雑草たちのリベンジ/J2リーグ@横浜FC 1-2 徳島ヴォルティス

 
「2部リーグは難しい」というのは、選手たちの口からよく聞かれる言葉だ。

かつてフランス2部のルマンでプレーした松井大輔や、オランダ2部のVVVフェンロ時代の本田圭佑らは、異口同音にこういった趣旨のコメントを残している。

技術的な部分だけで言えば、2部が1部よりも難しいということはあり得ない。
つまり、2部の難しさとは技術以外の部分、フィジカルやメンタルでのクオリティがより求められるということだ。

2部でプレーする選手たちは総じてハングリーである。
それぞれがここで活躍して、1部のチームに成り上がろうという野心を抱えている。
逆にここで通用しなければ、プロとして通用しない ー。

そんな崖っぷちの”雑草”たちの集合体だから、2部リーグは難しいのだろう。

そしてこの試合は、日本の2部リーグであるJ2の、首位攻防戦でもあった。

リベンジを狙う雑草たち

横浜FCも徳島ヴォルティスも、ここまで開幕から3連勝。全勝同士の対決である。

と言っても昨年の両チームは、徳島ヴォルティスが9位、横浜FCが16位と、パッとしない成績に終わっている。
それだけに、3節終了時点でこの2チームが全勝で当たることは、小さな驚きでもあった。

この両チームは、他の2部リーグ所属チームの例に漏れず、雑草集団である。
特に、J1から「都落ち」した経験があり、その悔しさをバネに、再度J1でのプレーを目指して奮闘している選手たちが多い。

ジーコジャパンで日本代表の秘密兵器であった大黒将志はその筆頭株だけども、大黒以外でも寺田紳一、柳沢将之、田中輝和、津田知宏、平繁龍一、濱田武らはJ1での実績も豊富な上、まだまだ働き盛りの年齢である。
当然、J1復帰にかける思いは強いだろう。

また、J1での経験は1試合しか無いけれども、セレッソ大阪のスーパースター候補生として将来を嘱望されていた柿谷曜一朗も、その一人だと言える。

セレッソの下部組織出身で、07年のU-17ワールドカップでは日本の不動のエースとして君臨した天才児。
しかしセレッソでは、同年代のスターである香川真司と乾貴士の台頭に弾き出される格好でポジションを失い、昨年途中、徳島ヴォルティスに移籍をしてきた。
柿谷もまた、セレッソへの強いライバル心を隠そうとしない。

そんな思いを持った「雑草」たちの ”リベンジ” 、この一戦には、そんな側面も秘められていた。

激しさを増す肉弾戦

 
試合は立ち上がりから、首位決戦にふさわしい攻防となった。

徳島ヴォルティスは津田知宏、平繁龍一らが積極的な突破からチャンスを作る。
また、注目の柿谷は期待通りの輝きを見せ、左サイドのドリブル突破からいくつかの決定的チャンスを演出した。

そして前半11分、津田が自ら倒されて得たPKを決め、徳島ヴォルティスが先制。
この先制点を機に、試合は一気にヒートアップしていく。

ピッチの至る場所で、激しいタックルやぶつかり合いが展開。
ラフプレーすれすれの肉弾戦が繰り広げられたかと思えば、横浜FCの岸野監督、徳島ヴォルティスの美濃部監督ともに、判定をめぐって審判に激しく詰め寄る場面も見られた。
一昔前のJリーグでなら、カードが飛び交う大乱戦となっていたかもしれない。

しかし、今日のゲームはそうはならなかった。

Jリーグも世界に通用する選手の育成を目指す中で、判定も世界基準になってきたと言うことだろうか。
この日の主審、河合英治氏は、少々の激しいプレーには簡単に笛を吹かなかった。
色々と監督や選手からクレームを付けられて気の毒ではあったものの、僕は今日の河合主審の笛には拍手を贈りたい。

激しさがなくては世界では戦えない。
それが2部リーグの試合であれば、なおさらである。

河合主審のジャッジは、そんな激しいプレーが演出される、大きな要因の一つとなっていたと思う。

 
そんな追い風もあり、試合は両チームの勝利に賭ける強い思いがぶつかり合った、白熱した好ゲームとなった。

後半、運動量の落ちた柿谷が島田裕介と交代。
その島田のCKから、津田知宏がニアで合わせて徳島が追加点を挙げる。

しかしホームで負けられない横浜FCも、そこから怒涛の反撃を見せる。

2失点目から6分後、横浜FCはついに右サイドのオープン攻撃から、大黒将志がニアで押し込み1点を返す。

終盤はさらにゴールキーパーまでもが攻撃参加して、猛烈なアタックを繰り返す横浜FC。
それを防戦一方の形で受け止めながら、しかし水際でゴールを割らせない徳島ヴォルティス。

そして後半ロスタイムを5分過ぎた頃、スコアは 1-2 のまま、主審のタイムアップの笛が鳴ったのである。

気迫のぶつかり合った好ゲーム

J2のプレーの質は、確かにJ1と比べれば幾分落ちるのかもしれない。

しかし、激しいぶつかり合いの中でもしっかりとボールをキープし、そこから繋いでチャンスを作った両チームのプレーは、技術レベルの点で見ても、決して低いものではなかったと僕は感じた。

そして技術以上に、両チームの選手、監督たちの気迫が、有り余るほど感じられた好ゲームでもあった。

解説の関塚隆さんが試合後に発した「素晴らしいゲームでした」というコメントに、僕も100%賛同したい。

僕は横浜出身なので、贔屓のチームである横浜FCが負けたことは悔しい。
しかし、本物の好ゲームは勝敗を超える。

両チームが見せてくれた泥臭い死闘は、これぞまさに、2部リーグの醍醐味とも言えるゲームであった。

そしてこういう試合が観れるからこそ、僕は何年経っても、サッカー観戦をやめられないのである。

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