継承される「守護神のDNA」/J1リーグ@名古屋グランパス1-1 横浜マリノス


Photo by Guwashi999

楢崎正剛の代表引退は、突然のことだった。

僕も観戦した先日のグアテマラ戦を最後に、10年以上に渡って代表選手としてプレーしてきた楢崎正剛が、日本代表からの引退を表明。

直前でポジションを失ったワールドカップが終わって以降、この試合が自身最初の代表戦。
故郷の奈良に近い大阪での試合だということが関係したのかどうかは分からないけども、結果的に楢崎にとっては、これが最後の代表戦になった。

僕にとって楢崎正剛は、高校時代からそのプレーを見続けてきた選手になる。
また個人的にもほぼ同世代だということもあって、特に思い入れの強いプレーヤーの1人でもある。

GKというポジション柄を考えても、まだまだやれるはずだというのはほとんどの人が感じていることだろう。

ただ、二十歳そこそこならともかく 34歳の男の決断が、そうやすやすと覆るような軽いものではないこともよく理解できる。

僕も本音を言えばまだまだやってほしい気持ちはあるけれども、それでもここはあえて「お疲れ様」と言いたい。

それにまだ、彼のプレーそのものが見られなくなったわけではないのだから。

楢崎正剛の若き後継者候補たち

しかし、楢崎の代表引退を悲しんでいる時間はない。
残された僕たちが考えなければいけないのは、「楢崎正剛の後継者は誰になるのか」という未来についてのことだろう。

もちろん、これに対するアンサーのポールポジションにいるのが、川島永嗣であることには疑いの余地がない。

ワールドカップで楢崎正剛からポジションを奪い、大活躍を見せた新守護神。
4年後には 31歳と脂の乗った年齢になる川島が、ブラジル大会でもゴールマウスを守る可能性は極めて高いと言える。

しかし、未来に何が起こるのかは誰にも分からない。
それに代表の強化のためには、健全なポジション争いも推奨されるべきだろう。

それでは、川島永嗣に続く代表守護神候補の2番手3番手は、いったい誰になるのだろうか。

僕の中では3人の候補がいる。

1人はサンフレッチェ広島の西川周作。
もう1人は FC東京の権田修一。
そして残る1人が、横浜マリノスの飯倉大樹だ。

ちなみに川島も含めた4人の中で、飯倉は唯一、代表経験がない。
それもA代表はおろか、年代別の代表経験すらない「無印」の選手である。

更に、他の3人が体格に恵まれた本格派の GKなのに対して、飯倉大樹は公称 180cm。
GKとしては小柄な部類に入ると言っていいだろう。

しかしそれでも僕は、飯倉のプレーに一目置いている。

若さゆえのイージーミスも目立つけれども、ツボにはまった時の飯倉は、持ち前の反射神経でビッグセーブを連発できるポテンシャルを持っている。
その姿は時に、マリノスの偉大な先輩である川口能活をも彷彿とさせる。

まだ荒削りな選手には違いないけれども、4年間の成長によっては、もしかしたら大化けするかもしれない。
僕はそんな期待を飯倉大樹に抱いている。

そしてこの日のグランパス x マリノス戦は、楢崎正剛と飯倉大樹、その新旧守護神が直接対峙をする一戦となった。

一進一退、白熱の攻防戦

序盤にまずペースを握ったのは、ホームの名古屋グランパスだった。

ここまで2位に7ポイント差をつけて首位を走るグランパスは今、チーム史上最も明確に「優勝」を視野に入れていると言ってもいい。

しかし対する横浜マリノスも、ワールドカップ以降尻上がりに調子を上げて、前節まで3連勝中。
グランパスにとってはやっかいな難敵として、その眼前に立ちはだかった。

立ち上がりはエンジンのかからなかったマリノスも、徐々にペースを握り返すと、時間とともに試合はほぼ互角の展開になっていく。

この試合、グランパスのストイコビッチ監督が最も警戒していたのは、やはりマリノスのキーマン、中村俊輔だった。

自身も現役時代にはファンタジスタとして知られたストイコビッチだけに、同じように観客を魅了できるゲームメーカーである俊輔の怖さは、身にしみて理解していたことだろう。

