ジョゼ・モウリーニョは特異な人物である。
まるでハリウッドスターのようなハンサム・ガイでありながら、世界的な名将。
自らを「スペシャル・ワン」と呼び、記者会見では常に対戦チームやマスコミを挑発する発言で物議を醸す。
しかもそれを戦略的な駆け引きとして利用しつつ、同時に一種のショーにも仕立て上げてしまう、知将としての顔とエンターテイナーとしての顔を併せ持つ。
それでいて、選手たちとは絶大な信頼関係を築く「ファミリーの父親」でもある男。
世界中のフットボールメディアが無視することのできない存在。
本人が言わずとも、間違いなく “特別な一人” と言える人物である。
ジョゼ・モウリーニョ、伝説を生んだ最初のチャンピオンズリーグ制覇
モウリーニョはその経歴からして異色の存在だ。
元ポルトガル代表GKを父に持ちながら、自身は怪我もあってプロ選手としての経験は無い。
引退後はいったん教師となるも、指導者を志して転身。
名将ボビー・ロブソンがスポルティング・リスボンの監督だった時代に、その通訳となる。
ロブソンに付き従いFCポルト、バルセロナで通訳を続け、バルサでロブソンの後任となったルイス・ファン・ハールのもとではアシスタントコーチを務めた。
その後に母国ポルトガルに戻り、名門ベンフィカで監督としてデビュー。
ウニオン・レイリアを経て、2002年にFCポルトの監督に就任。
ここでモウリーニョは、のちに伝説となるほどの成功を収めることになる。
02-03 シーズン、ポルトはモウリーニョの指揮のもと国内リーグとカップ、UEFAカップの3冠を達成。
彼の就任以前は不振にあえいでいた名門が、国際舞台でも完全復活を果たした。
しかし、ポルトの快進撃はこれだけに留まらなかった。
モウリーニョを語る際に、絶対に外すことのできない 03/04シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ。
この年の決勝トーナメントは、1回戦でポルトとマンチェスター・ユナイテッドとの対戦が組まれていた。
当時僕はこのゲーム前、チャンピオンズリーグという最高峰の舞台では弱小とみなされていたポルトに対して、「絶対勝てないような試合に挑む彼らは気の毒だな」というようなことを考えていたのを覚えている。
しかし結果的に、僕のこの考えは全く浅はかとしか言いようの無い、見当違いの大間違いだった。
この対戦でポルトは、マンUを破るという大金星を挙げる。
そしてあれよあれよの快進撃で、何とチャンピオンズリーグ優勝という快挙を成し遂げてしまうのであった。
モウリーニョ、チェルシーとインテルで築き上げた黄金時代
ジョゼ・モウリーニョは、一躍時の人となった。
デコやリカルド・カルバーリョなど、選手の多くはその後にヨーロッパの強豪チームへと移籍を果たしたものの、当時は全くの無名軍団。
そんなチームが並み居る強豪を押しのけてヨーロッパチャンピオンに輝いてしまったのだから、世界中に衝撃が走ったのは言うまでもない。
そのサプライズの原動力となった指揮官の存在に、ヨーロッパ中のビッグクラブから熱い視線が注がれた。
そしてチャンピオンズリーグ優勝を手土産に、モウリーニョはイングランドのチェルシーへと移籍する。
当時、クラブオーナーのロマン・アブラモビッチが天文学的な資金を投入し、大量補強に乗り出していた渦中のチェルシーは、そのスター軍団の指揮官にモウリーニョを抜擢したのである。
結果的にこのチョイスは大成功だった。
モウリーニョはフランク・ランパードやジョー・コールなどの才能を開花させ、ディディエ・ドログバやマイケル・エッシェン、ペトル・チェフらをイングランドへ呼び寄せた。
そして彼らを世界的なスーパースターへと成長させるとともに、チェルシーをプレミアリーグ2連覇やFAカップ・リーグカップの2冠に導くなど、真のビッグクラブへと育て上げたのである。
その後、補強の方針などをめぐってアブラモビッチオーナーと対立したモウリーニョは、志なかばでチェルシーを去る。
そして08/09シーズンからはイタリアに渡り、インテル・ミラノの監督に就任。
昨季はセリエA4連覇に貢献した。
見事にハマった「バルサ対策」
モウリーニョの監督としての才能に疑いの余地はない。
緻密なデータ分析と洞察力に優れた稀代の戦術家であり、その才気あふれる采配でこれまでも数々のタイトルを手にしてきた。
この日のバルセロナ戦でも、モウリーニョの采配は光っていた。
バルサのエースであるリオネル・メッシを、インテルDF陣は徹底的にマーク。
ゴール前で特に危険な存在となるメッシに、ペナルティエリア付近でほとんど仕事をさせない戦術をとる。
もちろんバルサはメッシだけのチームではないけれども、それでもメッシを封じれば、バルサの攻撃力は半減する。
その場合にキーマンとなってくるズラタン・イブラヒモビッチもゴール中央で孤立させられ、この日はほとんど何も仕事をさせてもらえなかった。
それでもディフェンディングチャンピオンのバルサは底力を見せて、前半 19分にペドロ・ロドリゲスのファインゴールで先制する。
しかしインテルは慌てなかった。
低めのラインで守備のブロックをしっかりと構築し、バルサにボールを回させながらも最終ラインは割らせない。
前線のゴラン・パンデフやサミュエル・エトーも献身的に守備に参加して、バルサに追加点を与えなかった。
そして前半30分、バルセロナ DFダニエウ・アウベスのポジショニングミスを突いてウェズレイ・スナイデルが同点弾を叩き込むと、後半にもカウンターから2点を追加してインテルが逆転。
そのまま 3-1の快勝で、試合を締めくくったのである。
まさに絵に描いたようにハマったバルセロナ対策。
アイスランドでの火山の噴火の影響から、バルサがバスによる長距離移動を強いられたというハンデはあったものの、それを差し引いても、この日のインテルはバルサの良さを見事なまでに封じ込めていた。
予測不能の 2ndレグ
とは言え、3-1 というスコアは非常に際どいスコアでもある。
バルサにはカンプ・ノウでインテルを 2-0 で下す力は充分にあると言えるし、インテルもまた、アウェーでバルセロナを1点差以内に封じる力はあると言えるだろう。
28日の 2ndレグがどちらに転ぶかは、現時点では全く予想がつかない。
もう一方の準決勝を戦うバイエルンとリヨンの力は、バルサとインテルに比べれば一段落ちる。
来週カンプ・ノウで行われる試合は、今シーズンのクライマックスとも言える決戦になるだろう。
最後に笑うのは「史上最強チーム」と謳われるバルサの組織力なのか、それとも「スペシャル・ワン」ジョゼ・モウリーニョの知略だろうか。
次の 2ndレグからは、絶対に目が離せない。
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