田中陽子さんと猶本光さん、大活躍!の巻/国際親善試合@U-20日本女子代表 1-0 U-20アメリカ女子代表

今年の後半は、サッカーファン垂涎のビッグトーナメントが目白押しである。

いま開催中のユーロ2012が終わると、7月下旬からは女子のオリンピック、続いて男子のオリンピックが開幕。
そして8月19日からは、日本を舞台に女子のU-20ワールドカップが開催される。
さらに9月下旬からは女子のU-17ワールドカップ、11月にはフットサルのワールドカップもあるのだから、ファンにとっては「嬉しい悲鳴」といったところだろうか。

ちなみにここに挙げたうち、ユーロ以外の全ての大会に日本が出場するのだから、「いやー時代も変わったなー」とか口走ってしまう僕は、もう立派なオッサンです。

そしてこの日曜日、大阪長居スタジアムで女子U-20日本代表と、女子U-20アメリカ代表との親善マッチが行われた。

ワールドカップを2ヶ月後に控えたU-20日本代表。
そのスタイルと完成度を確認するための、貴重なテストの場。

このチームが、世界屈指の強豪アメリカに対してどこまでのプレーができるのか!?
それが、この試合のテーマだったと言えるだろう。

しかし “ヤングなでしこ” たちは見事なプレーぶりを見せ、「勝利」という結果で、その期待に応えてくれたのである。

女子サッカー界を牽引するアメリカ代表

女子A代表では世界ランクのトップに君臨するアメリカだけど、それはU-20の世界でも例外ではない。

これまで5大会が開催された FIFA U-20女子ワールドカップのうち、アメリカは2大会で優勝。
ベスト4以上に残った回数では4回を数える。

今年8月の日本大会にも当然出場を決めていて、今回のチームは一部では、「米国史上最強」とも噂されているそうだ。

実際、この日のピッチに立ったU-20アメリカ代表のインパクトは凄かった。

うら若きギャルたちにかける言葉としては失礼極まりないけれど、ひと目見た印象は「で、デカい…!!」。
身長も高いけれど、横幅、特に下半身の肉付きが日本の選手たちとは比べ物にならないほどだったのだ。

少なくともアメリカに関しては体格面で「アンダー世代」を感じさせる部分は少なく、その点では既に完成されている印象を受けた。
いやむしろ、ここから絞り込んでいって細くなっていくのかもしれないけれど…。

とにかくそれだけ圧倒的な体格差のある相手だけに、序盤の日本はその対応に苦心する。
特にアメリカのツートップのフィジカルは強烈で、日本のDFは何人かで取り囲んで、なんとかこれを食い止めるという格好だった。

しかし、日本がこのアメリカ相手に主導権を握れるようになるまでに、そう時間はかからなかった。

前半も中盤を過ぎる頃からは日本のポゼッションサッカーが機能し始め、以後は日本のペースでゲームが展開するようになっていく。
ここからは試合終盤までほぼ、日本がボールを支配する時間帯が続いた。

そしてその中核を担ったのが、日本が誇る2人のミッドフィルダーだったのである。

日本の誇る「黄金コンビ」、田中陽子と猶本光

今回のU-20代表は、U-17ワールドカップで決勝まで進出し、世界チャンピオンまであと一歩というところまで迫った、2010年のU-17代表の選手たちをベースに構成されている。
この大会ではFWの横山久美がMVPランキング第2位となるシルバーボール賞を受賞する活躍を見せたけれども、大会を通じてチームを牽引したのは、ボランチで不動のコンビを組んだ2人の選手だった。

田中陽子と猶本光。

ともに身長は157cm。
外国人選手と比べるとかなり小柄な部類に入るけれども、卓越した技術と戦術眼、サッカーセンスでチームを引っ張り、準優勝の立役者となった2人。

その田中陽子と猶本光は、今回のU-20でも、押しも押されぬ中心選手となっている。

田中陽子と猶本は、どちらもミッドフィルダーとしてのオールラウンドな能力を備えている。
技術のレベルは極めて高く、広い視野も兼備していて、司令塔としての高いスキルを誇る。

さらに、田中陽子は強烈なミドルを含む得点力も持ち味。
逆に猶本はより高い守備センス・パスセンスを持ち、ボランチとしての総合力に優れたタイプだ。
ついでに余談ながら、2人とも美女アスリートとしても知名度が上がってきていて、将来のなでしこジャパンを実力・人気両面で背負って立つであろう逸材なのである。

そしてこのアメリカ戦でも、日本はダブルボランチで先発したこの2人を軸に、中盤を支配した。

田中陽子と猶本光の存在感は、例えるならバルセロナでのシャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタのそれに近い。

シャビもイニエスタもオールラウンドなMFでバルサの中盤に不可欠な存在だけれども、U-20での田中陽子と猶本光も、シャビ&イニエスタと同じくらい重要な存在だと言えるだろう。
田中陽子はシャビが憧れの選手だそうだけど、確かにボールを受ける際、ワントラップ目でクルッと回転してボールのコースを変えてしまうようなプレーは本家を彷彿とさせる。

しかし前半はこの2人のゲームメイクがありながら、日本は決定機をあまり創りだすことができなかった。
これは、日本のツートップになかなかボールが収まらなかったことが大きい。

U-20日本代表の前線には、もともと京川舞というエースが存在していた。
既に3月のアルガルヴェ・カップでA代表デビューも果たし、U-20でも中心となっていた選手だけれども、5月に膝の靭帯と半月板を痛める大怪我を負い、オリンピックもU-20ワールドカップも絶望となってしまった。

