「プラチナ不在」の違和感/AFC U-19選手権@日本代表 3-0 ヨルダン代表


Photo by Per Ola Wiberg ~ Powi

「プラチナ世代」は 09年の U-17ワールドカップを戦った、92年生まれの選手たちを中心とした世代を指す。

その中心選手は、文句なしの世代ナンバーワンプレイヤー、ガンバ大阪所属の FW宇佐美貴史。
現在 18歳の高校3年生ながら、J1で優勝争いをするチームで既にレギュラー格。
今季5得点を挙げている。

その宇佐美に続く存在と言えるのが、08年にJリーグ史上2番目の若さとなる 16歳1ヶ月でデビューを飾り、翌年クラブ史上最年少でゴールを記録した、京都サンガ所属の FW宮吉拓実。

そして先日、イングランドプレミアリーグで 13回の優勝を誇る超強豪、アーセナルから5年契約のオファーを受けたスピードスター、中京大中京所属の FW宮市亮。

さらに、現在 17歳の高校3年生ながら、J2東京ヴェルディのレギュラー、しかも攻撃の核としてプレーする、高木3兄弟の次男・MF高木善朗。

さらにさらに、昨シーズンの高校選手権で青森山田を準優勝に導き、Jリーグ3連覇中の絶対王者・鹿島アントラーズと、高校2年生の時点で異例のプロ契約内定を結んだ MF柴崎岳。

そのほかにも身長 187cmで足技も巧みな大型FW、セレッソ大阪所属の杉本健勇。
U-17時のレギュラーで、浦和レッズに内定した前橋育英のMF、小島秀仁。
JFAアカデミーから誕生した初のプロ選手、高校2年生で FC東京とプロ契約をした MF幸野志有人。
高校3年生ながら、J1ヴィッセル神戸で今季7試合に出場している FW、小川慶治朗。
同じく高校3年生で、J1の強豪浦和レッズで3試合に出場している DF、岡本拓也。

そして U-17ワールドカップには選出されなかったけれども、横浜マリノスの木村和司監督がその才能に惚れ込み、今シーズンマリノスでブレイクを果たした小野裕二あたりが挙げられるだろうか。

ざっと挙げてみただけでも、確かにタレントの宝庫。
プラチナ世代と言われるのも納得の顔ぶれだろう。

そしていま、中国で AFC U-19選手権を戦っている U-19日本代表は、このプラチナ世代を含む世代なのである。

プラチナ世代、U-19での現在地

U-20ワールドカップは2年に1回行なわれるので、U-20(U-19)代表は2歳ごとに年代を区切って結成される。

つまり代表の中で「上の年齢の世代」と「下の年齢の世代」に細分化されるけれども、U-19代表の中では、プラチナ世代は「下の世代」ということになる。

現在の U-19代表の中で、この「プラチナ世代」は、宇佐美貴史、杉本健勇、岡本拓也と、U-17ワールドカップにも出場した DF内田達也、GK嘉味田隼 、そしてDF遠藤航と MF小林祐希の7人しかしない。

この若い年代では、1歳の歳の差が大きな実力差を生む場合も多いので、プラチナ世代はまだ U-19で主力を占めていないのが現状だ。

そんな AFC U-19選手権で、日本は2連勝を飾り、この時点でグループリーグの1位通過が決定した。

それによって消化試合となったこの第3戰のヨルダン戦は、日本にとってはこれまで出番の少なかった控え選手たちを試す、絶好の機会となった。

この日のスターティングメンバーには、第1戦・第2戦で出場機会の少なかった、新鮮な名前がズラリと並ぶ。
2トップの杉本健勇と永井龍 以外は、全員が初スタメンというフレッシュな陣容だった。

躍動したサブメンバーたち

試合開始直後、序盤の日本は、ややギクシャクした立ち上がりを見せてしまう。

これまで出場機会の少なかったメンバーたちだということと、初めて実戦で体験するデコボコのピッチに対する戸惑もあってか、ボールがうまく足につかないような場面も見られた。

しかしそこは吸収の速い若い世代。
徐々に試合に慣れていくと、落ち着いたプレーぶりでヨルダンを相手に互角のプレーを見せるようになっていく。

僕が特に目を引いたのが、加藤大と風間宏希のボランチコンビだ。
この2人は攻守に効果的なプレーを見せて、日本のキーマンとなっていた。
前線にも積極的に飛び出すプレースタイルは、ボランチというよりもむしろセントラル MFと呼んだほうがいいかもしれない。

加藤大と風間宏希のスケールの大きなプレーぶりで、日本は中盤でいいリズムを創りだしていく。

そして前半はスコアレスのまま、迎えた後半、試合は動いた。

50分、スローインからの流れから、ボールを受けた永井龍が反転しながらミドルシュート。

これが見事に決まって、日本がまず先制に成功する。

ヨルダンはここまで勝ち点1で最下位と、このグループでは最も力の落ちるチーム。

とは言っても、日本が大苦戦した前回王者の UAEにも引き分けていて、決して力のないチームではない。
この試合でも日本は何度かヨルダンに、いい形を作られてしまっていた。

しかしこの永井の得点が生まれたこともあって、全体的には日本がやや優勢な展開で試合をリードしていく。

そして 77分、日本に追加点が生まれた。

カウンターの場面。
右サイドの小林祐希から逆サイドめがけて、ピッチを斜めに切り裂く鮮やかなロングパスが通る。
これに反応したのが、その5分前に投入された指宿洋史だった。

