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名もない寄せ集め集団が力を合わせて、並み居る強敵を次々と倒していくーー。

昔のハリウッド映画で『メジャーリーグ』という、そんな内容の大ヒット作があった。
日本で一世を風靡したバスケット漫画の『スラムダンク』も、言ってみればそんなストーリーの物語のひとつだと言っていいだろう。

つまり裏を返せば、そんなサクセスストーリーは映画や漫画の世界のお話であって、現実にそれが起こることはほとんどないと思われている。

しかし今回、そんな「漫画のような」物語が実現してしまった。

アジア大会に臨んだ日本の U-21代表チーム。

有名選手のほとんど居ないこの “雑草集団” は初戦から快進撃を見せて、とうとうこの大会での日本初の金メダル、という快挙を達成してしまったのである。

それはまさに「漫画の世界の」おとぎ話のような物語だった。

「雑草軍団」の達成した「ジャパニーズ・ドリーム」

今回のアジア大会にエントリーした日本代表は、掛け値なしの無名集団である。

以前はフル代表が出場する大会だったアジア大会も、近年ではオリンピックと同じ U-23を主体とした大会へとレギュレーションが変更されている。

そして日本は更に年齢制限を引き下げて、2年後のオリンピックを視野に入れた U-21のチームでこの大会に臨んでいた。

今回の U-21代表チームは、U-20年代に照らし合わせると「89〜90年生まれ」と「91〜92年生まれ」の2つの世代に大別される。

しかしこの2つの世代は、それぞれ U-17ワールドカップを体験した選手たちを含むものの、その後の U-20ワールドカップは2大会連続で出場を逃してしまい、どちらの世代も U-20年代では世界の舞台を経験できないままオリンピック予選に臨むことになった。

U-17時代にはそれぞれ『新・黄金世代』や『プラチナ世代』ともてやはされた選手たちも、U-20のアジア予選で負けたことでその輝きは失われ、逆に『谷底の世代』とも揶揄されることになったのである。

さらにこのアジア大会の代表チームは、その「谷底の世代」の中でも、とりわけJリーグで出場機会の少ない選手や、J2や大学チームに所属する選手たちを中心とした、いわば2軍チーム。

香川真司や金崎夢生、権田修一、宇佐美貴史、米本拓司といった本来のレギュラー候補選手たちを大量に欠いた布陣だったのだ。

そんな無名集団が、わずか1週間ほどの合宿をこなしただけで参加したこのアジア大会で、まさか金メダルを獲ると予想したサッカーファンは、おそらくほとんど居なかったのではないだろうか。

しかし、彼らはやってのけた。

初戦の中国戦から数えて、グループリーグ3試合、決勝トーナメント4試合の計7試合を全勝した末の優勝。

しかも7試合で失点はわずかに1という堅守も誇った、文句のつけようのない「完全優勝」だったとも言える。

それはまさに漫画の世界から生まれたような「ジャパニーズ・ドリーム」だったのである。

雑草を輝かせた名将、関塚隆

このアジア大会では、エースストライカーの永井謙佑が5得点で大会得点王となり、一躍スターダムにのし上がった。

そして鈴木大輔と薗田淳のセンターバックコンビに、GKの安藤駿介、キャプテンのボランチ山村和也らを中心とした DF陣の安定感も見事だったと思う。

しかし個人的に一番驚いたのは、この雑草集団を短期間でまとめあげた、関塚隆監督の手腕だ。

関塚監督は言わずと知れた、川崎フロンターレをJ1に昇格させて、その後もJで優勝争いの常連となる強豪に育て上げた名将である。

関塚監督はこのチームにまずは守備組織を植えつけて、その後は試合を重ねるごとに攻撃のコンビネーションを植えつけていった。

はじめは永井謙佑や山崎亮平の個人技頼みだった攻撃も、大会が進むごとに連携が磨かれていって、トップ下の東慶悟や水沼宏太、ボランチの山口螢、あるいはサイドバックまでが絡んだ連動性のあるアタックを見せるようになっていく。

象徴的だったのが準決勝イラン戦での同点弾と、決勝 UAE戦での決勝点だ。

開始早々の6分に先制点を奪われたイラン戦で、同点ゴールが生まれたのは前半 38分だった。

東慶悟のパスを受けて左サイドを突破した永井謙佑が、再びこのボールを東に折り返す。
そして東がこれをスルーしたところを、その裏にいた水沼宏太がゴールゲット。

決勝戦では 0-0で迎えた 73分、CKの流れから左サイドでボールを持った水沼が、大きく逆サイドに展開。

ここに走りこんだ右サイドバックの實藤友紀が綺麗に逆サイドに突き刺して、日本の優勝を決める決勝ゴールを叩き出した。

いずれも複数の選手たちが、ゴール前に走りこんできて生まれた得点。

短期間の大会の中でここまでコンビネーションが磨かれたのは、選手たちの吸収力も去ることながら、関塚監督の手腕によるところも大きいと僕は見る。

関塚監督の戦術指導力の高さがあったからこそ、短期間でこのチームは見事な組織力を身につけることができたのではないだろうか。

それに加えて、無名の大学生たちを抜擢した慧眼も賞賛に値する。

永井や山村は、大学選手の中ではもともとある程度知られた存在ではあったけれども、両サイドバックの比嘉祐介や實藤友紀は、これまで年代別の代表チームにはあまり縁のなかった選手たちだ。

