスペインですが、それ以前のスペインはと言えば、そこそこ実力はあるのに勝負がかかった試合では勝てず、ワールドカップでも半世紀以上も連続でベスト8以下で敗退してしまう「ベスト8の壁」がずっと指摘され続けていました。

そしてこの試合の後半でも、そんなスペイン代表が内包する「もろさ」がハッキリと出てしまいます。
思えば昨年のコンフェデレーションズカップ決勝、ブラジルに0-3で敗れた試合でもそんな姿が見られていましたが、一度崩れ出したら止まらないのもスペイン代表が持つ「もう一つの顔」だと言えるでしょう。

その後もセットプレーや、GKイケル・カシージャスのクリアミス、そしてカウンターから次々と失点し、終わってみれば1-5。
目を覆いたくなるようなスコアで、前回王者は最悪のスタートを切る格好となってしまったのです。

グループB・この先の展望

ちなみにこの試合結果を受けてのグループBの展望ですが、かなり混沌としてきたことは間違いありません。
ひとつ言えるのは、勢いに乗るオランダがかなり有利になったことは確かで、1位通過に最も近いチームだと言えるでしょう。

ちなみに僕はこのグループのダークホースとしてチリの2位通過を予想していたのですが、本命だったスペインが敗れたことで、2位争いがさらに激化してくることも考えられます。

またこのグループBの場合、1位で通過するか2位で通過するかで、その後の運命も天と地ほども違ってきます。
1位で通過した場合はクロアチア、もしくはメキシコあたりと決勝トーナメント1回戦で対戦する可能性が高いですが、2位で通過した場合には、優勝候補筆頭のブラジルと1回戦で当たる確率が非常に高いからです。
つまり2位で通過するということは、あと1試合でそのチームのワールドカップが終わってしまう可能性が高い、ということも意味しているのです。

グループBの今後を考えた時、まずキーになってくるのはスペインの存在でしょう。

オランダに大敗したことで1位通過はかなり難しくなってしまったと思いますが、それでも気持ちを切り替えて2位通過を狙い、ブラジルとの決戦に備えることができるのかどうか。
スペインほどの実力のあるチームであれば、たとえ2位通過だとしても、ブラジルを倒してベスト8に進出する可能性も決して低くはないはずです。

しかし前述の通り、メンタル面に「悪癖」を持つスペインがオランダ戦の敗戦で緊張を切らしてしまうようであれば、逆にこのままグループリーグで敗退するようなこともあり得ない話ではないでしょう。

続いて台風の目となりそうなのはチリの存在です。

スペインやオランダに比べれば小粒ではありますが、アレクシス・サンチェスやアルトゥロ・ビダルなど、ヨーロッパのビッグクラブで経験を積んだ世代が全盛期にさしかかり、チームとしては今が最も「旬」な時期だと言えます。
同じ南米大陸での大会だという「地の利」も含めて考えると、このチリもまた、オランダ、スペインの「ビッグ2」のどちらにも勝てる可能性を秘めているのではないでしょうか。

すでに初戦のオーストラリア戦には勝利しているので、チリの頑張り次第では、オランダ、スペイン、チリの三つ巴の戦いにもつれ込む可能性もあるかもしれません。

このように波乱の幕開けで全く先の見えないグループBですが、それだけに、この先の試合からも目が離せません。

そしてこのオランダ VS スペイン戦は、後から振り返れば「大会の行方も左右した番狂わせ」として、ワールドカップの歴史に刻まれる名勝負となるのではないでしょうか。

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