フットサル代表の迎えた「歴史的分岐点」。/フットサル ワールドカップ@フットサル日本代表 4-2 フットサル リビア代表

フットサル futsal omiya
フットサル futsal omiya / norio.nakayama

フットサル日本代表
GK 川原永光
FP 北原亘
村上哲哉
逸見勝利ラファエル
森岡薫
SUB 富金原徹
藤原潤
小宮山友祐
稲葉洸太郎
小曽戸允哉
三浦知良
木暮賢一郎
高橋健介
星翔太
フットサル リビア代表
GK ユーセフ・ベンサエド
FP サレム・アギラ
モハメド・ラホマ
バデル・ハサン
アハメド・ファテ
SUB アル・シャリフ
フサム・アルツミ
アーメド・ファラジ
モハメド・ラゲブ
アブドゥサラーム・シェラド
ラビア・アブデル
レダ・ファテ
フサム・アルワヒシ
ユーニス・シャメス
4 2
18分 稲葉洸太郎
18分 モハメド・ラホマ
25分 星翔太
26分 稲葉洸太郎
32分 小曽戸允哉
38分 モハメド・ラホマ

「リビア」というと昨年の内戦でカダフィ政権が崩壊し、民主化を果たした国、というのが記憶に新しいけれど、サッカー界でのリビア代表を国際大会などで見かける機会は少ない。
ちなみに昨年までリビアの指導者だったカダフィ大佐。その三男は元プロサッカー選手で、セリエAのペルージャ、ウディネーゼ、サンプドリアに所属したことでも知られる。
言い方を変えればそれ以外の話題ではあまり名前を聞かないくらい、リビアのサッカーは日本国内では知られざる存在だった。

しかしフットサル界でのリビア代表は、サッカーのそれとはひと味違う。
フットサル リビア代表はワールドカップ2大会連続出場中で、かつアフリカ王者。
リビア以外にも今大会にはグアテマラ、パナマ、ソロモン諸島など、サッカーのワールドカップでは滅多にお目にかからない名前が見うけられるけれども、サッカーとはまた違った勢力地図があるところもフットサルの魅力の一つだろう。

ただしアフリカ王者とは言っても、今大会でのリビアはポルトガルに1-5、ブラジルに0-13と大敗を喫して早々にグループリーグ敗退を決めていた。
日本は強豪ブラジル・ポルトガルと同居するこの「死のグループ」で、リビアを相手に勝ち点3を奪えるかどうかが、決勝トーナメント進出の絶対条件だったのである。

ミゲル・ロドリゴ監督が「日本のフットサル史上で、最も重要な試合」と位置づけたこのリビア戦はしかし、予想以上の苦戦で幕を開ける事になった。

日本が味わった「苦戦」

前節ではブラジルを相手に13失点と大敗したリビア。対する日本は、格上と見られていたポルトガルに4点差をつけながらも追いつき、奇跡のドローゲームに持ち込んでいる。
リビアはバデル・ハサンを中心とした個人技とカウンターという強力な武器を持つけれども、チームとしては日本がより洗練された戦術を持っていた。
その勢いと地力で言えば日本が有利、というのが一般的な下馬評だったように思う。

そして実際に、序盤からペースを握ったのは日本のほうだった。

しかしボールを支配しながらも、日本はなかなか得点を挙げることができない。
18分に稲葉洸太郎のミドルシュートでようやく先制し、「これで勢いに乗るか!?」と思われたのもつかの間、直後に直接フリーキックを決められて 1-1の同点に追いつかれる。

「押し込んでいるチームがチャンスを外し続けた結果、相手の一発にやられるーー。」
まさかそんなシーンが再現されるのかと、時間が進むに連れて高まっていく不安と緊張。

それでも後半、日本はそんな重苦しいムードを見事に払拭してみせた。

そしてそれを牽引したのは、スタメンを外れることの多い「セカンドセット」の選手たちだったのである。

フットサルにおける「セット」とは

狭いエリアでボール回しをすることの多いフットサルでは、サッカー以上にコンビネーションが重要になると言われている。

サッカーでは、例えばFCバルセロナはあの驚異的なパスのコンビネーションを実現させるために、同じようなシチュエーションでのボール回しの練習を、それこそ体に染み込むまで繰り返し行っているらしい。
そしてフットサルのチームもこれと同じように、一定のシチュエーションでのパス回しの練習をほとんどオートメーション化できるまで繰り返し、それを複数パターン持つことで実戦で活かしているチームが多いそうだ。

そういった性質上、フットサルでは非常にコンビネーションが重視されるため、たとえ能力の高い選手であっても、チームに合流したばかりで急にフィットすることは難しいとも言われている。
カズがフットサル代表でいきなり活躍するのが困難なのも、そういった事情が背景にあるとも言えるだろう。

