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それは 90分のうちの、ほんの一瞬の出来事だった。
第 29節、佳境に入ったJ1リーグ。
今節では、現在首位を独走する名古屋グランパスと、2位でそれを追う鹿島アントラーズとの直接対決が実現した。
そしてその「首位攻防戦」の行方を左右したのは、名古屋グランパスが見せた、ほんの一瞬の「隙」だったのである。
名古屋グランパスが見せた「一瞬の隙」
今季のJ1リーグのタイトルは、半ば名古屋グランパスの手に収まりかけていたと言ってもいい。
残り6試合を残した段階で、2位鹿島アントラーズとの勝ち点差は実に 11。
早ければ来週にも優勝が決まる可能があった。
それを追うアントラーズとしては、このホームでの直接対決で何としても名古屋を叩き、その望みを繋げたいところだっただろう。
しかし前半、その思惑は空振りに終わる。
やはり名古屋は強かった。
序盤から名古屋グランパスは、手負いの鹿島アントラーズを半歩上回るゲーム運びを見せたのである。
アントラーズもチャンスを作ってはいたものの、より際どい場面は名古屋の側にあった。
追い風はわずかに、しかし確実に名古屋に向かって吹いていた。
しかしその風向きが、一瞬だけ逆風に変わる。
後半に入った 59分、名古屋グランパスが中盤で攻撃に掛かろうとしたところ、そのボールをかっさらったのが鹿島アントラーズの左サイドバック、ジウトンだった。
ここまでの名古屋グランパスは、ほぼ完璧な守備を見せていたと言っていい。
守備の要のトゥーリオはコンディション不良でベンチスタートだったけれども、代役の千代反田充も安定したディフェンスを披露。
その千代反田を含むバックラインの4人と GK楢崎正剛、さらにボランチのダニルソンと中村直志まで、この日はとても集中力の高い守備を実践していたように思う。
しかしその強固なディフェンスラインが、この試合でたった一瞬だけ、明らかに狼狽した姿を見せる。
ジウトンのプレスからのショートカウンターに、瞬間的に動揺の色を見せた名古屋グランパス。
その守備陣の出足が遅れた間隙を突いて、ジウトンからパスを受けたのが、エースストライカーのマルキーニョスだった。
後手に回った名古屋のディフェンスラインのギャップを切り裂くような弾道が、マルキーニョスの右足から放たれる。
サムライを連想させるようなヘアースタイルと眼光を持つ、本物のゴールハンター。
そのマルキーニョスの “居合い抜き” のような一発が、楢崎正剛が伸ばした右手、その先の空間を突き破った。
首位を快走する名古屋グランパスの、鉄壁のディフェンス陣が見せた「一瞬の狼狽」。
その隙を見逃さなかった現王者、鹿島アントラーズの老獪さが、奇跡の逆転優勝へと望みをつなぐ、エースの一撃を生んだのである。
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