フットサルの持つ「潜在能力」/Fリーグ@開幕戦

フットサルのFリーグを観に、代々木公園まで行ってきた。

と当たり前のように書き出してはみたけれど、「サッカーブログ」と銘打っている当ブログ。
いよいよフットサルにまで手を伸ばしてしまう日がやってきたのだ。

代々木第一体育館@Fリーグ・セントラル開催_201008

ところで大阪在住の僕がなぜに代々木くんだりまで行ったのかと言うと、なんの事はない、世間より一足早く会社に夏休みを頂いたからである。
そんなわけで週末は実家のある関東に帰っていたのだけど、年に一度の夏休み(当たり前だけど)、せっかくなのでこっちでしか観れない試合を観に行きたい!
というわけでFリーグの開幕戦となる、セントラル開催に足を運んでみたのである。

ビギナーファンのフットサル観戦記

ちなみに僕がフットサルを初めてちゃんと観たのは、2008年の FIFAフットサルワールドカップから。

それまでフットサルの選手と言えば木暮賢一郎とファルカン、あとは往年のミスターフットサル・上村信之介くらいしか知らなかった僕も、このワールドカップを通じてかなりフットサルの選手やルールも覚えることができた。

しかしフットサルは、ワールドカップ以外はとにかくテレビ中継がない。
FリーグもBS日テレでたまにダイジェストをやるくらい。
まだまだ電波の上では市民権を得ていないマイナースポーツだ。

大阪にはシュライカー大阪というチームがあるので生観戦は可能だったんだけど、いろいろと都合がつかなくて今に至った次第。

というわけで僕は、フットサル観戦に関しては完全なるビギナーである。
そんなビギナーにとって、1日に3試合見れるというおトク感、そして目下リーグ3連覇中の絶対王者・名古屋オーシャンズを観れるこの開幕戦は、まさにうってつけの入門用パッケージだったのだ。

フットサル、その「観るスポーツ」としてのポテンシャル

国立代々木競技場第一体育館は、JR原宿駅から歩いて5分くらいの場所にある。
僕は関東に住んでいた頃、原宿駅の東側、表参道方面には何度も買いもの等に行ったけど、西側の土を踏むのは今回が初めてだった。
こんな好立地にこんな大きな公園と体育館があるとは、この歳になるまで気がつかなかったのだから、我ながらちょっと恥ずかしい。

しかし大都会の中に巨大な公園を作ってしまったこのアンバランスさたるや、何と表現するべきか。
コンクリートの街の中に作られた緑の空間は、本来の意味合いの「自然」とは程遠い、人工的な香りをこれでもか!というほど漂わせていた。
でもそのあたりがまた、東京という街の持つ何とも言えない魅力の一つなんだろう。

ところが一歩試合会場に入ると、そこは猛暑の屋外とは全く違った種類の「熱気」の渦だった。

2階席までを埋め尽くしたのは、大量の人・人・人。
指定席こそ空席もあったものの、自由席はかなりの数の観客で埋まっていたようである。

名古屋オーシャンズ vs エスポラーダ北海道_試合前@Fリーグ・セントラル開催_201008

この日の観客動員数は6千人を超えたらしい。
サッカーならJ2レベルの観客数だけど、屋内競技としてはけっこうな数字だろう。
しかもFリーグは、まだまだアマチュアの選手も多いセミプロリーグ。
メディアを使った告知なども不充分なことを考えれば、予想を上回る数のお客さんが来場したと言えるんではないだろうか。

フットサルはここ数年で、「やるスポーツ」としては完全に定着した感がある。
僕も今から7〜8年前、当時所属していた会社の人たちとチームを作って、神宮前のフットサル場で遊びのフットサルをやっていた時期がある。
しかしその後に大阪に越した当初は、サッカーチームを作りたいと誘ってきた先輩にフットサルチーム結成を提案しても、返ってきた言葉は「え〜フットサル〜?」という連れないもの。
ちょっとした邪道扱いを受けて、関西ではまだフットサルが普及していない事実に愕然としたものだ。
ただ、それからは関西でも各地に大きなフットサル場ができて、今はどの施設も大盛況だと聞いているけれど。

