宮間あや、「クイーン」への覚醒/アルガルヴェ・カップ@日本女子代表 2-0 デンマーク女子代表

日本サッカー女子代表・なでしこジャパンは、いまポルトガルの地に立っている。

彼女たちが参戦している大会の名前は『アルガルヴェ杯』。

「アルガルヴェ・カップ」……。

一歩間違えれば、あやうく舌を噛んでしまいそうなネーミングである。
しかも語尾は「ベ」ではなくて「ヴェ」。
日本人の苦手とする「巻き舌を」一発かまさないといけないという、ああ、この難易度の高さよ…!
こんな単語を噛まずにペラペラ発音できた日には、六本木のブラジリアン・バーあたりでモテモテになること間違いなしだろう。

しかし、昔からの女子サッカーファン以外の人にとっては、おそらくあまり馴染みのないであろうこの大会。

いったい、どんな大会なのだろうか。

アルガルヴェ・カップとは

アルガルヴェ・カップの第1回大会が開催されたのは1994年。
以来、今年に至るまで毎年開催されていて、今回で19回目を数える歴史のある大会だ。

ちなみに「アルガルヴェ」とは、この大会の開催地のことである。
アルガルヴェ地方はポルトガル南端に位置し、温暖で海に囲まれたリゾート地としても知られている。

ただし歴史がある大会とは言っても、出場チームはあくまでも主催者(ウラが取れなかったのですが、おそらくポルトガルサッカー連盟)からの招待制で決められていて、大会の性格的には、日本で言うところのキリンカップなどに近い。

そもそもこの大会が誕生した目的が、男子に比べるとマイナーで強化費なども充分捻出できない女子サッカーでも、強豪チーム同士が対戦して国際試合の経験を積める機会を設けよう、そして遠征費などのコストがなるべくかからないように、一箇所に数チームをまとめて、そこで大会を開催しよう、というところからスタートしているらしい。

なのでワールドカップのように「勝利」を目指して戦う大会ではなく、興行でもなく、あくまでも各国の「強化」を目的として開催されている大会が、このアルガルヴェ・カップだ。

ちなみに日本のテレビ中継の中では「ワールドカップ、オリンピックに次ぐ権威のある大会」として紹介されていたけれども、これは嘘とは言えないけれどもかなり「盛り過ぎ」の表現だと言っていいだろう。

実際、女子サッカーでは男子のコンフェデ杯に相当するような大会が無いため、「A代表の、かつ世界規模の大会」というくくりで考えると、実はワールドカップ、オリンピック以外にはこれといった大会が存在しない。

そういう意味では「世界で3番目に権威のある大会」と言えないこともないのだけれど、この2大大会とアルガルヴェ・カップとでは、その規模の差は雲泥の差である。
例えるなら、ワールドカップが『F-1グランプリ』ならアルガルヴェ・カップは『B-1グランプリ』、オリンピックが『米アカデミー賞』だとしたら、アルガルヴェ杯は『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』、くらいの違いはあるだろう。
ちなみに異論は認めます!

いずれにしても大会の規模だけで言えば、アジアカップなどの各大陸別選手権やアンダー世代のワールドカップのほうがアルガルヴェ・カップよりも大きいので、アルガルヴェ・カップが「すごく権威のある大会」であるかのように強調するのは、ちょっと違うかなあ、と思ってしまう。

むしろ本当に世界で3番目に権威のある大会が「あれ?スタンド、ガラガラやん…。」と視聴者に思われてしまったら、女子サッカーにとっては逆効果になりはしないだろうか。

と言うわけであんまり肩肘張らず、強化試合の一貫としてマッタリ見るほうが、アルガルヴェ・カップにはふさわしい観戦スタイルだと思われます。

立ちはだかった北欧勢

ところでこの大会で、なでしこジャパンはグループリーグを2連勝と上々のスタートをきった。

初戦と2戦目の対戦相手は、ともに北欧勢となるノルウェーとデンマーク。

ちなみに僕は試合前、この両チームはほとんど似たようなチームなのだろうと勝手に思い込んでいた。

実際、最新のFIFAランキングでは両チームとも同ポイントで12位タイ。
ともに長身でフィジカルに長けていて、ついでに金髪・美白のオネーチャン……いや、選手たちを揃えている。
もっと言えば、ユニフォームのカラーも同じ赤系統だ。

パッと見は双子のように似かよっている両チーム。

しかし意外にも、実際にプレーを見てみると、そのスタイルには小さくはない差があった。

初戦で対戦したノルウェーは、かつては1995年のワールドカップ、そして2000年のオリンピックと、世界大会で2回の優勝を誇る、いわば古豪である。

最近は力が落ちてきているとは言っても、やはり世界を制した経験値には侮れないものがあり、日本もこのノルウェー戦では、ベストメンバーで戦いながらも先制点を許してしまう。

