サッカーの大会では「緒戦は難しい」と言われる。

2006年ワールドカップで優勝したスペインが緒戦のスイス戦を落としたことは分かりやすい一例だけども、その他にも’90年ワールドカップで前回大会優勝のアルゼンチンがカメルーンに敗れた一戦、2002年ワールドカップで同じく前回優勝国のフランスがセネガルに敗れた一戦など、実力差を超えた波乱の展開が緒戦に待ち受けていることは珍しくない。

現役の世界王者となった日本女子代表=”なでしこジャパン” は、世界一に輝いたワールドカップ決勝からわずか1ヶ月半ほどの猶予を経て、再び決戦の舞台へと足を踏み入れていた。

ロンドンオリンピック・アジア最終予選。

6チームによる総当たりのリーグ戦を戦い、上位2チームが来年のオリンピック出場を決める最終決戦。
その日本の緒戦は、6カ国の中では最も力が落ちると見られているタイ。

戦前には大勝も期待された試合はしかし、なでしこジャパンにとっては “緒戦の難しさ” を改めて痛感させられたゲームとなったのである。

日本が臨む「死の5連戦」

男子サッカーでのオリンピックは23歳以下による大会ということで、ワールドカップよりは格下の大会とみなされている。

しかし女子サッカーにおけるオリンピックはフル代表で戦われる大会で、ワールドカップとほぼ同等の権威がある大会だと言っていい。
むしろ知名度やメディアでの露出度という意味では、近年まではワールドカップ以上に注目を集める大会だった。

そして今回なでしこジャパンが参戦しているのは、そのオリンピックへの出場権をかけたアジア最終予選である。

ただしそれほど重要な大会にも関わらず、この最終予選のレギュレーションは極めて「前時代的なもの」となっていた。

大会方式は、中国に全6チームが集結して行なわれるセントラル開催方式。
そして各チームがそれぞれ全5試合を、わずか11日間で戦うという、まるで高校サッカーばりの過酷なスケジュール。

加えて日本はワールドカップ以降、休む間もなくなでしこリーグ、オールスターゲーム、岡山合宿とスケジュールを消化し、その合間ではメディア出演もこなすなど心身ともに疲労を抱えたまま、この重要な大会に臨むことになった。

ただしこれだけハードな条件下では、当然コンディション面で何かしらの工夫は求められてくる。

佐々木則夫監督はこの緒戦で、ワールドカップ決勝から先発メンバーを7人入れ替え、控えメンバーを中心としたチームで戦いに臨んだのである。

しかし前半、その戦略は、完全に空回りする結果を生んでしまうことになる。

緒戦で迎えた「最悪の45分間」

0対0。

タイとの45分間を終えた時、なでしこジャパンは追い詰められつつあった。

ただし、そうは言っても試合内容で押されていたわけではない。
序盤はむしろ、日本が圧倒する展開から試合はスタートする。

タイは一定の技術があり悪いチームではないけれど、それでもなでしこジャパンは世界王者である。
サブ中心のメンバーではあるけれど、その個人能力では、やはりなでしこがタイよりも一枚上手ではあった。

しかしタイも、予想以上に粘り強いチームだったのだ。

日本との力の差を認識して、トップ以外はほぼ全員でディフェンスを固めにきたタイ。
序盤こそ決定機を次々と生み出した日本だったものの、タイの粘りの前に、次第にその気勢は削がれていくことになる。

なかなか組織が噛み合わず、リズムを失っていく日本。

そして45分を戦って、スコアレスで前半が終了。

勝ち点3が絶対のノルマとなる日本にとっては、最悪に近い形で、試合を折り返すことになってしまった。

しかし佐々木監督はここで、その流れを一変させるカードを切る。

オーケストラを蘇らせた”指揮者”、宮間あや

「スーパーサブ」という言葉があるけれど、これは先発よりも、試合途中から出場して力を発揮するタイプの選手に対して使われる称号だ。

しかしもし、チームのエース級の選手が試合途中から出た場合には、どんな働きを見せるのだろうか?
この答えを知る機会は意外と少ない。
当然ながら、エース級の選手は大抵の場合、先発で起用されることが多いからだ。

しかしそんな素朴な疑問に、この日の宮間あやは明確なアンサーを突きつけた。

後半開始と同時に宇津木瑠美に変わって投入された宮間。
彼女はそれまで調子の外れたオーケストラのようだった中盤に、空気を一変させる鮮やかなタクトを振るう。

そして宮間あやが、日本の中盤を蘇らせた。

前半はパスを回しても単調なリズムに終始していた日本のアタック陣。
しかし投入されて早々、宮間はタイの急所を突くようなロングパス、スルーパスを連発していく。
一瞬にして相手を混乱に陥れる、一撃必殺のキラーパスの数々。

それを繰り出す宮間あやの投入によって、日本のアタック陣は息を吹き返していった。

ボール回しにはリズムが生まれ、それまで精細を欠いていた選手たちが、見違えるように輝きを放ち始める。

そしてついに、日本に待望の先制点が生まれる。

ルーズボールを拾った川澄奈穂美から、永里優季にパスが出る。
永里がこれをポストプレーで落としたところ、これを受けた上尾野辺めぐみが浮き球のスルーパスを前線に。

ここに走りこんだ川澄奈穂美が冷静に流しこんで、ついに日本はタイのゴールを破ることに成功したのである。

川澄と上尾野辺、小学校2年生から高校時代まで一緒のチームでプレーした「幼なじみコンビ」によるホットラインが通じ、この一発で日本は完全に主導権を握り返した。

ここからは面白いように試合をコントロールしていった日本。
その後2点を加え、終わってみれば3-0。

苦戦の末、結果的にはほぼ文句なしのスコアで、なでしこジャパンが過酷な5連戦のスタートを白星で飾ることになったのである。

日本が挙げた「価値ある一勝」

試合後、佐々木則夫監督は「できれば宮間は使いたくなかった」と本音をもらした。

世界チャンピオンとは言え、過酷なコンディションの中での試合を強いられれば、アジアで足元をすくわれる可能性も充分に考えれる。

うまくメンバーをローテーションして体力を温存しながら戦っていくことが理想ではあるけれど、それでも宮間や澤が換えの効かない選手であることが、結果的にこの試合で再認識されることとなってしまった。

ただ苦戦の中でも、上尾野辺めぐみや田中明日菜あたりが戦力として計算できる見通しが立ったことは明るい材料だろう。
そして後半、主力を投入した時のなでしこは、やはり抜きん出た実力を持っていることも改めて証明されたのである。

過酷な5連戦、”死のロード”。

しかしその緒戦で日本が挙げた白星は、決して小さなものではなかったのかもしれない。

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