どの国にも「ヒール役」のチームというのが存在する。

スペインならレアル・マドリード、イングランドならマンチェスター・ユナイテッド、ドイツならバイエルン・ミュンヘン、イタリアならACミラン…。

強すぎるが故に、ファンとアンチとに評価が2分されてしまう、ある意味でリーグの「顔」になるようなチームのことである。

しかし、こういうチームの存在がリーグの盛り上がりに一役買っているのは間違いない。
集客力のあるリーグには、必ずと言っていいほどこういうチームがいるものである。

ただ今のJリーグには、そんな「ヒール役」が存在しない。

リーグ3連覇中の鹿島アントラーズや、リーグ屈指の人気を誇る浦和レッズはそれに近い存在かもしれないけれども、どちらかと言うと地域密着に成功した好印象のチームというイメージで、ファンは多くてもアンチはさほど多くはないように思う。
良くも悪くも、完全な「ヒール役」とは違うという印象である。

しかし、かつてはJリーグにも生粋の「ヒール役」のチームが存在した。

Jリーグの発足当初、圧倒的なまでの人気と実力を誇ったヴェルディ川崎である。

その名門ヴェルディが、いまチーム存続の危機に立たされている。

日本サッカー界に革命をもたらした読売クラブ

日本リーグ時代は「読売クラブ」という名称だったヴェルディ。

1969年、まだ企業の実業団チームが主流だった国内のサッカー界に彗星のように現れた読売クラブは、企業体質を否定し、欧米式のクラブ組織を日本に持ち込む先駆けとなった。

与那城ジョージ、ラモス瑠偉、戸塚哲也らのテクニシャンを擁し、個人技とパスワークを主体とする「ヨミウリのサッカー」は、体力・走力を重視していた当時の日本サッカー界にあって、プレースタイルの面でも革命をもたらした。

そしてその優れた育成組織から、戸塚哲也や松木安太郎、都並敏史、菊原志郎、藤吉信次、中村忠、山口貴之、財前宣之、玉乃淳、森本貴幸、最近では高木俊幸、高木善朗といった、各世代代表クラスのタレントたちがキラ星のごとく巣立っていったのである。
こういった自前のユース組織を持つことも、日本では読売クラブがその先駆者であった。

80年代に斬新なサッカースタイルで日本サッカー界を席巻した読売クラブは、日産自動車との2強時代を形成する。

そして世はJリーグの時代へ。

読売と日産を前身とするヴェルディ川崎と横浜マリノスは、栄えあるJリーグ開幕戦を戦う2チームに選ばれ、この開幕戦で敗れたヴェルディはJリーグの最初の敗戦チームとなった。

しかし開幕戦は落としたものの、ヴェルディはこの年のセカンドステージとチャンピオンシップを制し、歴史に残るJリーグの初代チャンピオンに輝いたのである。

「最強のヒール」だったヴェルディ川崎

この時代のヴェルディはとにかく強かった。

初年度の 93年と、翌 94年のJリーグを連覇。
続く 95年はチャンピオンシップで宿敵マリノスに敗れたものの、リーグ戦では最大の勝ち点を稼ぎ、天皇杯のタイトルも獲得した。

この頃のヴェルディはカズ、ラモス、北澤豪、武田修宏、柱谷哲二、都並敏史ら主力の多くが日本代表に名を連ねていた。

他を圧倒するその選手層は、当時のライバルであった清水エスパルスのエメルソン・レオン監督から「ヴェルディには(ブラジル出身のカズ、ラモスを加えて)5人の外国人選手がいる」と嫉妬されたほどである。

そして強いと同時に、カズやラモスなどの「日本サッカー界の顔」とも言うべきスーパースターを抱えるヴェルディは、当然のごとく人気面でも他を圧倒していた。

しかしその反面、ヴェルディはJリーグ側からしてみると「問題児」でもあった。

ヴェルディの当時の事実上の親会社は、プロ野球の巨人軍と同じ読売新聞社である。

そしてヴェルディ上層部はチームを、全国区の人気を誇るジャイアンツのような「Jリーグにおける巨人軍」に仕立てようと考え、Jリーグの掲げる「地域密着」の理念に真っ向から反発した。

この時代、ヴェルディは紛れもなくJリーグの盟主であり、同時に「最強のヒール役」でもあった。

ちなみに僕も、正直言うとこの時代のヴェルディが嫌いだった。

地域密着を軽視し、金に物を言わせるような体質が好きになれなかったし、僕がライバルの横浜マリノスを応援していたこともあって、ヴェルディだけは絶対に負けられない宿敵と見ていたのである。

