Jに吹いた南アフリカからの「熱風」/J1リーグ@セレッソ大阪 3-0 モンテディオ山形

遅まきながら今日、先週に放映された『情熱大陸 サッカー緊急特別編』を観た。
遠藤保仁と松井大輔が、ワールドカップでの激闘を振り返ったあの回である。

2人とも情熱大陸は初登場ではないので、半ば総集編的な編集がなされていたけれども、ワールドカップ後のインタビューも新たに追加されていて、なかなかに興味深い内容だった。

この番組の冒頭、遠藤の登場するシーン。
ここではワールドカップ前に放映された、本人へのインタビューのシーンが再び流されていた。
そしてこの中で遠藤が、印象的なフレーズを口にしている場面がある。

「日本がまた、サッカーフィーバーみたいな…(ワールドカップから)帰ってきた時にそうなっていれば、一番嬉しいかなぁとは思います」。

果たしてその希望は、現実のものとなった。
番組では日本代表が帰国した際の、関西国際空港での “お出迎えフィーバー” の様子が取り上げられ、それが「戦う前、代表チームに浴びせられた罵声と同じ温度で向けられる、気まぐれな歓声」というスパイスの効いたナレーションとともに紹介された。

そう、それはまさにフィーバーだった。

そしてその熱病は、ワールドカップが終わった今でも、日本列島を冷めやらぬ熱気で包んでいるのである。

セレッソの誇る若きエース、乾貴士

ところでこの週末に僕は、久しぶりにJリーグの試合を観に行った。

きっかけは、会社の人にセレッソ大阪主催試合の、いわゆる無料招待券をもらったことである。
ただ有効期限の関係上、使えるのはこの日のモンテディオ山形戦のみ。
ということで、3月の大阪ダービー以来のセレッソの試合を観に、この玄人好みのカードに足を運んでみた。

長居スタジアムに到着した時、まだ日の沈んでいない夕方の大阪は、まさに直射日光ギラギラの日活青春映画状態。
ただキックオフの頃にはちょうど太陽も落ちてきて、スタンドで観るぶんには快適な環境での観戦となった。

セレッソ大阪 VS モンテディオ山形@長居スタジアム_201007_01

試合のほうはと言えば、立ち上がりからアクセル全開のセレッソが、ほぼ一方的に押しこむ展開。
しかし再三の決定的チャンスを決めきれずに、前半はけっきょくスコアレスで折り返すことになった。

後半になってようやく歯車の噛み合ってきたセレッソは、前半には決定機でシュートミスをするなど空回り気味だった FWアドリアーノが、満を持して先制点をゲット。
続いて期待の若手である乾貴士、清武弘嗣の2人が加点して、けっきょくホームチームが 3-0で危なげ無く勝利を収めた。

試合中@セレッソ大阪 VS モンテディオ山形_201007

セレッソとしては快勝と言っていいスコア。
ただし、多くの決定機を外したその内容には、若干のフラストレーションも残った。
特に乾は、1点は取ったたけれども、「もっと取れたんじゃないか」というのが僕の感想である。

同い年の香川真司はワールドカップのサポートメンバーにも残り、一足早くヨーロパの舞台へと飛び立っていった。
ただ個人的には、サッカーセンスだけで比較をすれば、香川よりも乾の方が上だと思っている。
その乾が香川に遅れをとっている最大の理由は、その得点力の部分にあるのではないだろうか。

昨年のJ2でも、香川が 44試合出場で 27点を取って得点王になったのに対し、乾は 47試合出場で 20得点。
J1に昇格した今季は、ワールドカップの中断前までで香川が7得点を挙げて得点ランク2位タイだったのに対して、乾は何とノーゴール。意外にもこの山形戦でのゴールが、第 14節にして今季の初ゴールだったのだ。
乾のそのポテンシャルを考えると、何とも物足りない数字である。

この試合でも、乾はシュートを打てる場面でタイミングが遅れて、けっきょくいい形で打てずじまい、というシーンが何度か見られた。
しかし乾には、こういう場面でも強引にでもシュートを打っていくような貪欲さが欲しいと僕は感じた。
そういうプレーを実践し、得点力がアップすれば代表入りも夢ではないだろう。
本来の彼は、それくらいの才能を持った選手だと僕は思っている。

長居を襲ったワールドカップの熱風

ともかく、この試合を快勝で終えたセレッソ。
ファンの僕としては、それなりに満足感を得られる試合ではあった。

ところでこの試合で、僕がゲーム内容と同じくらい気になったのが観客席である。
実はこの日の昼間にネットを見ていると、『セレッソ大阪、カテゴリー5自由席「完売」』というニュースが飛び込んできたのだ。

僕としては青天の霹靂である。
いくら山形に元・セレッソの選手が多いとは言っても、ローカルクラブであるモンテディオとの対戦で、4万7000人収容の長居のチケットが完売するとは夢にも思っていなかったからだ。

幸い、僕のもらったチケットは「引換券」ではなく「入場券」だったため普通に入場することができたのだけども、カテゴリー5自由席はさすがの満員御礼状態で、ほとんどの席は観客で埋め尽くされていた。

でも…ん?なんか違和感を感じるんだけど??
僕の感じた違和感の正体はこれである。


バックスタンド自由席

メーンスタンド指定席

そう、自由席はほぼ満席なのに、指定席はガラガラの閑古鳥状態。
この日の長居では、まるで日曜日のオフィス街と繁華街、あるいは平日の都心部とベッドタウンのような、見事なまでの2極分化・スタジアム内「アツアツ」ドーナツ化現象が起きていたのだ!

僕もこれまで、何度もスタジアムでサッカー観戦をしたことはあるけども、こんな風景はあまりお目にかかった記憶がない。
その珍妙さを裏付けるかのように、この日の入場者数は自由席が完売したにもかかわらず、キャパの半分にも満たない 19,880人。
うーん夏真っ盛りとは言え、これはまさに「世にも奇妙な物語」である。

しかし、何でこんな現象が起こったのだろうか?
一つは僕と同じ「有効期限切れ前に滑り込み」の招待券ユーザーがいたことだろう。
ただ、そこまで大量に無料チケットがばら蒔かれていたとも思えない。

そこで考えられるのは、やっぱり「ワールドカップフィーバー」である。

ワールドカップのあと初めてのホームゲームということで、代表戦でサッカー熱の高まったライトユーザー層が、たくさん長居におしよせたのではないか、と僕は睨んでいる。
遠藤の目論見は、見事にスタジアムにも反映されたと言えるだろう。
占いタコのパウルくんにも匹敵する驚異の予知能力。ヤットくん恐るべしである。

ただ、情熱大陸のナレーターさんの言葉を借りるまでもなく、フィーバーはいつでも気まぐれなものだ。
この日に足を運んでくれたお客さんたちが、次もまたスタジアムに来てくれる保証は全くない。
彼らを再びスタジアムに呼び込むことができるかどうか。運営側としてはそれが肝心になってくるだろう。
幸いその点でもこの試合の内容は、訪れた人々に概ね良い印象を与えられたのではないだろうか。

あとはこれを、どう続けていくことができるかである。

気まぐれなフィーバーの風向きは予想がつかない。
サッカー以外に面白そうな娯楽が見つかれば、全国のライト層はいっせいにそちらに走るだろう。

とりあえず今はサッカー界に吹いているであろう、南アフリカからの追い風。

暑い夏を過ぎた頃にも、Jリーグはこの熱風の温度を維持することができるのだろうか。

この夏のリーグ最大の課題は、たぶんそこにあるんじゃないか、と思った僕なのだった。

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