「悪魔」に屈した悪魔/UEFAチャンピオンズリーグ@バイエルン・ミュンヘン 2-1 マンチェスター・ユナイテッド

この10年間で、最も劇的だったUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦は?と聞かれれば、僕の場合はリパプールがACミランに0-3から追いついて、PK戦の末に大逆転優勝した2005年の一戦を挙げる。

ではその前の10年間では?

色々な意見があるだろうけど、多くの人が、99年の決勝戦を挙げるのではないだろうか。

この年、決勝で対戦したのが、マンチェスター・ユナイテッドとバイエルン・ミュンヘンだった。

試合は前半早々の6分にバイエルンが先制点を挙げ、オリバー・カーンを中心とした堅守で、デビッド・ベッカム率いるマンUを、試合終盤まで無失点に抑えていた。

このままバイエルンの逃げ切りかー。

多くの人がそう感じた後半ロスタイム、マンUはベッカムのCKからテディ・シェリンガムのゴールで同点に追いつくと、さらにその直後、再びベッカムのCKからオーレ・グンナー・スールシャールが逆転のゴールをたたき込む。

後半ロスタイムに2点を奪い、「カンプ・ノウの奇跡」とも呼ばれた大逆転勝利で、マンUが2度目のヨーロッパチャンピオンに輝いた試合である。

そして今年のチャンピオンズリーグ準々決勝。
この因縁の両チームが、再びヨーロッパの舞台で相まみえた。

ゲームを支配したマンチェスター・ユナイテッド

バイエルンのホームで行われた 1stレグのこの試合は、11年前と同じような形で幕を開ける。

先制したのはマンチェスター・ユナイテッド。
前半2分。

右サイドのFKからウェイン・ルー二ーが挙げたこの得点で、あっけない形でマンUがスタートダッシュに成功する。

慌てたバイエルンは見るからに混乱し、ここからはマンUがバイエルンゴールに襲いかかる、一方的な試合展開となった。

右ウイングのナニ、そしてルー二ーがたびたび決定機を作っては、バイエルンGKヨルク・ブットを脅かし、2点目、3点目がいつ入ってもおかしくないような時間帯が続く。

しかし、結果的に2点目は入らなかった。

そしてその大きな代償を、このあとマンUは支払う事になる。

前半も 30分ほどが過ぎた頃から、ようやくバイエルンは落ち着きを取り戻し、フランク・リベリーやマルク・ファンボメルがゴール前に進出しては、何度かチャンスを作れるようになる。

後半に入ると、さらにバイエルンは攻勢を強めていった。

しかし、バルセロナと並ぶ優勝候補筆頭であるマンU。その牙城は堅い。

なかなか決定機を作りきれないバイエルンに対して、多少「流し」ながらも、虎視眈々と2点目を狙っていたようにも見えるマンU。
欧州の名門同士の両チームだが、やはり現在の力は、マンUが一枚上なのかー。

しかし、格上がいつも勝つとは限らないのがサッカーである。

“赤い悪魔” の異名をとるマンチェスター・ユナイテッド。
その彼らに襲いかかったのは、自らの内に潜む、もう一人の “悪魔” であった。

不屈の「ハンター」、イビチャ・オリッチ

77分、マンチェスター・ユナイテッドがクリアボールの処理のミスから与えた、ゴール前での FK。

フランク・リベリーが蹴ったこのFKは、壁に当たって方向が変わり、バイエルンにラッキーな形での同点ゴールが生まれる。

マンUにとっては「まさか」の一発。
彼らは己の不運を嘆いた事だろう。

しかし、不運は一度では終わらなかった。

同点のまま迎えた後半ロスタイム。
そこに、もう一匹の “魔物” が待っていた。

バイエルンのマリオ・ゴメスが、ゴール前中央から強引な突破を試みる。
マンUディフェンス陣がこれを阻みにかかると、ゴメスが転倒。

ファールか!?と思われたその刹那、一瞬足を止めてしまったのはマンUのディフェンダーたちのほうだった。

しかしその中で、唯一、時計の針を止めていなかった男がいる。

バイエルンのFW、イビチャ・オリッチである。

こぼれ球をかっさらった「ハンター」は、一気にゴール前に突進しては、左足を一閃。
その弾道はGKの脇をかすめ、マンUゴールに突き刺さったのである。

レフェリーはこのゴールを認め、バイエルンに逆転ゴールが生まれた瞬間だった。

歴史は繰り返された。
しかし、11年前とは逆の形で。

バイエルン・ミュンヘンの土壇場の逆転勝利で、このドラマチックなゲームの幕は下りたのである。

「悪魔」に屈した悪魔

この奇跡の逆転劇を生んだのは、一つにはもちろん、バイエルンの最後まで諦めないファイティング・スピリッツにあった事は間違いない。

しかし、この試合を真に決定づけたのは、また違う要因であったように僕は感じた。

それはマンチェスター・ユナイテッドの内面に潜む「闇」の部分。

このゲームの本当の主役はバイエルンではなく、敗れたマンUが 88分間見せ続けた、攻守にわたる隙。

それを生み出した、彼らの中に棲む ”油断” という名前の悪魔であった。

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