そしてフットサルには、このようにコンビネーションが非常に重要だという競技の性質、そして選手交代が自由だというルール上の特性から、「セット」という概念が生まれた。

「セット」というのはGKを除いたフィールドプレイヤーの4人を、「4人で1つのグループ=セット」として捉えるという考え方だ。
スタメンのフィールドプレイヤー4人を「ファーストセット」、サブの4人を「セカンドセット」と呼び、選手交代の場面でもセットの4人を丸ごと入れ替えることも多い(もちろんそうでない時も多いけれど)。
セット単位で丸ごと選手を入れ替えることで、コンビネーションの質を維持しながら選手交代をするという考え方である。

そして今大会の日本で、第2戦までの「ファーストセット」の中心となっていたのが逸見勝利ラファエル、北原亘、木暮賢一郎、星翔太の4人だった。
しかしこのリビア戦では、ここまでノーゴールでやや不振気味の木暮賢一郎がファーストセットから外れ、また星翔太も、前節で2ゴールを挙げて上り調子の森岡薫にスタメンの座を譲ることになった。

ただ、それでもこの試合で均衡を破ったのは、スタメンを外れた「セカンドセット」の選手たちだったのである。

勝利を牽引した「セカンドセット」の選手たち。

まず、その中心となったのは稲葉洸太郎。

前半に挙げた先制点に続き、後半に入った25分にも、稲葉が高い位置でのパスカットからラストパスを出す。
これを星翔太が決めて2-1。

日本にとっては「喉から手が出るほど」欲しかった勝ち越し点を手に入れた瞬間だった。

さらに1分後の26分。
同じく2戦目からはセカンドセットの一員となっていた小宮山友祐が、高い位置でボールを奪ってミドルシュート。
これを稲葉洸太郎がコースを変えて、ボールはリビアのゴールに吸い込まれた。

これで 3-1。
稲葉は通算3ゴールで、チーム内の得点王に躍り出る。

そして32分、これまたリザーブの小曽戸允哉がプレスでボールを奪うと、そのまま強烈なミドルシュートを突き刺して4-1。

最後にPKで1点を返されたものの、そのまま逃げ切った日本が4-2の勝利を飾る。
控えの選手たちの大活躍で、絶対条件だった勝ち点3をゲットした日本。

そして他会場での試合の結果、フットサル日本代表が4度目のワールドカップ挑戦で、初の決勝トーナメント進出を決めたのである。

フットサル代表の迎えた「歴史的分岐点」。

ちなみに次の決勝トーナメント1回戦では、日本はチーム最年少ながらエースに成長しつつある逸見勝利ラファエルを出場停止で欠くことになった。
しかしこの日のリザーブメンバーたちの活躍を見れば、それは日本にとっては大きなマイナスにはならないと僕は思っている。

稲葉洸太郎、小宮山友祐、小曽戸允哉、木暮賢一郎たちは今はセカンドセットに甘んじてはいるけれども、前回大会のワールドカップにも出場していて豊かな経験を持った選手たちだ。
今大会の日本はそんな実力者たちがベンチに控え、スタメンもリザーブもほぼ実力差はなく、誰が出ても力が落ちることがないのも特長の一つだと言える。

話題の中心となっているカズも、攻撃面ではどうしても不慣れな場面が見えてしまうけれども、ディフェンスの部分では十分にチームに貢献しているように感じた。

それにしても、史上初の決勝トーナメント進出はまぎれもない「快挙」である。
ブラジル、ポルトガルと同組で、大会前はむしろフルボッコされて帰ってくるのが既定路線とも思われていただけに、これは本当に素晴らしいことだ。

そしてここまで来たら、少しでも上まで行ってほしいとも思う。

ちなみに昨年の女子サッカーのワールドカップで優勝したなでしこジャパンも、その大会が初めて決勝トーナメントに進出した大会だった。
フットサルワールドカップで優勝することは女子サッカーのワールドカップ以上に難易度が高いと思われるので、さすがに優勝は難しいかもしれないけれど、ベスト8、あわよくばベスト4まで行ってくれたら、これはもうフットサルファンとしては「ヒャッハー」としか言いようがないところだろう。

ところで今大会は今のところ、地上波でのテレビ生中継が行われていない。
カズ効果でニュースやワイドショーでは大きく取り上げてくれているので、それだけでも前回までと比べれば雲泥の差なんだけれども、ここまで来たらぜひ地上波での生中継もやっていただけないものだろうか。

なでしこジャパンもワールドカップでの活躍で澤穂希、川澄奈穂美たちが一気にブレイクしたけれど、フットサル代表にも負けず劣らずのスター性のある選手たちが揃っている。
注目度のさらに高まる決勝トーナメントで地上波での生中継が実現すれば、フットサル界からも新しいスターたちが誕生する可能性はかなり高いのではないだろうか。
そしてそれは、今後の日本のフットサル界を変えるだけの影響力を持っていると思う。

それらも含めてここからの戦いは、ほんとうの意味で日本フットサルの歴史を分ける、「分岐点」となる戦いになるだろう。

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