ただしその一方で、自分の中ではそんな憎きライバルとの対戦を楽しんでいた部分があったのも、また事実だった。

ヴェルディ、その凋落の軌跡

Jリーグ最強チームだったヴェルディ。

しかし、その凋落はあっという間に訪れる。

96年のシーズンになると、2連覇を果たした当時の主力選手たちに衰えが見えるようになり、このシーズンは7位と低迷。

すると、それまで地域密着を怠ってきたツケが一気に押し寄せる。
93年からの「Jリーグブーム」が去った影響もあり、勝てなくなったヴェルディからは急激に客足が遠のいていった。

人気が低迷すると、それまでJリーグ側と丁々発止のつばぜり合いを繰り返してきた読売新聞社が経営から撤退。
補強予算が削られ、成績もさらに低迷するという負のスパイラルに陥った。

ヴェルディが当初から東京移転をちらつかせていたため、当時のホームタウンだった川崎市での人気は冷え切っていた。
2000年度の平均観客動員数は、ついに7,000人台にまで落ち込んでしまう。

しかし翌 2001年には、東京スタジアム(現味の素スタジアム)の完成をきっかけに、ずっとラブコールを送り続けてきた東京都への移転を実現させ、観客動員数も一定の回復を果たす。

ただ、東京には既にFC東京が根を下ろしていたため、ヴェルディは人気面でも成績面でもFC東京の後手を踏むようになった。

その後も人気と成績はゆるやかな低下を続け、ついに 05年シーズン終了時にはJ2への降格が決定してしまう。

かつては僕も最大の敵と思っていたヴェルディだったのに、さすがにこの頃になると同情を感じるようになった。

いや同情というよりはむしろ、哀しさと言ったほうが近いだろうか。

憎らしいほど強く華やかだったあのヴェルディがここまで落ちぶれてしまったことが、僕にとってはJリーグの人気の低下とオーバーラップし、そのことに物悲しさを感じてしまったのである。

リーグを盛り上げるために不可欠な「ヒール役」として、かつてのヴェルディほど適任のチームはいなかった。
そのヴェルディがJ2にまで落ちてしまったことは、Jリーグから真の盟主が消えてしまったことを意味しているように僕には感じられたのだ。

僕は強く、華麗で、憎たらしいヴェルディの復活を願うようになった。

しかし凋落には歯止めがきかなくなっていた。

08年に一度J1に復帰するものの、1年で再びJ2に降格。
翌年も再昇格はかなわず、とうとう大口スポンサーだった日本テレビも撤退した。

この頃からチームの消滅がまことしやかにささやかれるようになってきたものの、新しい経営陣の元、なんとか今シーズンの開幕にこぎつける。

しかし新会社の経営が早くも行き詰まり、このたびJリーグ主導での再建が図られる運びとなりそうである。

消滅の危機に瀕する東京ヴェルディ

とりあえず今シーズンいっぱいの存続は保障を得たヴェルディ。

しかし状況は芳しくない。

来シーズンまでに新経営陣が見つかるなどで経営再建が実現しなかった場合、チームの消滅もあり得ることをJリーグは示唆している。

現在、IT企業などが新オーナー候補として名前を挙げられているものの、チーム買収には使用料の高いホームスタジアムと練習場の移転が条件になりそうである。

しかしスタジアムはともかく、練習場であるよみうりランドからの移転は、もはやヴェルディがヴェルディでは無くなってしまう危険性もはらんでいる。

前述したようにヴェルディの育成組織が優れたタレントを数多く排出してきた背景には、よみうりランドという好立地の練習場を持っていたことも大きな理由として挙げられる。
優れたハードを持ち、優れた指導者がいたからこそ、優れた選手が集まり育ったのである。

その基盤を失うことは、ヴェルディのみならず日本サッカー界にとっても大きな損失になるのではないだろうか。

僕のようないちサッカーファンがこんな時に出来ることなどほぼ皆無だけれど、どうか何らかの形で、ヴェルディとよみうりランドのユース組織が存続してくれることを願う。

何はなくともヴェルディは、Jリーグの初代王者という金看板を背負った名門である。
そんなチームを簡単に消滅させてはいけない。

確かにヴェルディのこれまでの歩みには問題点も多々あった。

しかし、読売グループが完全撤退し、ようやくこれから本格的に地域密着に取り組んで行こうとしていた矢先にチームを潰してしまうのでは、あまりにもやるせないではないか。

また、かつて横浜フリューゲルスを簡単に消滅させてしまった歴史を再び繰り返すことは、Jリーグにとっても更なる汚点になると僕は思う。

東京ヴェルディの存続を願って

前述したように、僕はヴェルディのファンではない。
むしろアンチだった側の人間である。

しかしそれでも、かつてJリーグの象徴だったチームの存続を切に願っている。

そのために微力でも協力できることがあればしたいとも思っているし、いつかまた、あの強くて憎らしかった「最強のヒール」が、再びJ1の桧舞台に戻ってきてくれることを信じている。

Jリーグを盛り上げるという意味でも、強すぎるヒール役の存在は必要なはずである。

そしてその役割が一番似合うのは、あの緑色の軍団をおいて他にはないと、僕は思うのだ。

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