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澤穂希と書いて「さわ・ほまれ」と読む。

余談ながら、僕はしばらく「さわ・たまき」だと思い込んでいた。

現在、ドイツでは女子サッカーのワールドカップが行なわれているけれども、残念ながらそのことを知っている一般人はそう多くはないだろう。
50%近い視聴率をたたき出して社会現象にもなる男子のワールドカップと比べて、女子サッカーはあくまでもマイナースポーツの域を出ないのが現状だ。

しかしアテネ五輪、北京五輪でなでしこジャパンが活躍を見せて以降、女子サッカーに特に興味のない層にも、何人かの女子選手たちは顔を知られるようになった。
中でも「ボンバーヘッド」荒川恵理子と並んで知名度が高いのが、長く日本のエースとして君臨する澤穂希だろう。

なでしこジャパンの “レジェンド” である澤はプレーの面だけでなく「広告塔」という意味でも、長く女子サッカーを牽引してきた存在なのだ。

そんな澤が初めて代表に選ばれたのは、何と今から 18年も前のことになる。
10年選手ならぬ「20年選手」ということだ。

あまりにも代表にいる期間が長すぎて、半ば「いるのが当たり前」になっている感もある澤穂希。
今回は改めて、そのキャリアを振り返ってみたい。

女子サッカー界を席巻した天才少女・澤穂希

澤穂希の伝説はのっけから衝撃的だ。

幼少の頃にサッカーを始め、中学生になると同時に読売ベレーザ(現 日テレ・ベレーザ)の下部組織であるメニーナに入団。
しかしその実力がずば抜けていたことから、わずか1ヶ月でトップチームのベレーザに昇格。
その2ヶ月後の7月には、日本女子サッカーリーグにデビューを果たした。

当時の澤は、まだ弱冠 12歳の中学1年生。
女子サッカーの選手層が今よりもさらに薄い時代だったことを考慮に入れたとしても、信じられないほどの若さである。

そんな澤さんが代表デビューを果たしたのは、それから2年後の中学3年生の頃だった。
そして ’96年には 17歳でアトランタオリンピックに出場。
20歳になった ’99年にはアメリカへと活動の拠点を移し、以後5シーズンに渡ってアメリカのプロリーグでプレーする。
リーグの休止によって ’04年にベレーザに復帰後も、’09年からは再びアメリカで2シーズンプレー。

代表チームでも、現在までオリンピック出場3回、ワールドカップ出場5回を誇る。

今回のワールドカップ開幕以前までのA代表での通算成績は、167試合出場 75得点。
いずれも2位以下を大きく引き離しての圧倒的な記録である。

そしてそんな女子サッカー界の伝説が、今大会でまた、歴史に大きな足跡を刻むことになった。

メキシコを一蹴したなでしこジャパン

女子ワールドカップ2011・グループリーグ第2戦。
日本の相手はメキシコ。

メキシコは北中米カリブ海予選で、世界ランキング1位のアメリカを破って本大会へと駒を進めてきた難敵である。

しかしこの試合、なでしこジャパンはその曲者を全く寄せつけない、圧倒的なプレーを見せることになる。
そしてその口火を切ったのは、日本が誇る “レジェンド” だった。

13分、宮間あやの左からのフリーキックが澤穂希の頭にドンピシャで合う。

この試合で澤は代表Aマッチ出場通算 169試合目。
宮間は通算 95試合目。

長く代表の中盤でコンビを組み、互いを知り尽くす2人の「あ・うん」の呼吸から、まずは日本が先制点をマークした。

そして2分後の 15分。
今度はエースストライカーの大野忍が魅せた。

センターバックの岩清水梓からのロングフィードを、センターフォワードの永里優季が体を張ったポストプレイでコントロールする。
そしてこのボールが、永里の右側に走りこんだ大野忍のもとへ。

一瞬、左へ切り込む素振りを見せた大野はしかし、鮮やかなワンタッチのフェイントで右へと方向転換しディフェンダーを抜き去ると、そこから強烈なシュートを放つ。

これがメキシコのゴールに見事に突き刺さって、日本が 2-0とリードを広げた。

「アメリカに勝った」という実績を引っさげて大会に乗り込んできたメキシコだけれども、この試合を見る限りではディフェンス全般がルーズで、日本の中盤に大きなスペースを与えていた。
そしてこの状態はまさに、日本の思うツボだった。

緒戦のニュージーランド戦とは打って変わって、ゆとりのある中盤で面白いようにボールを回し始めるなでしこジャパン。
前線で永里優季という起点ができたこともあって、中盤からゴール前までの危険なエリアで、日本は試合の主導権を握ることに成功した。