それから数年。
この日の会場の熱気を見て僕は、「観るスポーツ」としてのフットサルへの期待感も、相当高まってきていることを感じた。

「絶対王者」の「ワールドクラス」

それでは実際の試合のほうはどうだったのだろう。
第1試合は名古屋オーシャンズとエスポラーダ北海道というカードだった。

名古屋オーシャンズ vs エスポラーダ北海道_キックオフ@Fリーグ・セントラル開催_201008

名古屋オーシャンズはFリーグ唯一のプロチーム。
日本代表クラスの選手たちと、彼らに匹敵する実力を持った日系人選手らを大量に抱えるビッグクラブである。

そして今シーズン、そこにさらに超大物が加わった。

彼の名はポルトガル代表のリカルジーニョ。

フットサルに精通しているわけではない僕が彼を知ったのは、つい最近だったのだけど、このリカルジーニョは只者ではないとのもっぱらの評判である。
大げさではなく、サッカーで言えばクリスティアーノ・ロナウド級の世界的スーパースターなんだという話を至る所で耳にする。
この試合でもリカルジーニョが登場した時の歓声はズバ抜けて大きかった。
この日の観客動員数とも、無関係ではなさそうである。

もともとリーグ3連覇中の名古屋に、これほどの超大物が入団したのだから半端ではない。
名古屋オーシャンズはまさに今シーズン、Fリーグのレアル・マドリード、小さな読売巨人軍になったわけである。
しかし名古屋フロント陣の「攻め」の姿勢は素晴らしい。
ぜひ多くの人に、リカルジーニョを観に名古屋のホームゲームまで足を運んでもらいたいものである。

この試合でもリカルジーニョは、随所にその超絶テクニックを披露していた。
とにかく足技のキレが凄まじすぎて、何をやったのかがよく分からないほど速い。
リカルジーニョが大技を繰り出すたびに「おお〜っ!!」とどよめく場内。
チケットは1枚2千円から。
フェイント1回 200円くらいの価値はあっただろうか。

ただそんなリカルジーニョも、この日は来日間もないこともあって、コンディション・コンビネーションともに本来の出来ではなかったように感じられた。
それでもフィットしてくれば物凄いプレーを見せてくれそうな「危険な香り」は終始漂わせていたのだから、やはり大物である。
同じく名古屋のチームで活躍した、グランパス時代のピクシー級の活躍を期待してもいいのかもしれない。

ところが試合自体は、対戦相手のエスポラーダ北海道が驚異的な粘りを見せて、残り 30秒というところで同点に追いついて引き分けに持ち込んだ。

名古屋のアジウ監督は北海道の守備的な戦術を批判していたそうだけど、これについてはサッカージャーナリストの後藤健生さんが非常に説得力のある記事を書いておられるのでこちらを読んでいただきたい(個人的には後藤さんとほぼ同意見である)。

ちなみにエスポラーダ北海道は、選手がほとんど北海道出身者(北海道はフットサル界では有名な「フットサルどころ」)で固められている、アスレチック・ビルバオのような哲学を持ったチームである。
この日も劇的な同点弾を挙げたエースストライカーの水上弦太や、高速ドリブラーの神敬治などのタレントを擁して、今後への期待を膨らませた。

開幕から見られた好勝負

2試合目はバルドラール浦安とステラミーゴいわて花巻の対戦。

Fリーグ最初の2シーズンは連続で2位。
名古屋の最大のライバルとしてリーグを引っ張ってきた浦安も、今シーズンは主力が大量に移籍をして、大幅な戦力ダウンは必至と見られていた。

しかしこの日のゲームでは、花巻を相手に浦安が終始試合をリードして 3-2の勝利。
中でもやはり日本代表クラスの選手たち、稲葉洸太郎のスケートリンクを滑走するようなドリブルと、小宮山友祐のパワフルな攻守、岩本昌樹のテクニックとインテリジェンスは光っていた。
あとはこの戦いぶりを、強豪チーム相手にもできるかどうかがポイントになってくるだろうか。

そして最後の第3試合は、僕の応援するシュライカー大阪と、地元・東京の府中アスレチックスの試合。

シュライカー大阪 vs 府中アスレチックス_試合前@Fリーグ・セントラル開催_201008

シュライカー大阪には本来なら、昨年度のリーグMVPを獲得したスーパーゴレイロ(GK)のイゴールという選手がいる。
僕もそのプレーを楽しみにしていたのだけど、残念ながらこの日は怪我で欠場だった。

それでも昨シーズン3位と地力に勝るシュライカー大阪は、立ち上がりから府中を圧倒して一時は 3-0とリード。
そこから2点を返されたものの、最後は再び突き放して 4-2の勝利で開幕戦を飾った。

