広島を熱くさせた紫軍団/AFCチャンピオンズリーグ@サンフレッチェ広島 1-0 アデレード・ユナイテッド

広島は僕にとっては「おばあちゃん家のある田舎」である。
母方の実家がある関係で、広島は親戚もいるし、ゆかりのある土地でもある。
ちなみに広島の人たちは「熱しやすく冷めやすい」気質だと言われる。
なるほど、言われてみると確かに、うちのオカンも親戚もそんな人たちかもしれない。
これをファン気質に置き換えると、地元プロスポーツチームも強ければ熱狂的に応援するが、低迷するととたんに人気が下降してしまうということだ。
そんな広島をホームにするサンフレッチェ広島は、昨シーズン前までは低迷続きであった。
ホームスタジアムの広島ビッグアーチは5万人収容の大スタジアムながら、サンフレッチェの成績が振るわない事もあって、近年ではビッグアーチが大入りになることは殆ど無かったように思う。
3連敗で迎えたAFCチャンピオンズリーグ、グループリーグの第3節。
サンフレッチェは、ホームにオーストラリアのアデレード・ユナイテッドを迎えた。
ほんの1週間前に行われた敵地での同カードでは、退場者を出しながらも驚異的な粘りで一時は逆転を果たすも、再逆転の末に力尽きたサンフレッチェ。
この敗北によって、ここまで3戦全敗と、グループリーグ突破はかなり厳しいものとなってしまった。
しかし、ミハイロ・ペトロビッチ監督のもと、Jリーグでも屈指の完成度の高いサッカーを身につけたサンフレッチェにとって、現在おかれている状況は到底受け入れられるものではない。
グループ首位のアデレード・ユナイテッドをホームに迎えたこの一戦は、是が非でもサンフレッチェがその底力を見せつける必要のある試合であった。
そしてこの日のサンフレッチェは、一週間前とはまるで別のチームのようだった。
豊富な運動量とパス交換での局面の打開、組織的なプレッシングと体を張った守りで攻守がガッチリと噛み合い、理想とする「考えて走るサッカー」を見事に表現できていたと思う。
とりわけ佐藤寿人、森崎浩司、森崎和幸、高柳一誠、森脇良太、西川周作らは、一様にクオリティの高いプレーを見せていた。
立ち上がりから好プレーを続けていたサンフレッチェは、前半終了間際、CKからのこぼれ球を佐藤寿人が押し込み、ついに待望の先制点を挙げる。
だが相手はさすがの強豪、アデレード・ユナイテッド。
南海の赤い悪魔はこの失点をきっかけに、眠りから目を覚ます。
後半開始早々から、アデレードは猛攻を仕掛けてきた。
彼らの中には、おそらく1-2から3-2と試合をひっくり返した、先週のゲームのイメージがあっただろう。
中心選手のトラヴィス・ドッドは相変わらず見事なプレーで、ドリブル・パス・シュートとあらゆる局面に絡み、彼に率いられたチームは、持ち前のパワフルな攻撃で次々とサンフレッチェゴール前になだれ込んでくる。
しかし、この日のサンフレッチェは一週間前とは違っていた。
アデレードの攻撃を受け止めながらも、彼らも一歩も引かずに前に出る。
サンフレッチェもまた、持ち味のムービングサッカーでアデレード陣内に攻め込み、数々の決定機を作っていく。
その運動量と集中力は、試合の最後まで衰えることはなかった。
両チームの攻守がガッチリと噛み合ったエキサイティングな後半戦は、非常に見ごたえのある展開となった。
そして、結局どちらにもゴールの生まれることの無いまま、試合は1-0でタイムアップ。
サンフレッチェが、喉から手が出るほど欲しかった勝ち点3をもぎ取った。
この試合のサンフレッチェのプレーはとても素晴らしかったと思う。
心・技・体のすべてが、高いレベルで噛み合っていたと言える。
しかし、僕がそれ以上に感動を覚えたのは、この日の広島のサポーターたちだった。
平日のナイトゲームにも関わらず、この日のビッグアーチには1万2千人もの観客が訪れ、彼らのサポートするチームに熱い声援を送っていた。
それだけ、今のサンフレッチェが、 “熱しやすく冷めやすい” 広島県人から見ても、面白いサッカーをやっているという事だろう。
そして、彼らの力が無くしては、この白熱の好ゲームは生まれていなかったはずである。
この日のサンフレッチェサポーターの応援は素晴らしかった。
特に後半は、彼らの声援の熱気がスタジアム全体を包み込み、まるでピッチとスタンドが一体化しているかのような感覚が、テレビを通じてもひしひしと伝わってきた。
このサポーターの声が、選手たちに力を与えたのは間違いないと思う。
この勝利でサンフレッチェの戦績は1勝3敗の勝ち点3。
勝利を挙げたとはいえ、グループリーグ突破は依然厳しい。
しかし、サンフレッチェは結果を気にするよりも、この素晴らしいサポーターたちのために、素晴らしいゲームを見せ続ける事を考えて欲しい。
もし奇跡が起こるとしたら、その先にこそ、待っているはずである。

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