「うっちー、イイネー!」。
テレビの前で、思わず声が出た。
内田篤人はいい選手だ。
いや、いい選手に「なってきている」と言ったほうがいいだろうか。
ドイツに来て以降、内田は確実に変わった。
そして UEFAチャンピオンズリーグという大舞台で、内田はそのポテンシャルの片鱗を見せつけたのである。
決勝トーナメントの舞台に立った内田篤人
2010年のワールドカップ以降、日本人選手の評価はうなぎ昇りだそうだ。
香川真司、長友佑都など、半年前からは考えられないほどの大出世を果たした選手も出てきて、いまヨーロッパのフットボール界は「プチ日本ブーム」に湧いている。
そして今や、10人を越える日本人選手たちが、欧州のメジャーリーグでプレーするような時代がやってきた。
その中の一人、内田篤人は、半年前まではディフェンスの苦手な選手だった。
サッカーセンスはあれども線が細く、カバーリングの判断が遅い。
屈強なファイターの揃うブンデスリーガで、本当にやっていけるのかといぶかしがる声が挙がるのも不思議ではなかった。
しかしそんな内田篤人が、確実に進化していることが、このチャンピオンズリーグ対バレンシア戦では垣間見えたのである。
試合は立ち上がりからホームのバレンシアペース。
しかし、徐々にシャルケが盛り返す展開。
そんな中、内田篤人はディフェンスで光るものを見せる。
速い寄せと的確なカバーリング。
今シーズンここまでを通じて内田の試合を見続けてきた僕は、その姿に目を細めた。
「やるじゃん、うっちー!」。
誰もが認める甘いマスクにスマートなスタイル。
高校は県下有数の進学校で、しかもサッカーでは日本代表。
ボールを持たせたら天性のトラップセンスと繋ぎの上手さ、正確なクロスを見せる。
性格も良さそうだし、余談だけども動物のことにも詳しいらしい。
そのうえ課題のディフェンスまで克服したなんて言ったら、天はうっちーに何物(なんぶつ)を与えたんだよコレ!!
…と、一人でよく分からないがテンションが上がってしまった僕に、強烈な冷水が浴びせられたのは言うまでもない。
17分、内田のマークの受け渡しが遅れたところを、バレンシアの左サイドバック、ジェレミ・マシューにぶっちぎられて、そのクロスから失点。
哀しいかなまたも、内田篤人は失点に絡んでしまったのだった。
しかし、この日のシャルケと内田は冷静だった。
失点に気落ちすることなく粘り強いディフェンスを見せ、反撃の機会を伺うシャルケ04。
そして、ついにやってきた絶好機を、あの天才ストライカーが物にする。
中盤で実に8本のパスを繋いだシャルケは、左サイドでボールを受けたフラードが、意表を突いたワンタッチでクロスを上げる。
これをゴール前で受けたのが、ラウール・ゴンサレスだった。
ラウールはトラップひとつでディフェンダーの裏をとる絶妙なタッチを見せると、その刹那、黄金の左足を振り抜く。
これがゴール隅に転がり込んで、シャルケが貴重なアウェーゴールで 1-1の同点に追いついたのである。
その後は猛攻を仕掛けてきたバレンシアだったけれども、内田をはじめ、シャルケのディフェンス陣も集中力の高い守りでこれを跳ね返す。
けっきょくこのファーストレグは 1-1のドロー。
引き分けながら、アウェーゴールを挙げたシャルケが確かな手応えを掴んで、ホームでのセカンドレグに繋いだ格好となった。
マイペースなシンデレラストーリー
内田篤人はこの試合で、日本人としては中村俊輔・本田圭佑に続く3人目の、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントに出場した選手になったそうだ。
もちろん、これは快挙には違いない。
ただし、来週にはおそらく長友佑都が4人目として名を連ねる。
日本人がどんどん海外へと進出を図っている昨今だけに、近い将来には、これはそれほど珍しいことでは無くなっているだろう。
それでも、チャンピオンズリーグのベスト8に進出したと言うのであれば、話はまた違ってくる。
これを達成した日本人は歴代で1人、本田圭佑しかいない。
そして内田篤人は、その高みへと登る階段に片足をかけた。
マイペースな内田からは、「偉業」のイメージは漂ってこない。
しかし長友佑都や香川真司ほどの派手さはなくても、内田は内田なりの成功物語を綴ろうとしている。
それは内田だけが持つ、彼だけのシンデレラストーリーになるはずだ。
[ 関連エントリー ]