DFラインの裏に抜け出してボールを受けた指宿は、見事なトラップ一発でこのボールをコントロールすると、その時点で GKと1対1の状態に。

指宿がこの1対1を冷静に決めて、日本は2点目をゲットした。

そして 84分、日本にさらにダメ押しの3点目が生まれる。

左サイドからのクロスをヨルダン DFがクリアミスしたところ、それに反応したのが永井龍だった。

永井がこれを右足ダイレクトでシュート。
これが決まって、日本が 3-0と大きくヨルダンを突き放すことに成功した。

永井はこの日2得点と大活躍。

得点シーン以外でも積極的にシュートを打っては、多くの決定機にからんでいた。
間違いなくこの日の日本の選手の中で、最も多くのシュートを打っていた選手だろう。
その積極性が、最終的には2ゴールという結果として実ったのだ。

けっきょく試合はこのまま 3-0で終了。

サブ中心の消化マッチでも勝利して、日本が3連勝でグループリーグを終えたのである。

宿敵との大一番

控えメンバー中心で序盤は堅さも見られたものの、徐々に主導権を握っていった日本。
特に、控えメンバーたちのモチベーションの高さが感じられる一戦だった。

この日のメンバーはほぼ全員が試合中で活躍を見せていて、チーム全体の出来としても、むしろ前の2戦よりも良かったくらいだ。
もちろん対戦相手が違うので単純比較はできないけれども、このチームは宇佐美貴史だけは別格としても、レギュラーメンバーとサブメンバーの力の差も、ほとんどないのではないかという印象を受けた。

そうなってくると気になるのが、次の決勝トーナメント1回戦のメンバー構成である。

日本の次戦、決勝トーナメント1回戦の相手は、宿敵・韓国に決まった。
勝てば来年の U-20ワールドカップへの出場が決定。
負ければ出場を逃す大一番である。

そして2年前のこの大会でも、日本は同じく決勝トーナメント1回戦で韓国に敗れて、7大会連続で出場権を得ていたワールドカップへの出場を逃していた。

しかもただ負けただけではない。
スコアは 0-3。
内容はむしろそれ以上の点差がついてもおかしくなかったほどの、絶望感すら漂うものだった。

球際の勝負でことごとく負けまくった日本は、中盤を完全に韓国に制圧され、圧倒的にボールを支配された挙句に惨敗を喫する。

僕がこれまで観た日韓戦の中でも、ダントツに酷い内容。
個人的にはしばらくトラウマになってしまったほど、悲惨な内容のゲームだった。

次の試合は、そのリベンジの舞台になる。

ただ、このグループリーグの戦いぶりを見る限り、日本の苦戦は免れないだろう。

韓国はオーストラリア・イランと組んだ「死のグループ」を勝ち上がってきている。
今回のチームも、地力のあるチームなことに間違いはないだろう。

そして勝利の可能性を少しでも高めるためには、日本のスタメン構成がまずは鍵になってくる。

「プラチナ不在」の違和感

個人的には絶対エース宇佐美貴史と、このヨルダン線で活躍した永井龍とのコンビを見てみたい。
そこに指宿洋史なり杉本健勇らの、ポストプレーヤーを絡めるのがベストだ。

高さのある CFに、このチームではダントツの積極性を持つ宇佐美と永井の2人が絡めば、日本の前線は韓国に脅威を与えるのではないだろうか。

あとはボランチに加藤大の起用を期待したい。
ヨルダン線では加藤は、チームの中でもずば抜けていいプレーを披露していた。
それに対して UAE戦、ベトナム戦での日本はこのポジションからの展開力に問題を抱えていたため、テコ入れという意味では最高の補強になるのではないだろうか。

しかしそれにしても不思議なのが、今大会の日本のメンバー構成だ。

初戦で布啓一郎監督は、明らかに飛び抜けた能力を持つ宇佐美貴史をスタメンから外した。
そしてそれ以前に、この世代は本来であれば、前述した「プラチナ世代」に属する選手たちがズラリと揃う、才能の宝庫のはずである。

にも関わらず、この代表には宮吉拓実や高木善朗、柴崎岳のようなタレントは選ばれていない。
それどころか、一つ上の年齢でJリーグでも活躍している高木俊幸らも招集されていないのはどういう理由なのだろうか。

結果的に今大会の日本は、宇佐美貴史以外はレギュラーもサブも飛び抜けた選手のいない「どんぐりの背比べ」のようなチームになってしまっている。

しかしこの世代の本来のポテンシャルは、こんなものではないはずだ。

もちろん、今ここに居ない選手たちのことを口にしても仕方がないし、もしワールドカップの出場権を獲得できたら、来年にはまたメンバー構成も大きく変わってくるのだろう。

しかしいま現状、非常にアンバランスさを感じるこのメンバー構成に、僕は一抹の不安を感じずにはいられない。

何にせよ次の韓国戦は、全ての力を出し切る覚悟が必要だ。

それだけ激しい戦いになるだろうし、日本は総力戦の構えでこれに臨まなければならない。
どんな形でもいい、とにかく勝ってほしいと思う。

そしてもし仮に負けるようなことがあれば、それは「プラチナ世代の崩壊」を意味することになる。

次の一戦はただの一戦ではない。

日本の今後、もしかしたら今後 10年間に影響する可能性のある、極めて重要な一戦になるだろう。

決戦の日は明日、月曜日。

10月の 11日、死闘の火ぶたが切られる。

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