彼らをこの大会のレギュラーで抜擢したことは小さなサプライズだったし、2人とも攻守に多大な貢献を果たして、見事にその期待に応えていたと思う。

Jリーグ時代はタイトルに恵まれず「シルバーコレクター」とも呼ばれた関塚監督だけれども、代表監督として最初の大会となったこのアジア大会では見事に金メダルを獲得して、胴上げで宙を舞った。

プロ監督としての実績も豊富な上に理論家としても知られ、さらには選手からの人望も厚い関塚監督の下でなら、世界の経験の浅いこの雑草集団でも、かなりのレベルまでチーム力を引き上げることができるのではないかと僕は期待している。

一歩間違えれば大きな不安を抱えて臨むことになっていたかもしれない、来年に控えるオリンピック予選が、アジア大会の優勝で俄然楽しみになってきた。

求められる指揮官の手綱さばき

しかし最初に最高の結果が出てしまったことで、僕はこのチームに、ひとつの難しい問題が発生したのではないかとも懸念している。

それはこの雑草軍団に、今後どうやって新しい選手たちを融合させていくのか、ということだ。

はじめは無名集団だったとは言え、アジア大会金メダルという結果を残したことで、選手たちはもう単なる無名選手たちではなくなった。

大会を通じて結束も強まって、一種の強い仲間意識が生まれたことも想像される。

しかしこのチームは前述のとおり、本来は「2軍」に近い扱いのチームだ。

今後ここには金崎や宇佐美が加わってくるだろうし、さらにオリンピック本大会に出場が決まれば、香川やオーバーエイジの選手たちも参加してくる可能性が高い。

しかも従来通りであるならば、オリンピック本大会の登録選手数は、ワールドカップなどの 23人よりも5人も少ない 18人。

オリンピック本大会を迎える頃には、このアジア大会のメンバーから大幅に選手が入れ替わっていることも予想される。

もしそうなった時に、現在のメンバーたちから反発が生まれることも考えられなくはない。

無名集団とは言えアジアの頂点に立ったことで、彼らにもプライドが芽生えたことだろう。

そこにいくらビッグネームだとは言っても、後から参加してきた選手たちがチームに合流してきて、その影響でともにアジア大会を戦った仲間が切られることになれば、心中穏やかではいられないかもしれない。

もちろん「勝負の世界はそういうもの」と言ってしまえばそれまでなのだけども、アトランタオリンピックの時には攻撃陣と守備陣との確執が生まれて、その影響から本大会ではチームが機能しなかったという話もある。

その二の舞を踏まないよう、関塚監督には慎重な手綱さばきが求められることになるだろう。

そしてオリンピックへ

と、何やら不安を煽るようなことを書いてしまったけれども、それでもこのチームが大きなポテンシャルを持っていることは間違いない。

特にやはり、この大会でブレイクした永井謙佑の才能は本物だ。

初戦の中国戦の記事でもその能力の高さについては書かせてもらったけれども、1試合だけでなく大会を通じて、永井謙佑は期待をさらに上回る活躍を見せたといっていい。

特に圧巻だったのが、準決勝イラン戦で永井が挙げた決勝ゴール。

中盤からの縦パスを下がりながら受けた永井は、これを反転して振り向きながらトラップすると、チェックに来た DF1人をブロックしてからドリブルを開始。

そのままグングン加速しながら右サイドに切れ込んだ永井はさらに2人を抜き去ると、角度のないところから逆サイドのサイドネットに、まるでライフルの弾道のような、速く、正確な一撃を突き刺した。

連動性に優れたチームの中にありながら、全くの個人技で挙げたスーパーゴール。

その突破力とボディバランス、そして決定力をまざまざと見せつけたこのワンプレーは、Jリーグでもそうそうお目にかかれない類のものである。
対戦相手のレベルは違うけれども、プレーだけを見ればリオネル・メッシを彷彿とさせるほどの驚異的な一撃だった。

現在 10を超えるJリーグチームからオファーを受けている永井謙佑は、プロの世界で通用する能力も間違いなく持っていると言っていいだろう。
それどころか、早い段階でのフル代表入りも充分に考えられる。

U-21のチームの中でも、今後もエース級の選手として君臨し続けるはずだ。

その永井を中心としたこのチームに、これから宇佐美が、金崎が、そして香川真司が加われば、チームはどこまで強くなっていくのか。

そう考えると、いちサッカーファンとしては興味をそそられずにはいられない。

オリンピックのアジア予選は来年2月に1次予選がスタートして、日本の参加する2次予選は6月に行われる。

そして最終予選は9月から始まって、翌 2012年3月まで続く長丁場となる。

その間、チームはどんな変化を見せてくれるのか。

関塚監督の手腕と選手たちの成長に、僕は大いに期待したい。

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