しかし結果的に、その警戒は功を奏さなかった。

ここ数試合は絶好調の中村俊輔は、この試合でもまさに「キング」と呼ぶべき風格で、山瀬功治や兵藤慎剛などの副官たちを自在に操っていく。

そして 23分、その中村俊輔の左足から、絶妙なクロスがファーサイドに送り込まれる。

これに合わせたのは、オーバーラップした右サイドバックの天野貴史。
天野がこれをスライディング気味に押し込んで、アウェーの横浜マリノスが、早い時間帯に先制点を奪ったのである。

さすがの楢崎正剛にも防ぎようのなかった見事なゴール。

中村俊輔が、その千両役者ぶりを見せつけた一発だった。

しかし、ホームで負けられないグランパスもここから反撃に打って出る。
その後は立て続けにチャンスを作り、次々とマリノスゴールに襲いかかった。

しかしこのピンチを救ったのが、マリノスの若き守護神、飯倉大樹だった。

飯倉のビッグセーブとDF陣の体を張った守りもあって、結局マリノスは前半を無失点で折り返すことに成功する。

しかし後半立ち上がり、そのマリノスの堅陣はあっさりと突き破られた。

48分、ロングフィードに反応し、ヘッドでこれをクリアーしたのは松田直樹。

しかし松田のこのクリアーは当たり所が悪かったか、ボールが前ではなく真上に飛んでしまう。

慌てて処理にかかる松田。
しかしそれより早く落下点に入り込んだのが、名古屋グランパスの若きエース候補生、金崎夢生だった。

金崎はこの浮き球を膝でワントラップすると、そのまま倒れ込みながら右足を一閃。
このボレーシュートは弾丸ライナーとなって、見事にマリノスゴールに突き刺さったのである。

この試合を視察したザッケローニ代表監督にも強烈なアピールになったであろう一発。

このスーパーゴールで、ついに名古屋グランパスが同点に追いついた。

その後は両チームが勝利を目指して、積極的にゴールを狙い合うオープンな展開となる。

攻守がめまぐるしく入れ替わる激しいアタック合戦はしかし、両チームの守護神の活躍によって、お互いが失点を許さない緊張感ある展開となった。

飯倉大樹がグランパスのミドルシュートをファインセーブすれば、楢崎正剛も終盤のマリノスの猛攻を立て続けにビッグセーブ。

結局その後ゴールが生まれることはなく、試合はドローで終了。
1-1のまま、両チームが勝ち点1を分け合うことになったのである。

飯倉大樹の得た自信と経験

この引き分けの結果、名古屋は依然首位をキープ。
対するマリノスは7位に後退したものの、3位セレッソ大阪との勝ち点差はわずか2、というところまでポイントを積み上げた。

この試合は両チームのタレントたちが持ち味を発揮した、まさに上位対決に恥じない好ゲームとなった。

しかしその中でも、僕が攻撃の選手たち以上に目を引かれたのは、両チームの2人の守護神である。

代表を退いた楢崎正剛と、代表経験のない飯倉大樹。

この2人のゴールキーパーは、今のところ日本代表とは縁遠い存在だ。

しかし飯倉大樹はこの日、偉大な先輩とハイレベルなセービング合戦を繰り広げたことで、貴重な経験と自信を得たのではないだろうか。

体格のハンデを背負う飯倉が代表のゴールマウスを守るためには、今後も相応の努力が必要になってくるだろう。

しかし飯倉がそれを成し遂げることができたら、日本には1人の興味深い守護神が誕生することになる。

飯倉大樹は楢崎正剛の背中から何を学んだのだろうか。

そしてそこから得たものが、今後の飯倉の成長に繋がってくれることを、僕はほのかに期待しているのである。

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