ピッチに蒔かれた “未来への種”/天皇杯決勝@FC東京 4-2 京都サンガ

FC東京の今野泰幸は、「先制されたときには負けが頭をよぎった」のだと言う。

しかし今野にとっては幸いなことに、その悪い予感は2分間しか続くことはなかった。

カウンターから京都サンガの中山博貴に決められた、前半13分の先制点。
その直後の15分に、今野は自らのヘディングシュートで試合を振り出しに戻す。

このわずか2分間を除いては、FC東京がスコアでも内容でも、劣勢に立つ場面はほとんど無かった。

史上初の “J2対決” による天皇杯決勝は、FC東京が意外なまでの実力差を見せつけ、悲願の初優勝を飾った一戦となったのである。

FC東京が見せつけた「実力差」

最終スコアは4-2。

しかし内容的には、点差以上の差が感じられた試合でもあった。

横浜マリノスとの準決勝ではJ1の強豪を相手に組織力で上回り、金星の末に決勝まで勝ち上がってきた京都サンガ。

決勝戦でも得意の攻撃サッカーが披露されるかと期待されたけれども、その片鱗は90分間を通じてほとんど見られることは無かった。
いや、正確にはFC東京が、その持ち味を発揮させなかったと言うべきだろうか。

前半のFC東京は組織的な守備でサンガのパスを寸断すると、石川直宏・ルーカス・梶山陽平らを中心に主に右サイドからチャンスを作っていく。
そして逆転後の後半には、自陣に堅牢なブロックを築きつつ的確なカウンターを繰り出した。

大熊清監督の十八番とも言える鉄壁のディフェンスと、前任者の城福浩監督が植えつけたパスサッカーの融合。

1年前にはJ2降格に追い込まれたチームが、今では攻守にバランスの取れた強豪チームとして復活したのである。

特にディフェンスの要・今野泰幸のプレーは圧巻だった。

京都サンガの将来を担う19歳のストライカー・宮吉拓実も、この日は今野の「これぞ代表DF」というべきディフェンス力の前に何もさせてもらえない。

宮吉とドゥトラのツートップは前線で孤立し、カウンターとセットプレー以外ではサンガにチャンスらしいチャンスは訪れなかった。

逆に守備面ではDFの要・秋本倫孝を欠いて安定感を失ったサンガの最終ラインが、FC東京のアタックの前に翻弄されていく。

若手中心の京都サンガは決勝戦という大舞台で大きなプレッシャーを感じていた可能性はあるけれども、それを差し引いても個人技・ボール回し・組織的な守備、の全てにおいて、FC東京が京都サンガと互角かそれ以上の実力を見せつけた試合だったと言っていいだろう。

その点から見ても、FC東京が2012年最初の優勝チームとなったことは、至極妥当な結果だったと言える。

ピッチに蒔かれた “未来への種”

しかし、敗れた京都サンガにとっても収穫が無かったわけではない。

若い選手たちはこの決勝の舞台に立ったことで貴重な経験と自信を得ただろうし、それは来季のJ2での戦いにも大きく影響を与えるはずだ。

そして何と言っても忘れられないのは18歳の新鋭・久保裕也が、期待通りに「ゴール」という結果を残したことである。

横浜マリノスとの準決勝でも延長途中から投入されて、1ゴール1アシストと勝利の立役者になったワンダーボーイ。

その勢いは決勝戦でも活躍を予感させるものだったけれども、それを本当に実現してしまうのだから、やはり只者ではない。
ありていに言うと、間違いなくこの選手は “持っている” 。

ちなみに僕はどちらかと言うと、占いのたぐいはあまり信じていないタイプなんだけれども、それでも経験上「運の良い人・悪い人」というのは確実に存在すると思っている。
そして「運の良い人」というのは、端から見ていても何となくそれと分かる雰囲気があるものだ。

その理由を具体的に説明するのは難しいけれども、要するに「オーラがある人」という事になるのだろうか。
そしてそれは、サッカー選手の場合も例外ではない。

全盛期のカズや中山雅史、中田英寿には間違いなくそんなオーラがあったし、現在の代表選手で言えば本田圭佑がその筆頭になるだろう。

そしてこの久保裕也にも、そんな先人たちと同じ匂いを感じるのは僕だけだろうか。

これまで「超高校級」「天才」と持てはやされてきた選手は数え切れないほどいたけれど、その大半は期待されたほどの活躍を見せないままそのキャリアを終える。

けれどもこの久保裕也からは、そんな期待の超新星たちの中でもひときわ異質な雰囲気を感じるのだ。

その雰囲気の正体が何なのか。

この予感は当たっているのか、それとも外れているのか。

その答えは、きっと京都サンガのピッチの上にある。

天皇杯決勝をもって、2011年の国内プロサッカーのシーズンは全て終了した。
3月に再びリーグが開幕するまで、選手もファンもつかの間のオフシーズンを迎えることになる。

しかし、新しいシーズンへ向けての “未来への種” は、すでに蒔かれている。

2ヶ月のシーズンオフの後に待っている、2012年のJ2リーグ。

サッカーファンにとっては、大きな楽しみが待っている新シーズンとなりそうだ。

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