その京川に代わってこの日のトップに入ったのは、京川の高校の後輩でもある常磐木学園の道上彩花。
そして道上とコンビを組んだのが、U-17代表で大活躍した横山久美である。

しかし、この試合では横山も道上もアメリカDFの厳しいプレッシャーを受け、ボールを思うようにキープすることができない。
かと言ってマークを外す動きも少なく、ツートップが「消える」時間帯が続いたことで、日本の攻撃はなかなかフィニッシュまで持ち込むことができないでいた。

しかし、U-17でも指揮をとった名将・吉田弘監督は、ハーフタイムに動いた。

後半開始からボランチの中里優を投入して田中陽子をトップ下に移動。
そして横山久美を左MFへとシフトするフォーメーション変更を実行する。

これが日本の攻撃に、劇的な変化をもたらしたのだ。

攻撃を活性化させたシフトチェンジ

後半、日本のアタックは目に見えて活性化した。

田中陽子をトップ下に移したことで前線に起点が生まれ、田中の攻撃力がフル回転し始める。
田中陽子は得意のパス、ミドルシュート、ドリブル、そして機を見ての飛び出しで、日本の攻撃をみるみる活性化させていった。

そしてこのシフトチェンジは同時に、中盤にも活力をもたらした。

ディフェンス能力の高い中里が入ったことで、より攻撃に意識を割けるようになった猶本光が、そのゲームメイク能力をさらに活かすようになっていったのである。

実際、後半の猶本のプレーぶりは圧巻だった。

視野の広いパスで中盤の組み立てを完全にリードし、ゲームメーカーとして君臨。
またディフェンス面でも抜群の読みでプレスの急先鋒となり、猶本の早いチェックからのプレッシングが機能した日本は、アメリカの攻撃をことごとく寸断していく。

田中陽子と猶本光。
前後の「軸」ができた日本は、後半はさらにアメリカを圧倒。
個の力では高いものを持つアメリカも、日本の組織力の前に完全に沈黙する時間帯が続く。

そして81分、ついに待望の先制点が生まれた。

右サイドでボールを受けた交代出場の西川明花が、ドリブルで切れ込んで左足からミドルシュートを放つ。
この強烈なシュートがクロスバーを叩いた時、そのリフレクションした先に走りこんだのが、田中陽子。

田中陽子が見事なボレーシュートでこれを突き刺すと、とうとう長い均衡は崩れた。

その後のラスト10分間は、同点を狙って猛攻を仕掛けてきたアメリカに押し込まれて3度の決定機を創られたけれども、GK池田咲紀子のスーパーセーブで何とかこれをしのいだ日本。

課題は見つかったものの、ワールドカップでも優勝候補に挙げられるアメリカに対して見事な快勝劇。

8月の本大会に向けて、大きな期待を抱かせる一戦となった。

期待される「最後のピース」

U-17ワールドカップで既に準優勝を経験している日本の目標は、次は当然 “優勝” ということになる。
しかも今回はホームでの戦いだけに、その可能性もより高まっていると言えるだろう。

この日の試合を見る限り、日本の中盤から最終ラインにかけては大きな不安は見当たらない。

特に田中陽子、猶本光のコンビの存在感は別格で、現時点では日本のU-20代表は「田中陽子と猶本光のチームだ」と言っても差し支えないほど、彼女たちのプレーは充実していたように思う。

ただし、不安があるとすればやはり前線になるだろう。

田中陽子のトップ下起用で後半は一定の目処が立ったけれども、仮に今のまま本大会に突入した場合、前線の決定力不足は深刻なリスクになる可能性がある。

横山はトップよりは左MFのほうが活きるように感じられたし、道上はポテンシャルの高い選手だとは思うけれども、現時点では代表の戦術にフィットできていない。
京川舞が健在ならこの不安が全て解消されていたというわけではないけれど、やはり前線のエース不在の穴は大きいと感じられてしまう場面は少なくなかった。

賛否両論はあるかもしれないけれど、個人的には「状況が許せば」という前提でぜひ期待したいのが、岩渕真奈のU-20参加である。

もちろん岩渕は現在、怪我でA代表の合宿を離脱している状態で、回復したとしてもオリンピックのメンバーに選ばれた場合はそちらが優先されるべきだろう。
そもそもこれまで「飛び級街道」を歩んできた岩渕は、年齢的にはU-20参加資格はあるけれども、協会からはアンダー世代はもう卒業したという扱いになっている。
(ちなみに以前、コメント欄で「岩渕は前回のU-20ワールドカップに出場したので、今回は出場できません」という指摘をいただきましたが、熊谷紗希が2008年と2010年のU-20ワールドカップに連続出場した例があるので、個人的には問題ないのではと考えています。詳しい方がいれば教えていただけると幸いです。)

そう考えると岩渕が万全な状態でU-20ワールドカップに出場する可能性は薄いのだけれども、自国開催で優勝を狙うのであれば、前線の軸になれる選手は必要になってくるのではないだろうか。

田中&猶本がシャビ&イニエスタなら、あと欲しいのは最後のピース。
やはり前線のリオネル・メッシになるだろう。

と、いうことは…。

まあ今のところ夢物語に過ぎないけれども、ここに “和製メッシ” が加わったらどうなるんだろうと、いちサッカーファンとしては妄想してしまう初夏なのでした…。

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