ライバルたちの「なでしこジャパン包囲網」/国際親善試合@イングランド女子代表 1-1 日本女子代表

※写真はイメージです photo by DozoDomo

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IMG_7562 / Ingy The Wingy

宮本ともみさんも解説者になり、いつの間にか “美魔女”解説者たちが百花繚乱の女子サッカー界ですが、みなさんいかがお過ごしですか?

というわけで始まりましたヨーロッパ遠征。
前回の記事でなでしこジャパンの世代交代について書かせてもらったのですが、澤穂希をケガ、宮間あやを出場停止で欠いたこのイングランド戦は、図らずも世代交代の片鱗を垣間見る試合となりました。

スタメンで一番の変更点はセンターバックに長船加奈を起用したことと、それに伴って、センターバックだった熊谷紗希をボランチに上げたことでしょう。
佐々木則夫監督がこの若い二人に期待をかけていることの現れだと思いますが、これは「世代交代」という意味でも一歩前進だったと思います。

今回は飛車角と両サイドバックのレギュラーを欠いたなでしこジャパンでしたが、試合はなかなかどうして、エキサイティングなものになりました。

イングランドの見せた「急速な進化」

イングランドは、日本が優勝した2011年のワールドカップで唯一の黒星を喫した相手です。
若年層の大会などでも比較的相性が悪く、日本にとっては「天敵」と呼んでもいいチーム。
今回は、そのイングランドとの “リベンジマッチ” となりました。

まず序盤の主導権を握ったのはホームのイングランド。
これまではフィジカルを活かした「ロングボールの放り込み」サッカーの印象が強かったイングランドですが、この日は一転してショートパスでの繋ぎと、サイドを使ったワイドな展開を軸に日本を攻略してきます。

日本がワールドカップで優勝して以降、それまではフィジカルでのゴリ押しが多かった世界の女子サッカーが、日本のようなパスを軸としたスタイルに大きくシフトしてきていることが伺えます。

そしてもう一つ目を引いたのは、黒人の、いわゆる「アフリカ系選手」たちの台頭でした。

この日のイングランドの攻守の軸になっていたのは、レイチェル・ヤンキー、エニオラ・アルコ、アニータ・アサンテなどのアフリカ系選手たち。
大柄ですが鈍重な白人選手たちの中にあって、アフリカ系選手たちのスピードと身体能力は強烈なアクセントになっていました。
ヤンキー、アルコはワールドカップでの対戦時にはスーパーサブでしたが、この試合ではスタメンで両サイドからの攻撃の中心を担っています。

序盤の日本はこのヤンキー、アルコを中心としたダイナミックなアタックに押し込まれ、41分にはショートカウンターから、ヤンキーのスルーパスに抜け出したアルコに決められて0-1と先制を許します。

男子サッカー界では90年代以降、アフリカ系選手の台頭が顕著となって、今やヨーロッパのトップ級のクラブでアフリカ系選手が居ないチームはかなり少なくなったほどです。

それでも女子サッカーの世界ではまだ、アメリカ代表でさえもアフリカ系の選手たちが少ないのが現状ですが、今後は男子と同様に、世界的にアフリカ系選手が増えていくのではないでしょうか。
そうなれば欧米諸国はさらに強力な身体能力を身につけることになり、日本にとっても脅威になると思われます。

日本の見せた「強み」と「課題」

そして我らがなでしこジャパンの戦いぶりですが、主力数名を欠いたメンバー構成という事情を考えると、この日はまずまずの内容だったように思います。

特に光っていたなと感じたのは大野忍で、この試合では最も得意とするセカンドトップのポジションで、水を得た魚のようなプレー。
小柄ながらもワールドクラスのテクニックを持ち、ドリブル突破、キープができて、決定的なパスが出せて、得点も取れる。
世界的に見ても稀有なアタッカーであり、この大野と、日本のエースになりつつある大儀見優季のツートップは、しばらくは日本の看板の一つになるように思います。
この日の同点ゴールも、中盤でボールを奪った大野がディフェンダー2人を引き付けてタメをつくり、そこから裏に抜け出した川澄奈穂美に繋いで生まれたものでした。

その反面、不安を感じたのはやはり澤・宮間が不在だった中盤以後の構成力です。

新戦力の長船加奈は170cmの長身ながらスピードもあり、スペック面では申し分のない逸材です。
この日も失点に絡んでしまったとはいえ、守備面では全体としてまずまずのプレーを見せていました。

しかし問題は、フィードの上手い熊谷がボランチに上がったことで、ディフェンスラインからのパスの精度が著しく落ちてしまったことでした。
最終ラインからなかなか生きたボールが出てこないため、ボールを奪ってもそこからスムーズに攻撃に繋げることができない。
逆にクリアボールを拾われて、そこからまた攻撃を食らう…という悪循環にはまってしまったことが、イングランドに押し込まれた原因の一つだったように思います。
そういう意味では熊谷紗希はやはりセンターバックで起用して、ボランチにはよりゲームメイク能力の高い選手を置くことが、なでしこのサッカーを実践する上では必要かなと感じました。

ともあれ、少しずつですが、未来に向けての進化の兆しを見せ始めたなでしこジャパン。
それでもイングランドも大きな成長を遂げようとしているように、ライバルたちも急速な進化を見せています。

この日の会場となったイングランド中西部、バートン・アポン・トレントのピレリ・スタジアムは6,500人収容の小ぶりなスタジアムですが、それでもスタンドを埋めた満員のファンの姿には、イングランドでの女子サッカー人気の高まりを感じずにはいられませんでした。

なでしこジャパンがワールドカップ連覇を狙うには、そんな急成長を見せるライバルたちを、さらに上回っていく必要があります。

そのために残された時間は、あと2年です。

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