ノルウェーはまさに「ザ・北欧」と呼べるような、素早く縦にボールを入れて、フィジカルを活かしてゴリゴリと押し込んでくるようなサッカースタイル。

ひと昔前、まだ世界全体のレベル差が激しく、おしなべて技術レベルの低かった時代の女子サッカー界では、こういったスタイルが極めて有効だったのだ。

世界のテクニックレベルが向上し、フィジカルの優位性が以前ほど絶対的なアドバンテージではなくなった現在では、この北欧スタイルは徐々に時代遅れになりつつあるけれど、それでも一定の破壊力は秘めている。

その一撃に、現役世界チャンピオンである日本も、一泡吹かされた格好だった。

それに対して2戦目で戦ったデンマークは、予想外にも細かくパスを繋いでくるスタイルだった。

考えてみれば男子のサッカーでも、デンマークは大柄ではあるけれども他の北欧諸国とは若干違った攻撃的なスタイルを持っていて、ラウドルップ兄弟のようなテクニシャンも輩出している。

女子サッカーでも、大味なノルウェーと比較すると、デンマークはより緻密なサッカーを実践しようとしている意図が感じられた。

ただ日本にとって幸いだったのは、その攻撃のクオリティーが、あまり高くはなかったことである。

さらに自分たちがパスサッカーのスタイルを実践している日本にとっては、パスを繋いで攻めてくる相手は戦いやすく、むしろ「お得意様」だったとも言える。

結果的にデンマーク戦での日本は、中盤で面白いようにプレスをかけることに成功した。
これがノルウェーのように、不器用でもフィジカルゴリ押しのサッカーを仕掛けられていたら、おそらくもっと苦戦していたことだろう。

その意味では日本にとってデンマークは、かなり「くみしやすい」相手だったと言えるだろう。
そして控え組が中心のメンバーながら、日本は危なげなく2-0の勝利をモノにすることができたのだった。

このように、似ているようで似ていない北欧の2チームに連勝したなでしこジャパン。

ノルウェー戦では先制点を許してからの逆転勝利、デンマーク戦ではリザーブ中心のメンバーを起用しながらも快勝と、与えられた宿題も見事にクリアーしながら勝利を重ね、その姿にはいつのまにか「女王の貫禄」が漂い始めたようにも見える。

そして、そんな2連勝中のチームを牽引しているのが、この大会から新キャプテンに任命された「澤穂希の後継者」、宮間あや だったのだ。

新キャプテン・宮間あや

ワールドカップ優勝をきっかけに、なでしこジャパンのキャプテンでありチームの象徴でもあった澤穂希が一躍スターダムへと駆け上がり、川澄奈穂美のようなニューヒロインも誕生した昨年。

しかし、そんな世間の「フィーバー」と一定の距離感を保ち続けていたのが宮間あやである。

チームメイトたちがテレビに雑誌に引っ張りだこなのをよそ目に、サッカーに直接関係のないメディアへの露出は控え、サッカー選手としての職務に忠実であり続けた宮間。

その姿は、例えるならまるで「サッカー職人」。

もっと言ってしまえば、どこか求道者のようなオーラも感じられる。

実は個人的には、宮間あやは大好きな選手の一人である。

ブロガーとして、いつかは彼女を主人公にした記事を書きたい…と思っていたのだけど、その日は着実に近づいてきているようだ(ちなみにこの記事はまだ、その前哨戦ということで)。

このアルガルヴェ・カップの直前、宮間あやは佐々木則夫監督から、澤穂希からキャプテンマークを引き継ぐよう言い渡されている。

そして個人的には、これは佐々木監督のファインプレーになるのではないかと感じた。

スポーツの世界では「最初の優勝よりも、連覇するほうが難しい」とよく言われるけれど、一度ピークに達して「優勝」という結果を残したチームが、その力を維持するのは並大抵のことではないようだ。

一度結果を出した以上、そのチームの「変えてはいけない部分」はキープしなければいけない。

しかし反面、どうしても生まれてきてしまう「慢心」や「モチベーションの低下」を回避するためには、「あえて変えることで、新しい刺激を与える部分」も加えていかなければならない。

きっといま、佐々木則夫監督もその両者のバランスを取ることに細心の注意を払っているはずだ。

その意味では、澤から宮間へのキャプテンの移行、というのは、非常に賢明な采配だったと僕は感じる。

宮間はもともと日本で一二を争うテクニシャンであり、代表でも一目置かれる存在である。
しかもプレーの面だけでなく、ワールドカップの大会中にメンタルの落ち込んだ選手に対して声をかけるなど、最近はピッチの外でもリーダーシップを発揮してきた。

