マゼンベが灯す「勇気の灯火」/クラブワールドカップ@TPマゼンベ 1-0 CFパチューカ

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クラブワールドカップも早いもので、もう7回目の開催となった。

前身のトヨタカップのお陰もあってヨーロッパや南米の強豪チームは知っていても、アフリカや北中米のクラブはなかなか観る機会がなかった日本のフットボールファンにとって、クラブワールドカップはそんな接点のなかった大陸のクラブとの「新しい出会い」を提供してくれる場でもある。

そのクラブワールドカップも、7回目ともなるといわゆる「常連さん」的なチームが生まれてくる。

その一つが北中米カリブ海地域の雄、CFパチューカだろう。

メキシコの首都、メキシコシティの北東約 90kmに位置する都市パチューカを本拠地とするこのチームは、今年ですでにクラブワールドカップ3回目の出場となる。

これは北中米カリブ海地域に限らず全世界を通じても、エジプトのアル・アハリと並んで最多出場のタイ記録だ。

メキシコの国内リーグ、プリメーラ・ディビシオンはクラブ・アメリカやチーバス・グアダラハラ、UNAMプーマス、クルス・アスル、デポルティボ・トルーカなど強豪がひしめく競争の激しいリーグだけれども、その中でパチューカは強豪の一角を占めている。
しかし決して、国内でも突出した存在と言うわけではない。

それでもなぜか CONCACAFチャンピオンズリーグには滅法強いパチューカは、今年もその大陸内チャンピオンを決めるトーナメントを勝ち抜いて、このクラブワールドカップに駒を進めてきたのだ。

対するアフリカ代表 TPマゼンベも、昨年に続いて2年連続2度目の出場である。

ちなみにアフリカにはコンゴという名前のつく国が2つあるけれども、このマゼンベは「大きいほうのコンゴ」、コンゴ民主共和国にあるクラブだ。

コンゴ民主共和国は、1997年以前はザイールと呼ばれる国だった。

アフリカ大陸で3番目に広い面積を持ち(総面積は西ヨーロッパ全土に匹敵)、人口も 6,000万人を超える地域大国。
もうひとつのコンゴ、「コンゴ共和国」と区別するために、公式の英語表記を略して『 DRコンゴ 』とも呼ばれる。

ちなみに「コンゴ」とは、14世紀末から20世紀初頭までアフリカ中部に存在した広大な王国の名前であって、当時はコンゴ共和国もコンゴ民主共和国も、同じ国の一地域だったそうだ。

マゼンベはその DRコンゴの首都キンシャサに次ぐ第2の都市、人口約 110万人のルブンバシをホームタウンとするチームである。

そして昨年、マゼンベがクラブワールドカップに出場してきた際には、フットボールファンたちに小さくない驚きを与えた。

それはマゼンベが、クラブワールドカップでは初めての「ブラックアフリカ(サハラ砂漠以南の黒人居住地域)」のチームだったこと。
DRコンゴが大国でありながら、代表チームレベルでは 1974年のワールドカップ出場を最後に世界の舞台に縁がなく、そんな未知の国のチームが勝ち上がってきたこと。
そして何より、そのフットボールの質が、予想以上に高かったことが理由として挙げられる。

結果的に昨年のクラブワールドカップでは、初戦で韓国の浦項スティーラースに逆転負けを喫したけれども、マゼンベは大会でも屈指の、印象に残るチームだった。

そんな常連さんのパチューカと、世界に絶大なインパクトを残したマゼンベとの興味深いカードが、今年のクラブワールドカップ準々決勝で実現したのである。

パチューカを圧倒したマゼンベの完成度

マゼンベは前回大会でも強い印象を残した GKのムテバ・キディアバや、MFのムベンザ・ベディが今年もチームの軸を成している。

しかし一方で、昨年のチームで最も印象的だった絶対エース、トレゾール・ムプトゥを、審判への暴力行為による1年間の出場停止という形で欠いていた。

エース欠場でやや小粒になった感の否めないマゼンベと、メキシコ屈指の安定感を誇るパチューカ。

下馬評では互角、あるいはパチューカがやや有利と見られていたこの対戦はしかし、予想外の展開で幕を開けることになる。

立ち上がりから、ほぼ一方的にゲームを支配したのはマゼンベのほうだった。

ブラックアフリカ特有の身体能力の高さに加えて、ボランチの 16番、ストピラ・スンズからのワイドな展開で揺さぶりをかけたかと思えば、さらには時おり細かいパスワークを絡めてパチューカを押し込んでいくマゼンベ。