39分には、再び宮間のコーナーキックから澤のヘッドが決まって 3-0。

そしてトドメは 80分。
右サイドでボールを受けた岩渕真奈から、オーバーラップした近賀ゆかりへとパスが通る。
この近賀からのグラウンダーのクロスを、叩き込んだのはまたもや澤穂希。

澤はこれでハットトリックを達成。

この3得点で、澤穂希はあの日本サッカー史上最高のストライカー、釜本邦茂の持つ代表通算得点記録を塗り替え、男女を通じての日本代表最高記録となる通算 78得点という金字塔を打ち立てた。

さらに、女子ワールドカップでの史上最高齢でのハットトリックというオマケつきである。

この澤のハットトリックもあって、日本は 4-0と快勝。

同時にグループ2位以内を決め、日本のベスト8が確定したのである。

いま、澤穂希から学ぶこと

澤穂希はその実力に比して、明らかに過小評価されている選手だろう。

国内歴代1位を誇る代表通算Aマッチ数と得点数は、ともに2位の選手の約 1.5倍を数え、女子サッカー界の中でも澤がいかに傑出した選手であるかが分かる。

またそのテクニックとゲームメイク能力の高さは当然としても、近年ではボランチで起用されていることもあって、ディフェンスでの貢献度も極めて高い。

さらに守備的MFのポジションでハットトリックを達成した事からも分かるように、決定力もずば抜けている上、167cmと世界的には大柄という程でもないけれども、ヘディングがめっぽう強い。
おおよそ欠点らしい欠点が見当たらない「コンプリート・フットボーラー」だと言えるだろう。

さらに澤穂希を語る上で欠かせないのが、彼女のその人間性だ。

北京五輪の際、自らの後継者と見込む宮間あやを “苦しくなった時は、私の背中を見なさい” と激励したことは女子サッカーファンの間では有名な話だけれども、そういった名言を抜きにしても、宮間、大野、丸山桂里奈など、澤を慕う選手は多い。

そんなカリスマ・澤穂希が「自らのキャリアの集大成」と語った今大会。

偉大なキャプテンに率いられたなでしこたちがどこまで行けるのか、女子サッカーファンならずとも、是非注目してもらいたいと思う。

ところでこの試合がワールドカップ出場2試合目となった岩渕真奈は、おおむね無難な出来だった。
積極的な突破を見せる場面もあったし、澤の4点目に絡んだプレーなどは良かったように思う。

ただ全体的には少し軽さの感じられるプレーでボールロストするシーンも目立ち、ニュージーランド戦ほどのインパクトは与えられなかった。
それが理由で、押しなべてこの試合での岩渕への評価は、高くはなかったようである。

岩渕はA代表でもベレーザでも、「ピッチの上で遠慮しているのではないか?」と周囲から懸念されている。
確かに年代別代表チームでののびのびとプレーする姿に比べると、大人に混じった時の岩渕は力を発揮しきれていない印象が強い。

実際のところは本人に聞いてみないと分からないけれども、僕なりにこの「遠慮」をもう少し掘り下げてみると、「自信のなさ」と「ちょっとした甘え」が入り混じったような感情が顔を覗かせるんではないかなと考えている。

簡単に言えば、メンタル面で大人になりきれていないということだ(もちろん、18歳という年齢を考えれば仕方ないんだけれども…)。

しかしことメンタルに関して言えば、澤穂希は岩渕にとっても「最高のお手本」になる存在ではないだろうか。

僕は以前、代表にデビューしたての頃、まだ 15歳だった澤穂希の映像を観たことがある。
練習場への道すがら、歩きながらテレビの突撃インタビューを受けた際の澤は「すいません、カメラ、苦手なんで…!」と終始うつむきながら逃げるようにその場を立ち去って行った。

その印象は例えるなら、大変失礼だけれども「クラスに数名いる、目立たない女子」のイメージそのものだった。

そんな澤も代表で揉まれ、また海外生活を経験したことで、人間的にも見違えるように成長を遂げた。
今ではなでしこジャパンの「顔」としてテレビ出演も積極的にこなす。
いつでも顔を上げてハッキリとした口調で受け答えをするその姿は、文句なしの「大人の女性」である。
それでもその姿は、学生時代の澤を知る人に言わせると、「まるで別人のよう」なんだそうだ。

そして僕は、そんな人間としての成長が、プレイヤーとしての澤穂希の成長にも大きな影響を与えたのではないかと考えている。

いま澤穂希は、代表でも精神的支柱と評されるほどの選手になった。

しかしその澤ももう 32歳。
来年のオリンピックまでは代表を続けたとしても、その先はどうなるか分からない。

そして次の世代を担う岩渕真奈には、代表チームで一緒にプレーできるうちに、澤穂希からプレー以外の部分も貪欲に吸収していってほしい。

“日本のレジェンド” 澤穂希の背中を見れる時間は、もうそう長くはないはずなのだから。

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