誰もが認める「絶対キャプテン」だった澤穂希からキャプテンマークを継ぐことも、それが宮間であれば、チームメイトから異論の声はほとんど上がってこないだろう。

そして同時に、澤はこれまでの負担が軽減され、より自分のプレーに集中することができる。

「バランスを保ちながら、チームに変化をもたらす」という意味で、この宮間へのキャプテン移行は、大きなプラス材料となるのではないだろうか。

そしてキャプテンとなったことで、宮間自身のプレーにも変化が生まれたように僕は感じた。

宮間あや、「クイーン」への覚醒

宮間あやは、所属する岡山湯郷ベルではトップ下の位置を努め、キラーパスで周囲を自在に操るようなプレーを見せている。

その姿は、まさに湯郷の「キング」、もとい「クイーン」だと呼べるものだ。

しかしそんな宮間も、なでしこジャパンではクラブでやっているほどの「女王様プレイ(?)」は見せられていない。

これはもちろん対戦相手が強豪だということもあるけれど、宮間自身にも少し「遠慮」があるのではないか、という気もしていた。

本来はトップ下を得意とする宮間だけれども、なでしこジャパンはボックス型の4-4-2を採用しているため、トップ下というポジションが存在しない。

そこで宮間は代表では左サイドの攻撃的MFのポジションを与えられているわけだけど、やはり中央に比べるとプレーエリアが限定されるため、やや窮屈そうにプレーしている印象も受けていた。

しかし日本の中盤には、チームの「心臓」とも言えるボランチコンビ、阪口夢穂と、レジェンド・澤穂希が君臨している。

ボランチの位置から前線まで攻め上がっていくスタイルを得意とする澤の持ち味を消さないためにも、宮間はサイドの位置をキープして、時には「黒子」役に徹していたようにも思える。

しかしキャプテンとなったいま、今大会での宮間あやからは、よりプレーでチームをグイグイ引っ張っていこうとする勢いを感じるのだ。

初戦ではケガから復帰したばかりの澤が本調子ではなく、2戦目はサブ中心のメンバーだったことで、宮間のプレーがより引き立ったという側面はあったかもしれない。

それでも少なくとも僕にとっては、この2試合は宮間あやが、これまで見た中では最も「代表で自分のプレーを出した」試合に映ったのだった。

初戦のノルウェー戦は、立ち上がりからチーム全体の動きが重く、いまいちリズムに乗れないまま先制点を奪われてしまう。

しかし宮間が左サイドから中央にポジションを移す動きが徐々に増え、中でボールを触る回数が増えてくると、次第に日本の得意とする形が生まれ始めた。

そして前半ロスタイム、宮間あやのクロスから永里優季が決めて 1-1の同点に。

後半に入ると宮間のプレーはさらにキレを増す。

宮間が頻繁に左から中央に絞ることによって左サイド前方に広大なスペースが生まれ、そこに左サイドバックの鮫島彩がオーバーラップを仕掛けては、宮間からキラーパスが送られる。

後半はこの宮間と鮫島の左サイドから再三のチャンスが生まれ、日本はここで完全にゲームの主導権を握った。

2戦目のデンマーク戦も、若手中心のメンバーを宮間あやが引っ張った。

サブ中心のメンバーということもあってコンビネーションがイマイチで、この試合も前半はなかなか良い形でのチャンスが生まれてこない。

しかし初戦同様、宮間が中でボールを持つ機会が増えてくるにつれて、日本もボールが回るようになってくる。

そして52分、ショートカウンターからの宮間のスルーパスを起点に、田中明日菜→近賀ゆかりと繋ぎ、最後は近賀からのクロスを菅澤優衣香が決めて 1-0。

その後も交代で退くまで、宮間は攻撃の中心としてタクトを振り続けた。

そして僕の目には、新しく芽生えたキャプテンとしての責任感が、宮間あやをさらにもう一歩進化させたように感じられたのである。

いざ、日米決戦へ。

このように、2連勝で好スタートを切ったなでしこジャパン。

しかし続く第3戦目の相手は、これまでの2戦とはわけが違う。

対するは、ワールドカップ決勝であの死闘を戦った最大のライバル・アメリカ。

ワールドカップでの日本は幸運にも恵まれてPK戦での勝利を手にしたけれども、地力ではまだアメリカが上だという声も根強い。

いまのなでしこジャパンの実力を測るには、まさにこれ以上の相手は居ないだろう。

そのアメリカを相手にどれだけ立ち向かうことができるかは、当然ながら選手たちのプレー、とりわけ澤や宮間といった主力選手たちのプレーにかかってくる。

リベンジに燃えるライバルを、果たして日本は返り討ちにすることができるのか!?

我らが あやまん……もとい、”みやまんJAPAN” の活躍から、明日は絶対に目が離せない!!!

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