対するパチューカは、本来はショートパスを活かしたポゼッションを得意とするチームだけれども、マゼンベの組織立ったハイプレッシャーの前に、持ち前のパスワークは鳴りを潜めた。

序盤からパチューカを圧倒し続けたマゼンベは 21分、前回大会でも素晴らしいロングシュートでゴールを奪ったベディが、今回も決定的な仕事をやってのける。

右サイドでボールを受けた FWムロタ・カバングが出したトリッキーなアウトサイドのスルーパスに反応したべディは、ラインの裏に抜けだすと、このボールをダイレクトでニアサイドに叩き込む。

パチューカの誇る名ゴールキーパー、ミゲル・カレロもこの豪快な一発を止められず、シュートはゴールネット内側に突き刺さった。
マゼンベがこの見事な一撃で、1-0と先制に成功した。

その後もマゼンベの勢いは止まらず、終始主導権を握り続ける展開に。

自慢のパスワークを封じられたパチューカは、次第にカウンターに活路を見出すしかなくなっていった。

今年のパチューカのエースは、2年前のクラブワールドカップでもエクアドルのリガ・デ・キトの一員として来日して、準優勝に輝いた経験を持つアルゼンチン人のダミアン・マンソ。

身長 169cmとひときわ小柄な体格ながら抜群のテクニックを持ち、キトでも攻撃の中心の一人として活躍したマンソは、このパチューカでも絶対的なエースとなっている。

この試合でもパチューカは劣勢の中、マンソを中心に、何度かいい形をつくる場面も見受けられていた。

しかし裏を返せば、パチューカの攻撃はあまりにもマンソ頼りで、なかなか2次攻撃、3次攻撃のような奥行きのある攻撃に繋がっていかない。

マゼンベの GKキディアバのファインセーブもあって、結局パチューカは最後までマゼンベのゴールを崩せず。

試合は 1-0のまま、アフリカ代表マゼンベが、嬉しい世界大会初勝利をものにしたのである。

マゼンベが灯す「勇気の灯火」

パチューカはこれまで参加した同大会の中では、最も印象の薄い戦いぶりとなってしまったかもしれない。

マンソ以外は最後までいいところを見せられずに終わってしまい、不完全燃焼だったという印象だけが残った。

対するマゼンベはエースのムプトゥを欠きながらも、チームの完成度としては、むしろ昨年を上回るものがあったように思う。

選手個人個人を見ても、GKキディアバ、MFベディ、スンズ、FWカバングあたりは活躍が光っていた。
今までクラブワールドカップに出場してきたアフリカのチームの中でも、今回はかなり完成された好チームだという印象である。

来たる準決勝でマゼンベが対決するのは、南米王者のインテルナシオナル。

今年のリベルタドーレス杯の決勝は当ブログでもレポートしたけれども、ダレッサンドロなどの世界的名手を擁する、掛け値なしの強豪だ。

しかも次の試合ではムプトゥに続き、中盤の要のスンズも、このパチューカ戦で受けた2枚のイエローカードの影響で出場停止になる。
マゼンベにとっては、非常に難しい試合となるだろう。

ところで今年6月に開幕した FIFAワールドカップでは、アフリカ初の開催国となった南アフリカの治安が何かと話題になっていたけれども、マゼンベがホームタウンを置く DRコンゴも、つい数年前までは民族対立も絡んだ激しい内戦が繰り広げられていた国だ。

治安状態・経済状態ともに世界でも最悪の部類に入る国で、多くの子供が学校教育を受けることもできず、医者にもかかれず、人々は厳しい環境の中での生活を余儀なくされている。

マゼンベ GKキディアバがコミカルにダンスをする姿などからは、そんな悲壮感は微塵も感じられないけれども、彼らも自国に、そしてアフリカ全土に、少しでも明るい火を灯そうという気持ちで戦っている部分もあるのではないだろうか。

ちなみにキディアバのダンスの名称は「平和のダンス」である。

続く準決勝、そんなマゼンベの選手たちの「アフリカを元気にする」だけの活躍を、僕はぜひ期待したい。

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