シュライカーはキャプテンの一木秀之をはじめ、優れた選手が多くて層が厚い。
しかし逆に突出した選手はいなくて、洗練された組織力で勝負するチームという印象を受けた。

府中アスレチックスは対象的に、エースの上澤貴憲の存在感が頭一つ抜けていた。
日本代表でも主力を張る上澤はテクニックの高さもさることながら、フットサル脳というか、フットサルセンスの高さがズバ抜けていたように思える。
ただ上澤への依存度が高すぎることが、イゴール抜きでもチームの完成度を維持できたシュライカーとの差として出てしまったようだった。

シュライカー大阪 vs 府中アスレチックス_試合中@Fリーグ・セントラル開催_201008

立体化するサッカー文化

と、そんなわけで、半日かけて3試合を堪能したこのセントラル開催。
個人的には、2千円ポッキリでこのボリュームなら大満足である。

ところで試合と試合の間の休憩時間に売店に並んでいると、後ろに並ぶ高校生風の少年たちの語らいが耳に入った。

「サッカーより面白くね!?」。
「なんか、盛り上がる場面が多いよね!!」。

興奮気味に、おそらく初めて生観戦したであろうフットサルについて語る、日焼けしたティーンエイジャーたち。

僕的には、サッカーにはサッカーならではの部分、「中盤の攻防」とか、「攻撃パターンの多様性」にも楽しさはあると感じているのだけども、フットサルはそういう「コク」の部分を省略して、ゴール前の攻防という「旨み」の部分だけを凝縮したようなスポーツなのかもしれない。
個人的にはどちらが面白いかと聞かれれば、「どちらも面白い」というのが結論である。

代々木公園@Fリーグ・セントラル開催_201008

売店で飲み物を買った後は、せっかくなので次の試合までの間、代々木公園を散歩してみた。
5分ほど歩くと、公園内で 10数人の中高生くらいの男の子たちがリフティングに興じている場面に出くわした。

ただしリフティングと言っても、サッカーの練習というよりは、カッコ良さを追究したいわゆる「フリースタイル」風のリフティングである。
大阪でも公園でサッカーをする風景はたまに見かけるけども、こういうスタイルは初めて見た僕。
しばし、その華麗な足技に見入ってしまった。

この少年たちにとって、サッカーはスケボーや MTBと同じように、ファッション感覚で楽しめるオシャレなスポーツなのだろう。
時代の先端を行く東京のキッズたちの間では、サッカーがそれくらい多様な楽しみ方のできるレジャーになっているのだろうなと感じた。

思えば今回のFリーグの試合でも、客層は明らかにJリーグのそれとは違っていた。
地域密着を掲げるJの場合、観客は子連れのファミリーや地元のオッチャン系の人が多い。
最近では、特定選手のファンと思しき女性たちもよく見かけるようになったけど。

しかしこの日のフットサルの会場で目立ったのは、自身もプレーをしてるっぽい 10代〜20代くらいの若者と、同じく若いカップル連れである。
原宿という立地条件も関係しているとは思うけど、フットサルのファン層は、Jリーグよりもかなり若いのではないかという印象を受けた。

それは裏を返せば、FリーグにはJリーグとはまた違ったファン層を開拓できる余地があるということである。

繰り返しになるけども、Jの理念は地域密着だ。
僕はこの理念は素晴らしいと思っている派だけれども、地元意識がまだ強くない若い世代にはピンと来ない部分もあるだろう。

しかし元々が若いスポーツであるフットサルは、そういう説教臭さとは無縁だ。
ハイレベルな技巧とゴール前のおいしい場面を理屈抜きで楽しめる、いい意味でのファーストフード的なカジュアル感がそこにはある。

これをうまく活用することで、サッカー界やフットサル界は、これまでとは全く違う切り口でのファン層を開拓できるのではないだろうか。
そういう意味でもFリーグは、非常に魅力的なコンテンツなのではないかと僕は思っている。

ところでフットサルがそうだったように、しばらくしたら大阪でも、ストリートでリフティングに興じる少年たちを見かける事ができるのだろうか。

こういうささやかな楽しみ方ができるところも、サッカーワールドの魅力である。

そして東京でも大阪でも、どこに行っても僕たちはサッカーを目の当たりにすることができる。
その土地でしか見れないサッカー文化に触れることができるから、サッカーをめぐる旅はたまらなく面白いのだ。

トップページへ戻る