帰ってきた「悪魔王子」、アントニオ・カッサーノ/セリエA@ローマ 1-2 サンプドリア

ローマには「王子」と呼ばれる選手がいる。言わずと知れたフランチェスコ・トッティ。ローマのキャプテンにして稀代のファンタジスタ。端正な顔立ちと風格漂う立ち居振る舞いはまさに王子と呼ぶにふさわしい、ローマの象徴。
そのローマにおいて、かつてトッティの後継者と見なされていた選手がいた。アントニオ・カッサーノ。トッティに負けず劣らずの超絶テクニックを誇る天才児である。
イタリア・セリエA、ローマとサンプドリアの試合は、その両雄が相対する注目の一戦となった。

「悪魔王子」カッサーノ

現在27歳のカッサーノが最初に注目を集めたのは、出身地のクラブASバーリでデビューした17歳の時だった。その抜群のスキルにビッグクラブたちが争奪戦を繰り広げ、2001年夏にカッサーノはローマへと移籍を果たす。ローマで4シーズンプレーした後の2006年には、レアル・マドリードへと初の国外移籍。しかしマドリーでは結果を出せず、失意の末に帰国しサンプドリアへと移籍。ここでトップフォームを取り戻したカッサーノは、現在は再び国内最高級の選手として活躍を見せている。
カッサーノはイタリア随一の問題児としても知られている。これまで所属したチームでは監督との衝突が絶えず、ピッチの外でもたびたび問題を起こした。将来を嘱望されて入団したローマでも才能を高く評価されながら、最終的には監督との諍いを繰り返した末にマドリーに放出されている。
20年近くASローマの中心に君臨する「ローマの王子」トッティと、王子になりそこねた「悪魔王子」カッサーノ。
この試合で最初に結果を出したのは、”正規王子” トッティのほうだった。

カッサーノのリベンジ

立ち上がりから主導権を握ったローマは前半15分、ミルコ・ヴチニッチのクロスにトッティが合わせ先制。その後も攻め続けるローマは、いつ2点目を取ってもおかしくない時間帯が続いたものの決定力を欠き、けっきょく前半は 1-0 のまま終了。結果的にこれがローマの首を締めることとなる。
後半、2人を同時に交代させたサンプドリアはこれが大当たり。試合の流れは一気にサンプドリアに傾き、ローマのゴールへと襲いかかる。
そして迎えた52分、”悪魔王子” がその天賦の才を魅せつける。左サイドでボールを持つと、DFの逆を完璧に突く見事な切り返しから包囲を突破。そこから上げたクロスがジャンパオロ・パッツィーニの頭にドンピシャで合い、サンプドリアが同点に追いついた。
その後もカッサーノは止まらない。超絶技巧のフェイントと急所をえぐるスルーパス、機を見て放つシュートでローマDF陣を翻弄。悪魔王子カッサーノに率いられたサンプドリアは、その勢いでパッツィーニが2点目を叩き込み、逆転勝利でこの試合を制した。
この結果、ローマは3試合を残した段階で首位から陥落。インテルにその座を譲り渡し、9年ぶりのスクデットに黄信号が灯り始めた。逆にカッサーノは、自身のローマへのリベンジを達成したのである。

カッサーノを生んだカルチョの国

この日のカッサーノは素晴らしかった。攻撃の全権を握るサンプドリアの王様として前線に君臨し、何よりも観客を魅了するプレーを連発していた。彼がこれほどまでに素晴らしい選手だったとは、僕も大いに驚かされたほどである。
マルチェロ・リッピ監督との確執から、カッサーノが今年のワールドカップに出場する可能性はほぼゼロに近い。本人もわざわざワールドカップ期間中に自身の結婚式の予定を入れ、「呼ばれてもワールドカップには参加しないね。結婚のほうが大事だからな。」と毒づく相変わらずの悪童ぶりを披露している。
しかし、こういった型破りな選手が代表チーム以外で活躍を見せていることが、イタリアの懐の広さを感じさせる。真面目で品行方正な選手ばかりが良い選手とは限らない。カッサーノのような異端児がいるから、セリエAは面白い。
そしてカッサーノを生み育てたものこそが、100年の歴史を誇るイタリアサッカーの、その芳醇なカルチョの土壌なのである。

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